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青春してる奴らと眺めるだけの奴  作者: 奈宮伊呂波
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第07話『女子中学生』

 春。とある日曜日に二人の女の子が俺の乗っている電車に乗車した。

 年は二人とも中学二年生。二人とも日曜日だと言うのに制服を着用していた。二人はそれぞれ、片手で鞄を持っている。

 一人は眼鏡にショートボブ。いかにも大人しげな女の子だ。クラスで三番目ぐらいの端整な顔立ちだが、俯きがちな視線のおかげで男子の人気はそこまでないだろう。

 もう一人は手入れが行き届いているのだろう。艶のある黒髪ロングを持ち、見た目の清楚さとは反対に勝気な笑顔で隣の少女に話しかける。こっちはそこそこ可愛い。俺が中学生なら、友達ぐらいにはなってやってもいいだろう。

 可愛いと言っても、二人ともまだ子供だ。最近の中学生はわからんが、二人は体も子供っぽい。顔にも幼さが垣間見える。


「ねえリン。私の髪の毛どう? いつもと違うんだけど」

「うーん。……あ、寝癖がない」

「やっぱり気づいてなかったのね……」


 ショートボブの女の子は「リン」と呼ばれている。黒髪ロングの女の子は「レンちゃん」と呼ばれている。

 母親には別の名前を言われていたと思うが最近は二人でいることが多く、何と呼ばれていたか思い出せない。

 しかしまあそちらが本名でリンちゃんレンちゃんはあだ名なのであろう。

 聞いたことがある。

 おそらく、二人はボーカロイドに興味関心があるのだろう。


 俺は聴いたことがないので、機械が歌うと言われても想像出来ない。音声アナウンスのように流暢に発生するのか、それともガチガチのロボ語なのだろうか。「ワレワレハウチュウジンダ」みたいな。

 普段からウェーイと言っているような連中は俺の好きな青木光一なんかは一切話題に出さず、ボーカロイドの話していたりする。

 それなりに人気はあるのだろう。


 ともあれ、ここまで言えば一つの疑問を持つ者もいるだろう。なぜ、俺が二人のことを知っているか、と。

 話は簡単で二人が俺の乗っている電車によく乗るからだ。


 五年前ぐらいのことだ。

 最初はレンちゃんが母親と乗っていた。今と同じで今宮駅からだった。……レンちゃんって俺が言うの気持ち悪いな。一層の事呼び捨てにして「レン」にしようか。いやでもなあ……。


 と少々気持ち悪い悩みをしながらほくそ笑んでいると、そのレンちゃんが俺を睨んでいた。結局レンちゃんにしました。

 彼女が俺を睨むのもいつもの事で気にすることではない。サッと顔を背け、ビクビク怯えていればいいだけだ。


 ともあれ、レンちゃんが母親といた頃は、とんでもなく元気だった。

 初めて乗った訳でもないだろうに、移り変わる景色にいちいち喜びの色を爆発させていた。それが収まると今度はピアノの話になっていた。その日はピアノを習い始めた日だったらしい。天王寺駅の近くに有名なピアノ奏者の教室があったようで、そこに向かっていた。

 なんとかさんの演奏をレンちゃんが大層気に入ったらしい。それで習い始めたと、よくある理由じゃないか。


 その二年後ぐらいにリンちゃんが同じく母親と乗車した。同じなんとかさんの演奏に心を打たれたリンちゃんがピアノを習い始めたのだった。

 リンちゃんは母親と何かを話していたが俺には聞こえなかった。聴力には自信あるんだけどな。

 二人はレンちゃん親子と同じく、天王寺駅駅で降りて行った。


 さらにその半年後ぐらいにはリンちゃんとレンちゃんは互いにあだ名で呼び合い、今のように休日になるとピアノ教室に通っていた。

 彼女らはコンクールの時は制服を着ている。手で持てるほどの荷物を持ち、ドレス等の衣装は教室に置いてあるのだろう。一度天王寺駅で降りてから、先生らしき女性と乗ってきたりする。たまに、他に子供もいたりする。

 このことから彼女達は教室に行ってから、コンクールの会場に向かっていると予想できる。


 そんなわけで、今日は二人がコンクールに参加する日である。きっとそう。


「ねえ、リン。今日も練習してきた?」


 それまでも何か話していた気がするが、俺の耳にはその言葉がはっきりと流れ込んできた。

 さっき笑っていたレンちゃんは一転して億劫な雰囲気を纏っていた。


「朝起きてからちょっとだけ」

「そりゃするよねー」

「レンちゃんは?」

「私? 私は三時に起きてずっと練習してた。練習って言っても最終確認みたいなものだけど」

「すごいね」

「まあね。おかげでちょっと眠いかも」


 ふわあ、と口を開いて眠気を露わにする。


「寝不足はよくないよ。今日本番だよね……?」

「当たり前でしょ」


 恐る恐る確認するリンちゃんを冷たく、はないがレンちゃんは突き放した。恐怖でショートボブは萎縮する、ことはなくつんつんと黒髪ロングの横腹をついている。

 レンちゃんには照れ屋な気質がある。俺でさえ知っているのだからリンちゃんが知らないはずがない。


「レンちゃん、疲労で倒れるなんてことやめてね」

「わかってる。二人で全国行くんでしょ? そんなこと注意されるまでもないってーの」

「レンちゃんは釘を刺しておかないと、本当に倒れかねないから」

「なわけなでしょ。それより一つ聞いていい?」

「いいけど」

「リンのお兄さんは、その、見に来るの?」


 そう言ったレンちゃんの顔はほんのり赤に染まっていた。


「来るって言ってたよ」


 レンちゃんの気持ちを知ってるのか、リンちゃんはいたずらっぽく笑った。


「そう。まあ、私には関係ないけどさ」


 絵に書いたようなツンデレでむしろわざとやってるのではないかと疑ってしまう。これでツインテールなら勝ち確だったんだが、惜しいことをした……。

 ツインテールでなくとも見た目は可愛らしいのだから大抵の男子なら問題ない気もするけど。


 などとレンちゃんの恋愛について考察していると、電車は天王寺駅に着いていた。

 二人が仲良く降車するのを見届けると、電車はまた動き出す。

 恋愛は勝負だ。頑張れレンちゃん。

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