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04 サラミラ


「蒼天を焼き尽くせ、炎よ!!」


 カリエスがそう告げれば大きな炎が巻き起こる。何もないところから炎が巻き起こるとは一体どうなっているのだろう。やはり魔力というものが凄いのか。


「初歩魔法でこれほどとは、やはり王国魔道士は凄いものだな」

「えへへえ。ルナウィ様に褒められちゃった」


 修練場で各々が何を得意としているかを披露し合おうと言うことで仲間たちと共に集まった。今はカリエスが魔法を披露をし、各々がどういった戦略を組めるかと確認し合っているところだ。


「やっぱり魔法を専門としているだけはあるなあ。俺も魔法を使うが、カリエス程ではないしな」

「アザミは魔法戦士なんだっけ。でも剣術と両方扱うことが出来るってのは器用だよねえ」

「器用貧乏とも言われるがな……」


 アザミが微妙そうな声色で返事を返す。何となく苦労性っぽい感じがするな……。


「ディシディアは何が得意なんだ?」

「私は主に回復魔法を得意としています。この場に怪我人が居ないので今は披露することはできませんが」

「それでも高位の僧侶と聞いたぞ。期待している」

「ありがとうございます。ルナウィ様」


 ルナウィがそれぞれの仲間たちを評価していく傍ら、横で黙ってそれを見ている私。相変わらずボヤけている。


 この世界に降ろされたばかりの自分にはまだ彼らに匹敵するような特技というものがない。昨日ルナウィに剣の型を教えてもらったばかりで、それもモノにできてはいない。本当にただ見ているだけ。

 肝心の勇者がそれってどうなの? と思わない事もないが仕方ないものは仕方ないだろう。神様、僕もっとすごい補正が欲しかったよ。


「どうしたアヤコ」


 ルナウィがつまらなそうにしている私の様子に気が付いたのかどうしたのかと聞いてくる。

 やる事が無いから暇だといえば、少々小言をもらった。


「仲間たちの動きは見れるときに見ておけ。動きを把握すれば戦いの中でどう動くべきか最適解が見えるはずだ」

「そうなんですけど、私今は役立たずだし、戦いに関しても素人だし、見ててもわかるかなって」

「それなら師匠のところに行ってきたらどう?」


 カリエスが横から話に突っ込んできた。


「戦いに関して初心者なのは仕方ないじゃん。剣を学んでいくうちに時間無くなっちゃいそうだし、時間がある今のうちに師匠のところに行って見なよ」

「おお、それはいいな。アヤコ、サラミラのところへ行ってこい。きっといい魔法を授けてくれる事だろう」

「んー、じゃあ行ってみますね。カリエスありがとう」

「あ、でも師匠には気をつけてね」

「?」

「サラミラは、ああ……そうだな。気をつけて行ってこい」

「? 行ってきます」


 ルナウィとカリエスの言葉に何か含みを感じたが気にしないことにした。東の塔へ行くべく、修練場を抜け出す。そういえば聞きたい事もあったのだ。道は分からなかったが、廊下を歩いている侍女や兵に道を聞きながら東の塔へと向かう。

 そうして城の東側へとたどり着き、眼前に見える大きな塔を目指す。

 東の塔へとたどり着き塔の上を目指すべく階段を登る。塔の三階くらいだろうか。一目見てここだと分かる少々禍々しい扉構えの扉へとたどり着く。

 ノックをして返事を待つが声は帰ってこない。留守だろうかと一瞬思ったが、カリエスは引きこもっていると言っていたし、留守というのは考えにくかった。


「失礼しまーす……」


 扉に手をかければ鍵は開いており、恐る恐る中へと足を踏み入れた。暗い部屋の中乱雑に積まれた本や何に使うのかわからない道具などが見える。

 そのまま歩みを止めずに部屋の奥へと行くと一人の人間が積まれた本に埋もれながら椅子に座り眠っているようだった。

 眠っているようだし起こさない方が良いかとも思ったが、起こすべきか逡巡しているとううんとその人が声を上げる。


「あのー、サラミラ様?」

「ん? あら、貴方は」

「あ、あの、勇者です」


 勇者ですという名乗りもどうかとは思ったのだが、それ以外に名乗りようもないためそう名乗る。するとその人、恐らく女性がガバっと起き上がる。


「まあ勇者! 貴方のこと待ってたのよ!」


 女性、サラミラはこちらへ来ると抱きついてきた。抱きついてきたというよりもハグなのかもしれないが、その時見えたサラミラの顔は素晴らしく美人だった。はひー、なんじゃこの美人は!


