弱虫:3
耳を塞げと、心が叫ぶ。
心を開けと、心が叫ぶ。
矛盾した感情が体の中で争いあっている。競いあっている。
煩い、だまれ。
蓋をすべきか或いは開くべきなのかわたしは葛藤している。躊躇している。でも、なぜこのタイミングで?
前触れもなく唐突に現れた少年は、わたしに人生の選択を迫っていた。
嗚呼、憎たらしい!
勝手に人の心の中に入ってくるな!
わたしの人生に干渉するな!
わたしは許可なんて与えていないわよ、と忌まわしい少年を睨んでみるが、すると彼はどうしたわけか悲しそうな表情を作って寄越したのだ。
「…………可哀想なアンジェ」
やめてよ。
同情なんてちっとも嬉しくない――
たった一日の内にあまりに沢山の出来事が起こり、感情の整理が追い付かなかった。
わたしはグリに憐憫を誘うような仕草を見せたのだろうか。
どうしてこいつは……。この小生意気な悪魔は、そこまでわたしに関わろうとするのか。わからない。全然、全然わからない。なにも考えたくもない。
相手の表情に誘われてかわたしまで悲しくなり、そうして堪えていたのにつぅ、と一筋の涙が目から零れ落ちた。
身体が熱い。今は顔を見られたくない。
「出ていって!!」
なにもかも嫌になり、わたしは彼に衝動的に叫んでいた。
「でも」
「うるさい!! さっさと出ていって!!」
後悔すると、本当はわかっていたのに。
「……さよなら、アンジェ」
そうして望むまま、彼はわたしの下を去っていった。わたしはまた独りぼっちに戻った。