弱虫:2
「しどい……」
「あ゛?」
湯冷めしないよう身体を拭きつつ、わたしはグリをひと睨み。隣では未だに全身ずぶ濡れの彼が、ぽたぽた雫を垂らし続けている。
「いーい男になったじゃない、ねぇグリ?」
「君は中々いい性格をしているという事が解ったよ……」
恨みがましそうに愚痴をこぼす彼を、あらそう?とわざとらしくわたしは躱した。
ふふふ、これまで主導権を握られていた分、思い切りいじめてやるのだ!
着替えを終え髪をとかしていると、「ところでさぁアンジェ」と彼から呼びかけられた。
「ん、何?」櫛を片手にわたしは振り返る。
手持ち無沙汰に椅子に跨がりながら、「ちょっと気になったんだけど、いつまでこの小屋に居るつもり?」そう彼が訊ねてきた。
「え? いけない?」
意味が解らずわたしが訊ねると「……呑気だねぇ」といきなり彼が呆れ顔。
む……ひょっとして馬鹿にされている?
「そんなんじゃないけどさぁ」
こちらの表情を読みつつ彼は訂正する。
「あのさ、もうちょっと今の状況を真剣に考えた方がいいと思うよ。またいつ襲われるかだって分からないんだし」
真面目な顔をしていうそれは、極めて正論で──
「ん……言いたいことは解るけれど……」
それどもわたしは、正直煮え切らず、つい彼から視線をそむけてしまう。そして髪を弄りながら、理由を探している。
「……でもだからって何処に行けばいいの? わたしはただのか弱い女の子だし、男の人みたいに戦う事なんてとても出来ないよ……」
声をすぼめるわたしに、「世の中には女の兵隊だっている」と反論するグリ。
「それは特別な例でしょ」
「僕が言いたいのは、すべては気の持ち様って話だよ」
「……わたしも戦えと?」
「逃げていたって何も状況は変わらないじゃないか」
「貴方とわたしは違うんだってば!!」
急に痛い所を突かれたせいだろうか。思わずわたしは声を荒らげていた。