放課後は平和な日常の終わり
最近過去に投稿したものを読み返してみたのですが、ちょっと展開……書き方? が早すぎるように感じたのですが、読者の方々はどのように感じていらっしゃるのでしょうか。
中二。
中二と言えばたしか・・・・・・恋ちゃんが初めて手作りのバレンタインチョコをくれたのがこのころだったかな。
一体何に感化されたのかは結局のところ分からなかったけど。あれ以来、彼女に料理をさせちゃいけないって決意させられたなぁ。
漫画か何かみたいに手を絆創膏だらけにしてまで僕にチョコを作ってくれたのは正直に言えばすごくうれしかった。今までみたいな既製品とは違ってお金とかほかのものには変えられない、気持ちみたいなものがもの凄くよく伝わったから。
だけど、家を火事にするのはいただけない。
危うく全焼し掛けた。すぐ消し止めたから被害はキッチンだけですんだけど。
そのあと間もなくして通常の民家にも火災報知器をつけることが義務化されたのは、きっと恋ちゃんのせいというか、おかげというか。
とにかく。
今後恋ちゃんには、永久的に料理は絶対に僕の目の前だけで作ってもらうようにしよう。うんうん。
そうすれば僕たちはずっと一緒にいられるしね。
なんて、ストーカーじみてるかもねぇ。この考え方。
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side恋
お昼休みに佐藤さんと仲良くピザとお弁当を分け合って食べ、その後二人で一緒に教室まで戻った。
ああ、やっと授業受けられる。
思えば最近、全然ちゃんと授業受けてなかった気がしていた。授業どころか、教室にだってあまり顔を出していなかった気がする。
すごく久しぶりって言う感じがした。
「・・・・・・」
しんと静まり返る教室。
三十人強の男女。老若男女とはいかないまでも、決して一人として同じ考えを持つ人がいない、多種多様な考え方、理想、理念を持った人たちが押し込められているはずの教室は、不思議なくらい静まっていた。
なぜって?
だって今、授業中だから。
静まりかえる教室の中で、窓の外からは体育の授業をやっているであろう生徒たちの遠い喧噪や黒板とチョークのぶつかるかつかつとした音、そして周りのクラスメイトたちの板書を書き写すわずかな音だけが、教室の中を層々たる音楽としてクラシックを奏でていた。
「で、あるからして~」
そんな中、その教科の担当の教師のおじさんが、ソロのバスボイスを奏で、観客のいないオペラを奏でていた。
ぶっちゃけクラスの半数以上はケータイをいじっているか、落書きをしているか寝ているか。みんな不真面目だなぁ。
なんて思いながら、私もその例に漏れず。その哀れなオペラ歌手もとい先生の声を、聞き流し、その長ったらしい呪文のような声音は、私の脳を右から左へ素通りしていった。
なんとなしに、ふと前を見ると、前の席には須島君がおとなしく座っていた。
珍しい、なんていったら失礼だけど、須島君が授業中私にちょっかいを出してこないのは、それなりに希なことだともいえた。
でも、今の私にはそんなことすらどうでもよくて、私は内心、彼に自慢したくてたまらないでいた。
何を?
そりゃあついに佐藤さんと仲よくできたから。お弁当を分け合って、お昼の時間を無駄話に費やして。
これこそまさに、彼の求めていた『友達』何じゃないのかな?
彼に一体どんな風に自慢しようか、どんな顔でドヤ顔してやろうかとうずうずしていたら、いつもの退屈な授業の時間さえ、あっという間に過ぎ去っていった。
「あ~授業はこれまでにします。皆さんきちんと復習しておくように」
「「・・・・・・は~い」」
教室の中からは気のない返事があがり、今日の最後の授業が終了になった。目で追うと、教室の後ろの扉からは担任の気弱な女の先生が入ってきていた。
私はそんなことはお構いなしに、いざ彼に自慢してやろうと席を立つと、そこには既に須島君の姿はなかった。
なんて逃げ足の早さ!!
