プロローグ:3
街をはなれ、丘の方へ足を進める。
痩せたどんぐりの木が生える茂みの中に、秘密の小屋がある。その昔木こりのお爺さんが住んでいた小屋だ。
家主を喪ってからは子供たちの秘密の遊び場になっていて、指先の器用なわたしのお兄ちゃんが鍵を外し、そこにいろいろなものを運び込んでいた。
わたしが今、どうにか暮らして行けるのはこの家があるからだ。
建物はおんぼろだけれど、とりあえず雨風をしのげるのだから文句は言えない。
すこしかび臭い毛布を羽織り、床の上に座る。同様にさっき掘り起こしたばかりの例の箱をそこに置き、さてどうしたものかとじっくり眺めてみる。
んん……
これ……どうやら内側から鍵がかけられているみたいだけれど、一体どうしたら開くのだろう。
外側には鍵穴ひとつすら見つからない。
うん〜……
んん……
こうかな?
それともここを押せばあるいは……
どこかに秘密の仕掛けでもないものかとあれこれ試してみること、小一時間。
ふと気づけば外はすっかり陽が暮れ、窓から射し込む夕日の代わりに暗い影が今は辺りを覆っていた。
……しまった、こんな事している場合じゃなかったのに。
次いで、ぐう、とお腹が悲鳴をあげる。ここのところろくなものすら食べてはおらず、年頃の娘だというのにわたしの体つきは見るも無惨な有り様だ。
「こんなことなら昼間にどんぐりでも拾っておけば良かった……」
渋味はひどいけれど、一晩水につけておけばどうにか灰汁は抜ける。もう、そんなものしかここには残っていない。
今から拾いに行くには暗いし、それに外は危ないし……
わたしはどうしようかと迷った末に、少しでも体力を温存すべく今夜はもう寝ることにした。