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こりてんみょう  作者: 音喜多子平
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鶴子の決意

やっぱり振り返って見ると中々の分量ですね。


けれども諸先輩方に比べればまだまだ赤子同然。。。


恐ろしや。


 従者たちは侵入者の事など忘れたように一目散に扉に向かった。鶴子も小生たちなど気にも留めずに扉へ向かったので、ますます小生らは動揺した。だが扉が開いたのであれば行く以外に選択肢はない。すぐに海潮を起こして一番後ろをついて行った。


 殿で外に出た小生と海潮は、唖然とした。


 そこは姫がいるであろうと当たりを付けた見櫓の下の部分であり、かなり開けた場所だった。酒宴をしていた形跡があり、演化の終始を知らせる大太鼓もあったので見物人がいたのであろうが、大竹に驚いて避難したのであろうと予想した。真ん中には上へ続く階段も見えた。相変わらず、満天の星空が煌々と輝いている。大竹ももたれ掛かっているが火などついてはいないし、誰もよじ登ってきたりはしていない。


 唖然としたのは、それよりも目を疑うような事態になっていたからだ。

 鶴子が共に戸をくぐった従者たちを悉く気絶させていたのだ。


「な、にを――」


 とうとう最後の一人も袖から伸びた蛇が締め落としてしまった。

 鶴子は振り返って小生と海潮の顔を見た。それで小生が何を言いたいのかを察したようで、尋ねなくても答えてきた。


「里佳様に会いたいのでしょう? 夏月海潮さまを里佳様のところへお連れします」

「どういう風の吹き回しだ?」

「話す時間も惜しいのではありませんか? お付きの者が増えますよ」 


 疑念は充満していたが、鶴子の弁も尤もなのが癪に障った。

 鶴子は分かり切っている返事は聞かず、踵を返して姫のもとへと足早に動き出した。警戒心を露わにして念のため再度、従者の衣装に化け海潮と共に後を付いていく。


「なあ、萩太郎。この人は?」

「姫の一番のお付きだった狸で、雁ノ丞の姉貴だ」

「そうか。なら良かった」


 鶴子の事など一切知らない海潮は、安心して距離を詰めていった。

 階段の角で一度止まる。鶴子はコソコソと上の様子を見ていたが、いつ何時本性を剥き出して襲ってくるかは分からない。その上、これだけの騒ぎになってしまうとこちらには時間もない。海潮を急かし、鶴子の制止も振り切って階段を上がろうとすると、上にいた別の従者から声が飛んできた。


「おい、貴様。そこで何をしている」


 その声に釣られて再び何人もの従者が階段を下りてくる。どう見ても歓迎される気配ではない。慌てて引き返すと、不審に思われ更に追ってくる従者が増した。


「何で気付かれたんだ?」

「それは下方の格好ですからね。本来立入禁止です」


 冷静な指摘は痛み入るが、どうにも腹が立つ。小生は衣装に化けるのを止め、ここまで冷静沈着なら何か考えているのだろうと鶴子に意見を求める。


「どうするんだよ」

「まさか話し合うつもりですの?」


 心底呆れかえるような顔で見られた。けれども今度は腹が立たなかった。何となく鶴子の雰囲気が、ほでなすの会の連中のそれと被ったような気がしたからだ。


「…んな訳ないだろう」

「お、おい。どうする? 降りて来るぞ」


 喧嘩や荒っぽい事には耐性がないのか、海潮が慌てている。


「姫はこの上か?」

「ええ。上の見櫓にいらっしゃいます」


 さっき地車で聞いたのと同じように細く白い指がピンと張りつめている。

 小生は鶴子を見据えて、鋭く聞いた。


「俺たちの方に付くと、本当に信用していいのか」

「里佳様に誓って」


 理屈はない。他の狸であれば信用したかどうかは分からないが、鶴子が口にしたそれはいとも容易く小生の胃の腑に落ちた。


 土壇場で打ち立てた作戦は極めて簡単だった。


 小生と鶴子が精一杯、従者たちをおびき寄せて、その隙に海潮が見櫓に登る。

 やっている事は雲野原でしていた事と大差ない。変わったのは協力してくれるのが、大勢から小勢になったくらいである。


 それでも不安はなかった。


 隣の狸は、いつか小生の化け術を皆に見習わせるほど見事だと言った。だが、小生が生まれて初めて見習った化け術の使い手は、他ならぬ隣いるこの狸なのだ。


 合図をしなくてもピタリと息を合わせて飛び出す。突然の登場に、従者たちは慄いた。先陣を切った小生が貂姿でその股下をすり抜け、更に怯んだ従者たちの上を鶴子が飛び越えていった。是が非でも上に通したくないと見えて予想通り、全員が踵を返して追いかけてくる。


 上の段は開けているが、下に比べれば幾分小さい。遠目では分からなかったが、御上座敷は雛壇の様な形をしているらしく、ここが最上段であった。これだけの騒ぎを起こしているのだから、姫の警護や諸々に当たっている従者は階段を登ってきている連中と、今正面から走って来る数名だけと判断して良いだろう。

 向かって右側に姫のいる見櫓の登り口があったので、左に逃げて従者共を引き付ける。こちらだけぽっかりと空間が開いてしまっているのが不自然だったが迷う暇はなかった。


 案の定、全員が小生らを追ってくる。


 最上段の端まで追い詰められたが、海潮が上手く忍び込み見櫓の登り口に入っていったのを見て一安心した。

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