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こりてんみょう  作者: 音喜多子平
18/30

神婚

今回ちょいと短めです。

 

 神婚とは読んで字の如く、神との婚礼の儀式の事をいう。

 

 男神に対して人間の女性が嫁ぎ、女神であれば男性が婿入りする形で執り行われる。が、男性が婿入りするのは稀であり、風梨家では前者しか行われない。

 

 神婚で人間と結ばれた神は、その家に隆運幸気や金銀財宝を授けたり、家人や嫁の願いを叶えたりする。その利益は当然ながら神そのものの格によって大小様々である。

姫が嫁ぐ山王蔵ノ神は、歴代の風梨家が天災戦災、それ以外の不運不幸に見舞われる度に、同家の女性を娶ることで繁栄を約束してきた。山王蔵ノ神と風梨家の因縁は、狐狸貂猫が福衛門松吉に出会うその前から続いているらしい。記録では過去に六度、風梨家から神婚をした女性がいると残っている。

 

 だが、当然ながら利だけがある訳でない。

 

 嫁ぐことになった女性は、二度と此の世に戻ることはない。有り体に言えば死ぬ。ただ、普通の人間のソレと魂の行き先が違うだけで、実際は家内幸運のための人身御供と言っても過言ではない。そのため風梨家の内でも、神婚は昔から賛否両論が割れている。とは言っても神婚を知っているのはより本家の血筋がより濃い者だけだ。

 萩太郎を始め、会の全員が神婚を妨害したいのは海潮と姫を思ってのことが半分、姫を失いたくない自分たちの勝手が半分なのだ。だから躍起になっている。

 

 青鹿は事前に可能な限り、神婚についても調べてきた。

 神婚を妨害することは基本的に問題ない。現世にいる賛成派の者たちからは反感を買うだろうが、例えば天罰が下るようなことはない。かつて二度だけだが現行のように神婚に反対する人間や狐狸貂猫たちが結束し、取り止めになった前例も存在する。そもそも邪魔が出来ないのであれば、風梨家と富沢家がこそこそと画策する必要がない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「…冗談、じゃないよな」


 海潮は全てを聞き終わって、まずそう呟いた。


「オイラ達は化かしはしますが、騙しはしませんて」

「風梨さんが結婚…しかも相手は人間ですらないって…昔話みたいだな」

「まあ、そうですよねぇ。どうもついこの間、いきなり決まったみたいですし」

「風梨さんは何か言ってるのか?」


 青鹿はその質問に違和感を覚えたが、無視して話を続けた。


「いえ。この騒動が起こってから、オイラ達は姫さんに会ってすらいません。だから何を思ってるのかも全く」

「――そうか」


 陰った海潮の顔を見た青鹿は、見れば惚れているかどうかが一発で分かると言っていた連中の話に納得した。

 そしてここからが本題だ。


「けど、その神婚を止める方法はあります」

「何だって」


 海潮は警戒心を投げ捨て、青鹿に詰め寄ってきた。

 夜の旅館の廊下で、正座して猫の話を真剣に聞くという、傍目にはとてつもなくシュールな光景が出来上がった。


「神婚にはルールがありましてねぇ。結婚ないし婚約している女は神婚が出来んのですよ」

「…」

「それは口約束でも構いません。いきなりでぶっ飛んだ話ですけど、海潮さんが今にでも姫さんと婚約すれば、この件は後腐れなく収まるって寸法です」


 海潮は返事をしない。言われてことを必死に飲み込んで整理しようとしているのだろうと思った。


「萩太郎の他に、雁ノ丞と欅っていう狸と狐もご存知ですよね? オイラと合わせてその四匹でよく飲むんですが、海潮さんの話もそん時によく聞いていました。会った事こそありませんでしたが、他人事とは思えなくてですねぇ。オイラは一番縁が薄いが二人には何とか一緒になってもらいたいと思ってます。そいつは他の三匹も勿論同じだ」


 海潮は途端に観念したような息を出した。そして自分で自分の事を笑い出す。


「俺が風梨さんの事が好きだって、皆にバレてたんだな」


 青鹿は得心がいった。話を飲み込もうとしていたのではなく、自分が風梨里佳に恋心を抱いていたのが周りに筒抜けだった現実に打ちひしがれていたのだろう。


「バレバレですな」

「萩太郎に発破掛けられてからかな、ずっと機会を伺ってたんだ。けど覚悟が全然出来なかった。実はさ、サークルのみんなにも筒抜けだったみたいで、旅行中に何回も揶揄われたよ」

「かかか。なら姫もまんざらじゃないってのも言われましたでしょ?」

「言われたよ。信じちゃいないけど」

「そりゃまたどうして?」

「だって俺だぜ?」

「かかか」


 青鹿は笑うしかなかった。そして、この短い中のやり取りだけで海潮を好いている皆の気持ちが分かった。


「仙台に戻ったら、風梨さんに告白する」


 けれども、その弁には同意しかねる。同時にこの期に及んでまだ踏ん切りをつけられないのかと呆れてしまった。


「そいつはマズい。仙台に帰ってからじゃ、邪魔をする奴も多い。できればこの旅行中にカタを付けたほうが」

「え? でも、風梨さんはここにはいない」


 青鹿は思考が飛んだ。海潮が何を言っているのか本当に分からなかった。


「はい? サークルの卒業旅行なんでしょう?」

「風梨さんは、家の急用で出発の直前になってキャンセルしたんだ」

「何ですって?」


 青鹿は柄にもなく取り乱した。やがて海潮の話を飲み込むと、自分のこれまでの思い込みに腹が立った。


次の作品もそろそろ載せられるように仕上げていきたいですね。


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