契約:6
突然、わたし達の背後から若者の声がした。
「あ?」
乱入者の声に男の注意が削がれ、わたしを含む双方の首が動いた――その刹那。
急に彼の足下より風が吹き上がった。そして渦巻き、吹雪となった。
突風が男を襲う。霜を纏う無数の白い針が、相手の露出した肌へ容赦なく突き刺さってゆく。
『――!!!!』
声にならぬ悲鳴を男があげた。
血が飛沫いて彼の性器が切り落とされていたのだ。
吹雪は集結して一匹の白い豹となり、相手の喉笛を咬み切っていた。
「ヒ、ヒィ!」
それを見て逃げようとした片割れもまた、氷の爪の餌食となる。
ずしゃ、と横薙ぎにされた体が千切れ、雪の上に乱れ飛ぶ。豹の口から氷の息が吐き出され、遺体を彫像に変えてゆく。
凄絶な光景なのに、それはどこか現実離れしていて──
だからだろうか。わたしは瞬きすることすら忘れ、ただ彼が為すさまに魅入られていた。
最後にグリは彫像の表面を指先で弾いた。
すると瞬く間に亀裂が走り、硝子細工のよう、細かに砕ける。
わたしを凌辱しようとした男たちの呆気ない最後に気を取られ、ぽかんとしている間に終わったよ、とグリから声がかかる。
そこでわたしは、自分が今どんな格好かを思い出したのだ。
あわてて胸元を隠しながら大声で叫ぶ。
「こ、こっち見んな! バカッ!」
「……助けてもらってそれは無いんじゃない?」
言われた本人が、釈然としない様子でこっちを見下ろしていた。