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こりてんみょう  作者: 音喜多子平
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独眼竜

仙台のこりてんみょうの歴史です。

ちょっと短いです。


 仙台の狐狸貂猫はそれぞれが寄り集まって四つの家が存在する。


 狐の荒井家。

 狸の富沢家。

 貂の八木山家。

 猫の泉家。


 仙台の狐狸貂猫は、そこが仙台と名付けられる遥か昔から陸奥の国に在していた。それぞれが化獣として縄張り争いをして、時として人を化かしたりしながら暮らしていたそうな。人を化かすと常として人から手痛いしっぺ返しをくらう事も儘あったのだが、一族の全てが危うくなることなどはなかった。

 

 けれども。

 慶長六年。


 今の山形県は置賜から、とある人間が一人、仙台へ居城したことを転機に当時の化獣事情は一変した。


 独眼竜・伊達藤次郎政宗、その人である。

 

 居城たる青葉城は天然の地形を使った山城であるが、城下町たる仙台は延べ百万人を動員した大工事にて整備された。小生らの先祖たちが住んでいた森や林は次々に拓かれ住処や家族を失った。そこで残された狐狸貂猫は種の垣根を超え結託し、伊達の一味らを化かし追い返そうと画策し奔走したのである。

各々がとある山道の石ころや岩に化け、人が通りかかるのを待つ。狩人や木こり、石職人などがやって来ると、すかさず寄り集まって忽ち天を突くほどの大入道に化けてそれを脅かした。次第に近付く者も減り、いずれはこの地からいなくなると思われた。

 

 だが、独眼竜だけは違ったのだ。


 噂が耳に届くと独眼竜は強弓を携え、家来数名を引き連れ件の山道までやってきた。先祖一同は憎き仇敵本人の到来に血が躍ったそうだ。

 その日その場にいた狐狸貂猫が全て合わさって普段の倍以上の大入道に化けてみせ、キッと独眼竜を睨みつけた。ところが独眼竜は少しも怯まず不敵に笑って見せたという。独眼竜はすかさず強弓を構えると、大入道の足元目掛けて白羽の矢を放った。星のない夜の下、月の光にそれは一閃した。

 矢に射抜かれると足元を担っていた連中は平衡を失い、それに伴って大入道の全部が転げ落ちた。驚きのあまり変化が解け、狐狸貂猫の姿が露わなった。


『正体見たり!』


と、恫喝された先祖一行は止む無く城下町の周囲に辛うじて残っていた森に逃げ帰った。

 

 これが小生ら狐狸貂猫に今も絶えず語られる、有名な『荒巻伊勢堂山唸り坂の乱』である。

 

 いよいよ打つ手が無くなり仙台を後にしなければならないかと思われたその時、救いの手を差し伸べてくれる者があった。

 それが伊達政宗仙台入城以前より、この地で紙を中心に商っていた大店の紙問屋『風見屋』の初代、音衛門平吉という人間であった。先祖一行、延いては小生たちの恩人である。

 普段より信心深い平吉は、ある日夢枕に神啓を見た。それは狐狸貂猫を使用人として向かい入れるというものであった。

 平は早速その日から、人知れず近所の猫や町外れにいた狸などに自分の夢の話を真剣に語りかけた。やがて当時の族長たちの耳に入るとすぐに話し合いの席が設けられ、なんとその日のうちに奉公人として住み着くことが決まったのだ。

 

 捨てる神あれば拾う神ありと一同は喜んだのだが、同時に問題も発生した。森の伐採や侍との戦いで数が減っていたとはいえ風見屋に収まるには狐狸貂猫の数が多すぎた。先祖の側としては折角の話を断るには惜しいし、平吉としては神託を反故にするのは忍ばれた。そこで双方の折り合いを上手く付けたのが、期間を設け狐狸貂猫がそれぞれ回り持ちで風見屋に奉公するという、言ってしまえば交代制の勤務案である。

 

 奉公する順番は少々揉めたそうなのだが、松吉の夢で告げられた、狐狸貂猫の順序となった。やがてこの風見屋へのご奉公は、いつしか内輪にて『お役目』と呼ばれるようになった。

 

 さて、それからしばらく。


 時代が下り流れ、とある年のとある店に吊るされた、とある七夕飾りが後代の伊達の殿様の目に留まることとなった。竹にぶら下がる飾りの中でも特に際立って美しかったのが、風見屋の商品で作った紙細工の飾りであり、その殿様はそれを大変気に入ったそうな。然る後に風見屋の紙を献上したところ、やはり大層気に入られた。とりわけ七夕飾りの紙細工が見事であったことから、元の屋号を捩り『風梨』の名字と帯刀を許され、それが評判となった店は益々の繁盛を見せたという。

 

 風梨の家はその後も代々と続き、現在においても仙台で指折りの旧家として名を馳せている。

 

 そして説明するまでもなく姫――風梨里佳は、そこのご息女である。

 

 姫と小生が旧知の仲であり、仙台の狐狸貂猫に精通した御仁であるというのは、つまりはそういう訳なのだ。

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