思わず、「なんて早業っ!!?」と声を上げてしまうところだった。
と、そこへ。
「あの、木下さん。帰りのホームルームを始めるので席についてもらえますか?」
「あ、ぅ、はい」
返事をしながら、私は自分の席に腰を落ち着ける。
それをみて担任の気弱な女の先生は帰りのホームルームを始めた。
だけど、目の前の須島君の席は、空席のままだった。
なのに、誰もそれを指摘しないし、気にした様子もない。
それに気づいた瞬間。背筋に怖気が走り、まるで教室の中で私だけ何かに取り残されているかのような感覚に陥った。
先生の声をBGMに、自分だけがほかのみんなと違う時間を生きているかのような、変な感覚。
「なに? これ・・・・・・?」
私の体の内でくすぶる不快感に焚き出されるかのように、小さな声でつぶやくも、いつもそういった疑問に答えてくれる須島君は今、私のそばにはいない。
不幸なことに佐藤さんも私とは席が離れていてホームルームが終わらないと聞くことも出来ない。
背筋にゾワッとしたような寒気が這い上がり、肌が粟立つ。
私は・・・・・・・・・・・・。
「明日は~・・・・・・ですから」
いや、大丈夫。きっと大丈夫なはず。
あれだ。きっと最近春の陽気に宛てられて寝過ぎたから、ちょっと感覚が変になってるんだ。
だからこれは気のせい。
彼がいないのもきっと、おなかが痛くなっちゃったとかで、トイレにでも行ってるんだろう。
きっとこの疑問だって、佐藤さんに聞けば解決するはずだ。なんて事の無い気の迷いだ。
そうに、決まってる。
そんな風に自分自身に言い聞かせながら、異常に長く感じるホームルームの時間を、まだかまだかと背中に冷や汗を止めることも出来ずに待ち望んだ。
どうか、お願いだから気のせいであってください、と。
「じゃ、じゃあこれで帰りのホームルームは終わりにしますねっ!」
「きりーつ、れい」
「で、ではみなさんさよう「さいなら先生!!」
礼を待たず教室から駆け出す男子生徒。
「あっみ、御影くん! まだ礼は終わってませんよ!」
それをとがめる先生の声はむなしく、みんなが声をそろえて挨拶を響かせた。
「「「さようなら」」」
「・・・・・・・・・・・・み、みんなが先生のこと無視するナウ」
「いじけないで、先生!」
「今日は廊下を徘徊しちゃだめですよー先生!」
「わ、私だって好きで廊下を這ってた訳じゃありませんよっ!! っていうかみんなの先生の扱いがひどいですっ!!」
なんて感じでみんなが先生をからかって遊び。笑いが広がった。
ホームルームが終わった。
そうやって楽しげな調子で先生に帰りの挨拶をする頃には、すっかり私の中の不安感。変な違和感のようなものはなくなっていた。
本当に。
不思議なくらいさっぱりと。
でも。
さっきのは、何だったんだろうと気になってもいて、だけど同時に、知らない方がいいような気もしていて。
「ぇん! 木下恋!」
「・・・・・・あっはい!!」
気づくとすぐそばに佐藤さんの姿があった。
考え事をしていたら、ちょっと私は上の空になっていたみたいで、佐藤さんは眉を寄せて無視されたことをちょっ怒っていた。
「ねぇ、だから私の話聞いてる?」
「うぅ、ごめんなさい。き、聞いて、無かったです」
「ハァ・・・・・・まったく。今日でこのやりとり3度目よ?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「いや、ごめんなさいじゃなくて、何かあったの? いくらアンタでも今日はちょっと様子変よ」
佐藤さんはそういってあくまで自然な動作で私のおでこに手を当てるが、平熱だったらしく首をひねってた。
そういう身体的な接触が多いというか、顔を近くに寄せられる系のコミュニケーション離れていないのでちょっとどきどきしてしまった。
べ、別に風邪でもないし、更年期障害でもないんだけどっ!
