弱虫:4
彼が去って数日後、この地方は嵐になり、翌朝には外出できない程の大雪に見舞われていた。
なにも――なにもする気力が湧かなかった。まるでグリにそのすべてを奪われてしまったかの様に。
「……魔法なんて存在しない」
独り、物静かな小屋の中でわたしは呟いていた。だからあれは、きっとわたしが見た幻覚なのだ。
そう……自分に言い聞かせなければ、自分の本当に大切ななにかが奪われてしまうような気がして。
「……静かだな」
今朝方まで吹雪いていた天気は今は落ち着いている。火すら焚かない小屋の中は本当に寒い。
いっそ、このまま本当に凍え死ねるのならば。
わたしは死ぬことに捕われかけている。
だって、ここにはもう本当にわたし以外誰も居ないのだから。
灰は灰に、塵は塵に。
信心深かった父は争う事を望まず、何の抵抗もないまま敵に殺されてしまった。お兄ちゃんだけが勇敢だった。
――君も戦うべきだ。
そう告げたグリの言葉が記憶に焼き付いて離れなかった。
「戦っているよ……」
寝床でぽつり、呟いた。
わたしだって、生き延びたいから精いっぱい頑張ってきたんだ……
嗚呼、そうか……
わたしは認めて欲しかったのだ、とそこでふと気付く。
「ばかだなぁ……」
折角の機会を自分で台無しにしてしまった。
「わたし……本当にばかだ……」
後悔の涙さえ、もう誰にも見てもらえないというのに。