プロローグ:5
こつ、と実体化した足音が――
嫌。
こつ、
来ないで……
こつ、
こつ、
こつ、と確実に忍び寄る。
「嗚呼……」
身体は硬直し、抵抗さえままならない。
そして冷たい指先が、わたしの喉に触れた――――
それは氷柱のように、すべらかさを保つ細い指だった。
触れられた箇所がひやりとする。霜を纏っている。
つ、と首筋を撫でるたおやかな指は、そのままこちらの顎をたどり、わたしの頬に触れる。耳をなぞる。
「おんな」
それは奇妙に凜と響く声であった。
恐ろしいのに、同時に何故か懐かしい。
「おまえは」
誰なの。
「■■■」
そいつが髪に触れる。脂でこわばったわたしの黒い髪が、不思議な声の主に梳かれてゆく。
「く――」
寒い。
なんて。寒い。
凍えるほどの冷気に満たされる中、互いの吐息が重なり合い、霧となって流れてゆく。
足元から這い寄る冷気がたちまちの内に全身を覆い、猛烈な眠気が瞼をおおう。
(あ、っ……)
膝がかくりと折れるのが最後の記憶だった。
わたしの意識はそこでふつりと途切れ。
そのまま翌朝までどうやら倒れていたらしい。
翌朝。
うつ伏せに倒れていたわたしの頬を、生温かな感触が突然襲い、不快感で目が覚めた。
(…………?)
おぼろげな頭は急速にそれを理解する。
鼻腔を刺激する獣の臭い。
それは犬だ。
わたしが飼っていた灰色の犬の臭いだ。
なぜ。
だって、お前は殺された筈なのに――