第11話『思考思考思考』
七月中旬。女子中学生二人は休日に遊びに行くようだ。リンちゃんはコンクールの時と違い、ピンク色のワンピースを着ている。レンちゃんは前と同じような服を着ていた。
俺が乗っているのとは違う電車に乗るのか、電車の中に入ってこようとはしていない。
久方ぶりに見るリンちゃんの私服は昔と違ってお洒落度が増したと言うか、思ったより派手になっていた。小学生の頃はもっと可愛らしい、子供っぽい服を着ていた。小学生の頃と言ってもほんの一年前の事なのだから、全く子供の成長とは早いものだ。
動く気配のない電車の中で割と危ない思考に耽っている間も、二人は「最初は何したい?」「バドミントンかな」「おーいきなり動くの行くねー」「私がレンちゃんに勝てる数少ない競技だから」「今日は勝つ」と予定について話していた。
いいなー。楽しく話せる友達がいていいなー。俺も昔は友達多かったんだけどな……。今では誰にも会えないし。
「ねえリン。この電車動かなくない?」
「聞いてなかったの? 人身事故だって。一時間は止まるって言ってたよ」
「一時間!? もうそこの椅子に座ろう」
「うん」
休日であるがやはり車内の席は埋まっている。しばらく動かないのであれば、立って待っているだけでも疲労は溜まる。それを避けるためホームの椅子に座るのは賢明な判断だと言えるだろう。
いつものように曰く付きとされているシートに座っている俺には関係ない話だ。
しかし、人身事故というものは大きな問題だ。こういった休みの日であれば仕事に行く人は平日に比べ少ないが、平日となれば仕事に支障をきたす人も多いだろう。遅刻、得意先との面談、交渉など様々な業務に遅れが生じる。その人の関係者なら多少の理解はしてくれると思うが、不満を持たない者はいなだろう。
それからの関係に綻びが出来るかもしれない。少なくとも負い目は感じてしまうだろう。
そもそも人身事故ってなんだ? 長い間、JRを使わせてもらっているがその詳細を見聞したことはない。ほとんどが五分や十分の遅延だと電光掲示板には示され、今日のように一時間の遅延は珍しい。
しょっちゅう起きている人身事故は落し物や線路に落下したとかで、今のは列車が進行しているところに、人がぶつかり本当に死んだということなのか。
人が死んだから、言い方は悪いが死体処理や掃除の時間と、親族への説明、警察への連絡、対応など諸々含めての一時間なのか、それは不明だ。
て、ちょっと待て「死体処理」? そんな役割の駅員がいるのか? つまり、俺達が普段目にして、時には話す駅員の中には人間の死体を扱った駅員がいたりするわけだ。それか、駅の仕事には「死体処理部」なる部門がありその人達が死体処理の役目を果たしているのだろうか。どちらにしても想像するだけで鳥肌ものだ。
頭をぶんぶんと振り回し、悍ましい仕組みの想像と鳥肌を振り払う。
思考をクリアにして考える点を人身事故に戻してみる。
いや、原点に戻っても悍ましいことに変わりはなかった。もう考えるのやめようかしら……。
いやいや俺は繰り返される人身事故を二度と発生させないため妙案を世の中に提示しなければならない(義務感)。そのためには脳に酸素を回し続けなければならない(使命感)。
生きるために生きている人達が何千人、下手すりゃ何万人も被害を受ける原因を作る迷惑者達を一掃しないといけない。
駅員でも、政治家でもない俺がなぜこう思うのか。冗談めかして言ったが、真剣に俺は無くしたいと思っている。どうしてかは分からないが俺の体の奥からそういう気持ちが湧いて出てくる。
いや妬ましい。出来るわけもないことを考えるのは馬鹿のすることだというのに。




