百合の勇者になった幼馴染が面倒くさい
お試し的なネタを短編で投稿。
好評なら続くかも、と言いながらネタが浮かべば好評ではなくとも続くかも。
王国領の片隅にあるクレインという村で生活をしている俺は今日も今日とて鍬を手に畑へと向かう。のではなく、杖を手に持って村の中心にある石碑へとやって来た。
この石碑は古くからこの村にある石碑で、魔物除けの魔法を発動し続けるのに必要らしい。爺さんがそう言っていた。婆さんもそう言っていた。父さんは知らん。母さんも知らん。
とにかく、その石碑による魔物除けの魔法の維持が俺のこの村での仕事で役割だ。爺さんと婆さんが引退してからは俺がずっとそうしている。
その役目を全うする人間のことを守り人、というらしい。これは石碑を守るのではなく、刻まれた碑文を守るからこその守り人らしい。
だから毎日石碑の様子を見て、碑文を読み、術式を解析し、必要ならば術式の修復をする。
今日も変わらず、そうするために朝から石碑の前に立っている。
「今日もお疲れ様。無理はしないようにするんだよ」
「ハイネ、毎日毎日頑張ってるな!いや、これなら俺たちも安心だ!」
「畑の世話は儂らに任せて、お前さんは石碑のことに集中するんじゃぞ」
「ハイネ兄!これ母さんがお昼にって!!」
石碑の前に立つだけでこれだ。
村人の多くがこの石碑の重要性を理解し、その魔法の維持が出来る俺のこと色々と気にかけてくれている。
「はいよ。そういう皆もいつも畑仕事頑張ってくれてるからこの村の人間としては助かってるよ。それとケリィ、それは有難く昼に頂くから置いておいてくれ」
そう返事を返してからそれぞれが好意的な反応を示してくれたことを確認してから石碑に手を当てる。
すると意識がすっと違う場所に沈んでいくような感覚を覚える。
石碑に刻まれた碑文は外から見て読むのではなく、こうして意識を違う場所、碑文の中に沈めることで脳裏にその内容が浮かんでくる。
この碑文は未来の予言や術式、技術などが示されている。だがこれを解読するのは簡単なことではない。
世界中にこの石碑のように碑文が刻まれた物が存在するが、解読に挑戦した物は多くとも成功した物は少ない。らしい。
俺としては挑戦している間に解読出来れば儲け物。程度に考えているのでそう躍起になって解読しようとはしていない。
俺の仕事は石碑による魔物除けの魔法を維持し続け、この村を安全にすることだ。
そうしたことを頭の片隅で考えながら、碑文の解析に挑んでいると肩を叩かれる感覚に意識が引き上げられた。
何かあったのかと思い、振り返るとそこには本来であればこの村にいるはずのない人物が立っていた。
「やっほー!久しぶりー!元気してた?」
ニッと笑ってそんなことを言ってきたのは、俺の幼馴染の一人で、勇者に選ばれて村を旅だったはずのエレナだった。
「いやー、村に戻ってハイネが何処にいるのか聞いたらこの石碑の守り人になったって聞いてびっくりしちゃったわ!」
どうしてエレナが村に戻って来ているのだろうか、と疑問を浮かべている間にもエレナは言葉を続けている。
「あたしも勇者になって色々頑張ってるけど、ハイネも頑張ってるみたいで感心感心!」
そんなエレナの後方にはイケメン集団がいて、剣呑な目で俺を見ている。ような気がする。
「エレナ」
「ん?何かしら?」
「あのイケメン集団は?」
イケメン集団、という言葉を聞いてエレナの動きが止まった。
そして嫌そうな表情を浮かべて一言。
「あたしの旅の仲間」
「その表情で仲間って言うのか……」
「あたしにだって思うことがあるのよ!」
「あぁ、はいはい。まぁ、それは置いておくとして。百合の勇者様がどうして田舎の村にまで戻って来たんだ?何かあったのか?」
嫌味を言っているように聞こえるかもしれないがそういった意図はない。
単純にどうして戻って来たのかが気になっただけだ。
