契約:4
つと、わたしは窓の外へ視線を向ける。
もしも、自分の予想が確かなら――
やっぱりこの人は怪しい。ごちそうしてもらった位で気を許してはいけなかったのだ。
「……ちょっと、表に出てくる」
「ん? 外、けっこう寒いと思うけど」
「空気を吸いたくなっただけだからすぐに戻るわ」
そう彼に告げ、わたしは家を抜け出した。
グリに惑わされてはいけない。ここから逃げなければ。
わたしは走った。
胸の中の不安が拡大してゆく。
たとえば――グリの話が本当だったとして、じゃあジェイクを甦らせるのに彼は何を使った?
わたしが作った皆のお墓の方角へと急ぐ。あそこに埋められた死体。無数の死体。それを使ってジェイクの魂を呼び戻した?
「そんなのは……」
思わず不快が声に出る。
――そんなのは、死者への冒涜だ!
わたしは確かめなければならない。己の目で。坂道を駆ける。
「あっ」
そこで不意に、視界が傾く。
急いでいたあまり足元が疎かになり、小石につまづき派手に転んだ。
「痛……」
気付いた時にはもう遅い。
わたしは膝を擦りむき、怪我をした箇所にじわりと血が滲み出ていた。
くそっ、と己の不注意さを呪う。
そんな折に、「大丈夫かい?」と上から人の声がして、わたしははっと頭を上げた。
グリかと思いきや、見知らぬ人の顔だった。薄汚い髭面の男が二人。わたしたちの街を襲った帝国の兵士だ。
「怪我しているじゃないかお嬢ちゃん。腕を貸そうか?」
そう言って、こちらに手を差し伸べてきた。けれども言葉に騙されてはいけない。連中の瞳が下卑た光を蓄えている。
「いえ、大丈夫です」
自分で立てますから、と腰を上げかけた途端に、まぁまぁ無理すんなって、と強引に腕を取られる。
片方だけではなく、それは両脇で。羽交い締めされるような格好のまま、わたしはこの男たちに拘束される。嫌な予感がした。
「放して!」
咄嗟に、危機感に駆られ大声で叫んだ。
すると男達二人は互いに見合せ、その口許を不快な形に歪ませる。
「へへ」と舌なめずりを見せる正面の男が「何を恐がっているんだい? お嬢ちゃん?」
男の息が顔に掛かる。とても臭い。
「物好きだな、オメェ」とにやにやしながら背後の男。
「うるせぇ、てめぇも同じ初物好きだろうが」
「ゲハハハハ! 違げぇねぇ!」
何を言ってるんだこいつらは。身をよじり拘束から逃れようとするが、「暴れるなよ」と掴まれた箇所に力を籠められる。駄目、振りほどけない。
「なぁに、ちょっと我慢してくれりゃすぐに終わるからよぉ」
「おじさん達と遊ぼうぜ?」
腰から抜いたナイフが閃き、それが胸元に当てがわれたかと思うと――
「いやっ!」
布地は一気に引き裂かれ、わたしの薄い胸元がはだけてしまった。