「その、ちょっと聞きたいことが、あって」
「聞きたいこと? 何よ?」
なんだか軽い調子で聞き返してくる佐藤さんのおかげで、少しだけ気持ちが楽になる。
「その、あの、それが・・・・・・」
「・・・・・・なに?」
「その・・・・・・・・・・・・」
言いよどみながら頭の中で、いつもあまり使っていないせいで若年ながら老化の始まっている脳をフルバーストして考えてみる。
これは本当に聞いても良い事なのか、と。
踏み込んでも良い話なのかなって。
昔須島君のいっていた「世の中には触れなくても良い、知らないほうが幸せなことは存在するかもしれない」と言う言葉が思い返される。
「なんなのよ、気になるわね」
だけど。
彼はそのあとに必ず付け加える言葉があった。
それは・・・・・・。
「知らなくて良いこと、知らない方が幸せなことは、確かにこの世にはあるかもしれない。でもさ、すべてを知った上で幸せを探すことが出来るのは、人間の特権だと僕は思うよ」
だ。
その台詞を聞いたのは何かのドラマを見たあとだった気がする。
そのドラマでの「知らない方が幸せなこともあるでしょ」と言う台詞に対して、彼がいった言葉。
いかにも彼らしい、ひねくれたような言葉だったけれど、それはなぜか私の胸に響いたんだった。
たとえ怖くても、何があっても、自分自身が不幸なことに気づかないで、目をそらして生きていくことが、僕には幸せな事だとは思えないからって。
そのときはふざけてちゃかしちゃったけど、不思議と納得してしまった言葉だった。
だから。
今、すごく嫌な予感がする。
先の見えない暗闇に足を踏み入れてしまうような、そんな恐怖が私の決心を鈍らせる。
怖くて、知らなくて良いことを知ろうとしているような気がするけれど・・・・・・だけど。
ここで踏み出さなかったら、踏み込まなかったら、もう二度と須島君の横に立つことが出来ないような、立ってはいけないような気がするから、だから。
だから私は。
「さ、佐藤さん・・・・・・あの、す、須島君は、その、どうしちゃったのかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
佐藤さんは、突拍子もないような私の疑問を受けて、先ほどまでの困った苦笑いを引っ込めた。
まるで顔から感情が抜け落ちるみたいにすっと表情がなくなった。
その能面のようなその顔は、少し前にいつも浮かべていたちょっと不機嫌そうな顔よりも何倍も恐ろしかった。
怒っているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのか、困っているのか、佐藤さんの表情からは読みとれない。
分からない。
怖い。
そう思った。本心から。
幽霊にでも遭遇してしまったような、背筋の凍る顔だ。
視界はだんだんと涙腺から排出される水滴で埋め尽くされ、周りの景色も、恐ろしい佐藤さんのその表情も見えなくなった。
でも、涙を拭くのが怖かった。
視界のゆがみがとれ、いつも何かしらの感情をその端正な顔に浮かべていた佐藤さんの恐ろしい無表情な表情を見えてしまうことが怖かった。
私は、下を向いてしまった。
泣いて泣いて、怖くて。
どうしたらいいか分からなくて。
目を閉じた。
すると、しばらく沈黙が続いた。
そう、『沈黙』が。
そこで初めて気づいた。
そのことの異常さに。
沈黙。たった感じ二文字で表すことの出来るこの状況の異常さに。
そうだ、おかしい。
おかしいよ。
だってここは・・・・・・教室、なんだから。
さっき帰りのホームルームが終わったばかりで、まばらとは言えこの教室にはそれなりの人数の生徒たちがいるはずなのに。
今は授業中でもないのに。
静か。静寂。沈黙。
閉じた瞳に写るのは瞼の裏がつくりだす暗闇、私の周りには人の気配がしなかった。生活音がしなかった。
静かすぎていた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
体が寒くもないのにがたがたとふるえる。
恐怖にのどがしゃくりをあげる。
目を開けるのが怖い。頭を上げるのが怖い。佐藤さんの顔を見るのが怖い。クラスメイトたちの現状を見るのが怖い。目の前の暗闇が怖い。静けさが怖い。人の気配がしないのが怖い。
何が起こってるのか分からないのが怖い。
助けて・・・・・・須島君。
助けて。
助けて。
須藤君「しらんがな」
佐藤さん「……どうしっちゃたはこっちのセリフなのよね」
なんか初期プロット話が変わってきちゃってる気はしますが、気にしないことにします。
面白ければ何でもいいでしょ?