「ハイネまでその呼び方しないでよ。あっちに行っても百合の勇者。こっちに行っても百合の勇者。何処にいっても百合の勇者。あたしにはエレナって名前があるっての!」
「でもお前、百合好きじゃん」
「好きだけど!それとこれとは話が違う!みたいなね?」
エレナの鎧には百合のレリーフがあり、髪飾りも百合の花を模している。
確かエレナが百合が好きという話を聞いて、王城お抱えの職人たちが用意したとか聞いたことがあるような、ないような。
何にしても、エレナはそうして百合を模した物を身に着けていることからも百合の勇者と呼ばれている。
「あ、そう。で、何で戻って来たんだ?」
「……ハイネに、相談があります!」
「相談?」
「そう。だから、ちょっと良い?」
「良いけど……」
「ありがとう!それじゃ、あれには待ってもらうように言ってあるからちょーっとこっちにおいでおいで。大丈夫、怖くないよー」
「変質者みたいな言い回しやめろって昔言わなかったっけ?」
そんなことを言いながらイケメン集団を置き去りにしてエレナの後をついて行く。
向かう場所はたぶん、俺たちが昔遊ぶのに使っていた森の大樹だと思う。
相談があるというのは、どういった内容なのかわからないけど、割と面倒くさい幼馴染その一なのでたぶん相談内容も面倒な物なのだろうな、という予想があったりする。
◇◆◇◆◇◆
森にある大樹の下に辿り着くとエレナは足を止めた。
さて、一体どんな面倒事を持って来たのやら。と思いながらも予想は出来ている。
それを無言で待っているとエレナがバッと振り返った。
そして意を決したように、叫んだ。
「旅の仲間が男ばっかりで辛すぎるのよぉ!!」
「知ってた」
「女の子……綺麗で可愛くてロリでお姉さんで妹でクールで天然でえっちでセクシーで煽情的でえっちで格好良くて笑顔が素敵でえっちでえっちでえっちな女の子が良いのにぃぃぃぃ!!!!」
「知ってた」
「あたしだってね?最初はそういうものだって我慢してたよ?でもね……女の子の仲間がひっとりも増えないってどういうことなのよ!?」
「女の勇者にはイケメン集団の逆ハーレムが定番だからだろ」
「いらないから!逆ハーレムじゃなくて純粋にハーレム希望だから!女の子に囲まれて一緒に旅をして一緒に水浴びをしてその時におっぱい触ったりお尻触ったりえろい感じにイチャイチャしたりしたいの!むさ苦しい男なんてどうでもいいの!!」
「むさ苦しいって言ってやるなよ。イケメンばっかだったじゃん」
「イケメンに興味なし!!」
言っていることからわかる通り、エレンは男よりも女が好きだ。つまり、百合の人だ。
エレナが言ったという百合が好き、というのは花が好きということではなく、女の子同士のイチャイチャや好きという意味での百合が好き、ということだ。
そんなことは知らない人々が百合の花モチーフであれこれと準備し、それを身に着けていることからやはり百合の花が好きなのだろう。と判断された結果が百合の勇者だ。
「一応イケメンっていうよりもショタっぽい魔法使いが仲間だけど、あれだって男だからね!お断りよ!!」
「頑張ってメス堕ちさせて女装でもさせれば視覚的には女だろ」
「メス堕ちしてもオスはオス!!穴じゃなくて棒があるでしょ!!」
「それが良いって奴もいるだろ」
「あたしは穴に棒を挿れられるよりも、綺麗な貝を合わせたいのがわからないの!?」
「わかんねーわー」
わかりきっていたことだが、この百合女は男に囲まれて性癖が暴走している。
それを吐き出すためにわざわざ村に戻って来たのかと思うと頭が痛い。
そしてまだ何かあるのだろうということが古い付き合いのせいかわかってしまう。
本当に、本当に。百合の勇者になった幼馴染が面倒くさい。
あくまでもお試し短編なので続くかどうかはわかりません。
続けよ。と思う方は評価したり感想残してくれると続くかもしれません。
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