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自壊国家  作者: 高村晃広
1/1

帰郷

初めての小説です。

いろいろ構想はねってますが、もしかしたら途中でめちゃくちゃになるかも知れません。

こんな不安定なスタートですが、一人でも多くの人に読んでいただければ幸いです。

景色は相変わらず真っ白で、殺伐としていた。


山々の間に広がる平野に、送電線を支える巨大な鉄塔がクリスマス・ツリーのように、雪を載せて並んでいる。


時折見かける小さな集落の隣では、巨大な工場がもうもうと、鉛色の暗い空に煙を吐いている。


その薄暗く、雪の照り返しで青みがかった殺風景の中を、列車は轟々と進んで行く。


杉本敦(すぎもとあつし)はそれまで窓に頭を預けて寝ていたが、目が覚めた途端、窓の外に広がる風景に懐かしさを憶えた。

東北の小さな港町で育った敦にとって、雪はあってあたりまえの存在だったが、東京の職場に転勤してからは一度も見掛ける事がなかったからだ。

地球規模の気候変動の影響だ、と目付きの悪い気象予報士がテレビで言っていた。

急に頭が冴えて、バックの中の古いカメラでその風景を二、三枚撮ろうかと手を伸ばしたが、止めた。

どうせ行き先でも雪が降るのだろう。



バックに突っ込んだ手でパソコンを取り出して、電源を入れる。

最近はこれといった趣味もなく、暇な時間はいつも原稿を書いていた。

いつのまにかすっかり仕事人間になっている。

ため息をつきながらも、慣れた手つきでキーボードを打ち始めた。


『……「過疎地切り捨て政策」とマスコミに罵られながらも政府が押し進めた「主要都市部への移住推進プロジェクト」は、過疎地住民の高齢化や生活環境が悪化していた事で、意外にも快く国民に受け入れられたが……』


車内アナウンスが、目的地が近いことを告げた。


『……そして十年以上経った現在もいわゆる「開発放棄」は続き、昨年12月にはかつて漁業で栄えていた北東北州の八沢市(旧青森県)の工業保護都市指定の解除が発表された。これには住民や市議会から「放棄の前段階ではないか」と抗議や疑問の声が挙がっている……』


トンネルをいくつか過ぎると、遠くに光の粒が見え始めた。


『……この突然の指定解除には様々な憶測が飛び交っているが、本誌が独自の調査で得た情報によると、昨年5月に近隣の六沢村で起こった核燃料再処理施設「あおば」の事故が関係しているのではないかという新たな……』


列車は速度を落とし始めた。パソコンの電源を落とし、懐かしい町並みを眺めていると、

遠くの街灯にちょうど明かりが灯った。

その青白い明かりが、なぜか懐かしく感じた。


急死した父のために、いずれは有給を取って里帰りするつもりだったが、そこに「裏取れれば、近頃まれに見ない大スクープだぞ」と言ってこの取材を被せてきたのは、あの高慢な編集長なりの労わりなのだろうか。


スーツケースを転がして列車を降りると、頬を刺すような冬の空気が張り詰めていた。

「ふうっ」と大きく白い息を吐いてみる。高校生に戻ったような気分を味わって、なんだか嬉しくなった。


プラットホームは、三年前に降り立ったときと全く変わっていない。


夕日が沈んで一層暗くなった空から、雪が降り始めた。

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