「あ、分かるだろうけれど、私はサラミラ。この国に仕える王国魔道士でカリエスの師匠よ」

「私はアヤコと申します」

「アヤコね。まあ、勇者なんて言うからもっと仰々しい人かと思ってたけれど、こんな普通の女の子だったなんて思わなかったわ」

「あはは、どーも。そういえば何かご用があるんでしたよね?」

「そうそう、貴方に魔力があるか知りたくてね。ちょっとこの水晶玉に手を乗せてもらっても良いかしら」

「はい、わかりました」


 机の奥からサラミラが水晶玉を持ってきた。その水晶玉に手を乗せると、真正面に座ったサラミラが水晶玉に手を添える。見ると水晶玉の中のボヤっとした赤い霧のようなものが現れた。


「貴方は炎の魔法に向いているようだわ。あと簡単な回復魔法なら使えるんじゃないかしら」

「へえ、そんなことがわかるんですか」

「この水晶は全てを見通すもの。これくらいなら朝飯前ね。簡単な魔法から教えてあげましょうか?」

「お願いします」


 魔法はカリエスが使うモノを見て居たが、実際に自分が使うとなるとどんなものだのだろう。カリエスは呪文のようなものを告げて居たが、自分もそうしなければならないなら少し恥ずかしいかもしれない。


「蒼天を焼き尽くせ、炎よ」


 サラミラがそう言うと生まれる小さな炎。恐らく加減をしているのだろう。


「手元に力を溜めるイメージをして。そんなに難しいものでも無いからすぐに出来ると思うわ」

「んー……、炎よ」


 ぼうっと手元に小さな炎が現れた。加減がわからず炎は大きくなったり小さくなったり不安定だ。呪文は恥ずかしいので省かせて貰ったが案外簡単に出来るものなんだな。


「まあ、無詠唱で出来るなんて!」

「え、難しいんですか? 無詠唱って」

「出来ないことはないけれど、力が安定し難くてあまり出来る人はいないものなのよ。貴方、才能あるのねえ」


 サラミラからお褒めの言葉を頂き抱きつかれる。ここら辺も勇者になったことによる特典だろうか? この調子なら剣術の方もなんとかなるかもしれない。


「この分なら他の魔法を教えても大丈夫そうね」

「お願いしてもいいですか?」

「ええ、構わないわ!」


 サラミラは私の手をとりながら頼みにも二つ返事で答えてくれた。なんだ。気をつけろなんてルナウィたちが含みのある事を言っていたせいで怖い人かと思っていたが、いい人ではないか。ただ、少し距離が近いが。


「今日は炎の他に、氷、風、土の四大魔法の初歩魔法を教えてあげる。まあ貴方なら簡単に出来るだろうけれど」

「はい、お願いします」


 その後四大魔法の基礎を教えてもらい、難なくそれをこなす事が出来た。この分なら明日にも新たな魔法を教えてもらっても良いかもしれない。

 魔法を一つこなすごとにサラミラはこれでもかというほど褒めてくれる。大袈裟な人だなあとは思うが褒められて悪い気はしない。


「ねえ、この後用事あるかしら?」

「え、いや、特にこれと言ったものはありませんが」


 まだ十分に日は高いし、これからあの修練場に戻るべきかと思ったが、戻ったところで特にやる事もないだろう。特に無いと答えればサラミラはとても嬉しそうな声で喜ぶ。


「じゃあ、この後どう?」

「どう、と言いますと?」

「私と、いい事しない?」

「い、いいこと?」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。怪しげな美女が言ういいこととは、正直意味はアレしか思い浮かばない。


「ここの所ご無沙汰だったからぁ……、貴方とシたいなって、貴方ちょっと好みだしぃ」

「いや、そういうのは結構です……」


 出会ったばかりなのに何を言っているんだこの人は。拒否の言葉を投げれば、サラミラは余計に体をくっつけて来た。


「ちょっとだけよ。女同士だと不安に思うかもしれないけれど大丈夫付いてるのよ」

「つ、付いてる? ちょっとくっつこうとしないで離れて離れて!」


 どこも大丈夫じゃねえ! と心のうちで叫びながら何とか距離を取ろうとする。グイグイ引っ張れば引っ張るほど力が増しているように感じる。見た目随分華奢に思っていたが、この力は一体どこから来るのか。

 近くにあるサラミラの顔を見る。ブルネットの髪に青い瞳。目をとろりと溶かし、溢れる色気を隠そうともしない。腕に押し付けられた胸は豊満で、男なら一目でこの女性らしいサラミラに堕ちるだろう。一瞬、このまま流されるのもいいのではないか? と思ったが、待て待てと考えを持ち直す。


「ぬううう! 消えろ邪念よ! ファイア!」

「きゃあ! 危ないじゃない何するのって、あれ!」

「お邪魔しました~!!」


 最早女ではない声を上げ、いきなり魔法を近距離で放ち驚いた隙に拘束から抜け出す。ひどい目にあった。好色か。あの二人もわかっていたなら気をつけろ以外にも言ってくれればよかったものを。

 異世界に来てイケメンを碌に拝む事もできず、まず先に女に対して(みさお)の心配をせねばならんとは……。そういえば聞きたい事も聞けなかった。一体これからどうなる事やら。


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