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03 仲間たち

 お偉いさんだとは思っていたが、まさか本当に王族の人間だったとは……。

 あれから神殿から連れ出され、ルナウィと共に馬車に乗って移動中である。

 ガタガタ尻が痛え。窓から周りの風景を見ようとするがぼやぼやで青と緑のコントラストが見えるだけだ。こんなんで本当に世界を救えるのだろうか。


「見えてきたぞ。あれが我が城だ」


 ルナウィに指さされるが白いものがぼやっとあるだけで見えない。すまねえ。ここは城の優美さ壮大さに感嘆するところなんだろうが全く見えんわ。いやお前のせいで。

 しばらくすると街に入ったのか人々の喧騒さが馬車のなかには流れ込んでくる。窓から見れば茶色い、恐らくレンガ造りの家々や、そこいらで賑わっている人々の姿がぼんやりと見える。ごめんな。表現がぼんやりばっかりで、だって見えねーもん。仕方ない。

 街の中を走っていれば、次第に城っぽいものが近くなっていく。思ったよりも大きな城のようだ。

 城の中に入り、馬車が止まる。ルナウィに促されるまま外に出れば、立ち並ぶ人々。恐らくルナウィと同じような紺の軍服を身につけているようだ。


「勇者様。ルナウィ様、お待ちしておりましたわ。さあどうぞこちらへ。王がお待ちしておりますわ」


 声からして女性だろうか。この女性が案内をしてくれるようだ。横にルナウィを伴って女性の後へとついてゆく。王に謁見するらしいが、こんな着の身着のままでいいのだろうか? 今の服装ジャージだぜ? 色気は一体何処へやら。

 何てことを思っていたら、王座に続くとは思えないような扉の前で止まった。いや扉は十分でかいが。


「勇者様、ここでお召し替えをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 流石にこの格好は王座に相応しくないと思われていたらしくそう告げられる。ごもっとも。その判断は正しい。

 二つ返事で良いと伝えれば部屋の中へと促される。ルナウィには隣の部屋で待つように告げられ、一旦ルナウィと離れることになった。

 そうして中に入れば複数の侍女たちが周りを取り囲む。どうやら持っているものから察するにドレスを着せられるらしい。勇者がドレスで謁見って良いのだろうか? 軍服は……サイズが無さそうかな。

 黙って着せ替え人形になるように徹する。コルセットとかパニエとか初体験であったが思っていたよりは苦しくはない。緩めにやってくれたのだろうか?

 ドレスを着せられたら今度は化粧。鏡の前に座らせられるが正直に言ってぼやけまくっていて何をされているのかさっぱり分からない。美容院とか行くと同じような状況に陥るよね。雑誌も見えずただ見えない鏡を見つめるとかいうの。

 化粧も終えて手鏡を渡される。この程度なら何とか見ることができるが、出来上がった顔を見て化粧とはすごいものだなあと実感する。化粧と髪型で元があれでも何とかなるものね。

 準備が出来たということで案内の女性と共に部屋を追われ、隣の部屋にいるルナウィを呼び王座へと向かおうとする。


「おお、随分変わるものだな。華やかになったではないか」

「どーもどーも」


 ルナウィにお世辞を言われ受け流す。そりゃああんな冴えないジャージを着ている冴えない私でもそこそこ良い服を着れば当たり前にマトモに見えることだろう。

 冴えないづくしで泣けてくるが、今はそれどころではない。これから王座へと向かうのだから気を引き締めねばなるまい。

 再び女性の後をルナウィと共について行く。しばらく歩けば荘厳な扉の前へとついた。ここが王座の間だろうか。


「これより王に謁見していただきます。くれぐれも失礼のございませんように」

「はい、わかりました」

「では行くぞ」


 両開きの扉が開かれるとそこはそりゃあ絢爛豪華な装飾を施された間だった。というのは嘘で何も見えない。金ピカがあるということしかわかりません。許すまじルナウィ。

 床に敷かれた赤い絨毯を歩いていけば突き当たるのは王がいるであろう王座。なんか椅子が二つばかり見えるが恐らく王座。


「よくぞ来てくださいましたね。勇者」

「はい。王に御目通りでき感激しております」

「ルナウィもご苦労だったね。久々かな」

「ハッ父上、お久しゅうございます」


 王の顔は見えないが話し方からして随分柔らかい雰囲気だった。ルナウィと同じ赤髪だ。王様って王座に座って踏ん反りかえっているという偏見があるが、この王様にはそれが当てはまらないような気がする。ルナウィがキビキビした性格というイメージだし、余計にこの柔らかな雰囲気を意外に思った。


「この度は勇者。貴方にこの国を救って貰いたく召喚させて頂いた。それは分かっているね?」

「はい、存じております」

「勇者には旅に出てもらう。北の魔王城に向け、仲間たちと共に向かって欲しい」

「はい」

「旅の仲間はこちらで集めさせて頂いたよ。皆こちらへ来なさい」


 王が誰かを呼ぶ。旅の仲間だというがどんな人々なのだろうか。


「皆、勇者に自己紹介を」

「はい、僕カリエスって言いまーす。王国魔道士だよ」


 語尾に星でもつきそうだ。一発目からチャラいのが来たな。茶髪だというのはわかるが顔は距離があって当然の如く見えない。解散。


「俺はアザミ。魔法戦士をやっている」


 今度は青髪だ。三人の中では一番ガタイが大きい。顔は例の如く見えない。解散。


「私はディシディア。僧侶をやっております」


 最後は緑髪だ。丁寧な物腰で礼をする。顔は見えない。解散。

 皆男のようだが、良かった色被りが居なくて、茶色が二人とかじゃ無くて本当に良かった。


「最後は俺だ。剣士、ルナウィ・ファルファリアだ」


 どうやらパーティにはルナウィも入るらしい。


「これからひと月の間、勇者、貴方には鍛錬をして貰います。城に滞在し多くのものを見て、この世界の常識。戦い方など吸収していってください。出来ますね? 勇者」

「はい」


 一か月って短いなあ何て思ったが、国境付近での小競り合いが続いているというし、だいぶ一刻を争う事態なのかもしれない。本当なら直ぐにでも旅立たせたいところなのだろうが、一か月という猶予を貰えるのなら、優しいものなのだろう。


「それにしても、こんな可愛らしい方が勇者だなんて、私驚きました」

「へ? あ、ありがとうございます……?」


 王がほほほと笑う。馬鹿にされているとかでは無く純粋にそう思っただけのようだが、突然の事で反応できなかった。


「勇者、名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい、彩子です。県彩子と申します」

「勇者アヤコ。貴方の働きには期待しております。どうか、頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 礼をいい、仲間たちと共の部屋を辞去する。部屋を出て一息つく。緊張したなあ。メガネが無いぶんまだマシだったとは思うが、それでも随分カチコチだったと思う。


「あー、肩凝るう。こういうかしこまった場俺苦手だなあ」

「王の前なら誰でも緊張するだろ。お前だけじゃ無いさ」


 茶髪のカリエスと青髪のアザミが話し出す。もう色で判別するしか無え。


「ねえねえ、君アヤコって言うんだよね? これから僕とお茶しない?」


 もはやテンプレのようなチャラ男だ。街角のナンパ男かよ。いや、ナンパ男でも今時もっと気の利いたことを言うはずだ。


「いやあ、私、これから鍛錬したいなって、時間無駄にしたく無いし……」

「えー真面目だねえ。じゃあ仕方ないかあ」


 案外あっさり引いたな。妙な駆け引きをしなくていいのだと安心した、かと思ったらまた話しかけられた。


「そういえば、うちの師匠。サラミラって言うんだけれど、勇者に後で会いに来て欲しいっていってたよ~」

「どんなご用件で?」

「勇者の魔法の才を引き出せるかどうかって言ってたかな。時間見て行ってあげてね? 師匠寂しがりやだから」

「そういえば、アヤコは魔法が使えるのだろうか」


 ルナウィが疑問を呟く。今まで考えもしなかったが確かに自分に魔法の才はあるのだろうか?


「そのための師匠だよ。多分何かしら授けてくれると思うよ」

「じゃあ時間が空いた時にでも行ってみますね」

「うん、お願いねえ。東の塔に引きこもってると思うから」


 東の塔か。覚えておこう。


「勇者アヤコ、長い付き合いになるだろう。これからよろしくな」

「私からもよろしく御願い致します」

「俺もよろしくね!」


 アザミから握手を求められそれに応じる。次いでディシディアと。そうして最後にカリエスの番になったかと思うと手に口付けをされた。チャラ男の行動力はすごいなと、恥ずかしがるよりも前に感心する。


三人の実力を見るのは後日にしようと今日は別れる。残ったのはルナウィ一人。これから鍛錬に付き合って欲しいといえば二つ返事で引き受けてくれた。


「向上心があるというのはいい事だ。時間は少ない。共に頑張ろう」


 ルナウィが手を差し出し握手を求めてくる。その手に自分の手を重ね、ルナウィを見やる。相変わらずぼやぼやだ。こんなんで世界が本当に救えるのか不安だが、まあなるようになるか。

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