放課後と佐藤さん
昨日は疲れ果てて寝てしまったので今日2話分投稿します。
うぅ……ねむし。
小学校六年間を終え、中学校へ。
中学一年生の春。
僕は彼女と同じ中学校に入学した。同学年の中には中学受験をする人たちもいたみたいだけど。僕は受験はしないと最初から決めていた。
エスカレーター式に同じ地区の中学校に上がることにしていた。
正直な話をすれば、僕は中高一貫校にだって、それ以外の学校にだって行けるくらいの学力はあった。
だけど、彼女はそうじゃない。
言っちゃ何だけど、木下恋は勉強が苦手だ。
僕が勉強をがんばったのは。それだけの学力を手に入れたのは、彼女が困ったときに何でも教えてあげられるようになるためだ。
それ以外の何でもない。
ましてや彼女と離れて違う学校に行くためでは決してない。
だから、僕は彼女の行く、近くの中学校に入学することにした。
でも、彼女はそんな僕の思いも知らずに、入学初日に大泣きした。
入学式にはクラス分けの結果も張り出されていて、それを見て数秒フリーズしてその後すぐ、思い出したように彼女は泣いた。
もうワンワン鳴いた。それこそ近所迷惑なんじゃないかって位に。
壊れたサイレンみたいだった。
防犯ブザーでも可。
びっくりして職員室から教師は飛び出してくるわ。近所から人は集まってくるわ。周りの人たちはどん引きだわで、阿鼻叫喚というかなんというか。
素で「見せ物じゃねぇぞ!!」を言うことになるとは思わなかったよ。
それに、さすがの僕も、彼女と僕のクラスが一緒じゃなかったからって、ここまでになるとは思わなかった。
っていうか誰も思わなかったと思うけど。
結局。先生達は苦笑いで彼女を僕のクラスにねじ込んだ。
もう、入学初日から有名人になったのは、君のおかげだよ。ホント。
これを書きながら僕も苦笑いが止まらない。
今となっては良い思い出なんだけどさ。
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side恋
時は放課後。
佐藤さんが私にお弁当を持ってきてくれてからかれこれ2時間くらい経過した。だけど、私はまだ保健室にいた。
「・・・・・・だって、しょうがないじゃん」
誰に言い訳するでもなくそうつぶやいてしまう。
でも、この二時間は私にとってすごくいろいろ思い知らされたというか、思うところのあった2時間でもあった。
というのも、あれからというもの。
私はずっと待ちぼうけをしていた。
厳密に言えばトイレに行ったりとか水を飲みに行ったりとか時間をつぶしてはいたけれど。ほとんどの時間を保健室のベットの上で過ごしていた。
でも、あえて言い訳を述べさせてもらうなら、タイミングがつかめなかったと言うほかにない。
だって、考えてもみてよ。
朝、一時間目の授業中に突如泣きだした、クラスでも一、二を争えるくらいに影の薄い変な女。そいつはかれこれその後の授業をすべてばっくれて一度も現れなかった。
そんな奴が午後の授業になって急に教室に現れたら皆どう思うだろうか。
絶対好奇の目線にさらされるのは想像に難くない。
目線が怖い。
視線が怖い。
どう思われてるかが怖い。
これ、絶対後で須島君に「へたれ」とか言われちゃう。
で、でも別に、こっちだって好きでヘタレな訳じゃないんだよっ!!?
「って、言い訳しててもしょうがないけど・・・・・・はぁ。教室、いこうかなぁ」
もうそろそろ授業も終わる頃合いだし、授業終了の鐘が鳴るくらいのタイミングで教室に入れば、中から出てくる人と混じってあんまり目立たないだろうし。
重い重い腰を何とか持ち上げて、私は保健室を後にした。
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「・・・・・・おかしい」
教室にはたどり着いた。
厳密にいうと教室の入り口の前まで。
なのに、チャイムが鳴ってからかれこれ10分は経っているはずなのに、中からは生徒の一人どころか、ネズミの一匹すら出てこなかった。
いや、学校の教室からネズミが出てきたらそれこそ大問題なんだけど。
扉についているガラスからそっと中をのぞき込むと、いつも気弱な担任の先生が真剣な顔でクラスのみんなに何かを話していた。
それを聞くクラスメイトの顔も真剣そのものだった。
そこには、いつもの先生のおどおどした雰囲気も、弱々しげな顔もない。
あの先生、あんな顔もできるんだ。
・・・・・・名前覚えてないけど。
っと、そのとき、教壇で熱弁を振るっていた(?)先生と目があった。
一瞬。私の失礼な心の声が聞こえてしまったのかと思ったけど、どうもそうじゃないみたい。
急にいつものおどおどした感じに戻って、テンパりながらも帰りのホームルームらしき物を終わらせ、私の方へ歩いてきた。
「うわっこっち来ちゃった」
「ひうっ」
今度こそ私の声が聞こえたみたいで、先生は地面に崩れ落ちた。
どしゃあってかんじで
もうHPはゼロみたい。ぴくりとも動かない。
周りの生徒たちは先生を「またやってるよ」みたいな目で見下ろしながら素通りしていった。
あ、中には素通りでもないけど、横目でちらっと見下ろされてから鼻でフッと笑ってから教室を後にして下校していった。
あれ? 先生、人望なすぎっ!!?
っていうか皆がひどすぎっ!!?
そんな中。
「はぁ・・・・・・先生。今日はこれから職員会議なんじゃないんですか? 遅れますよ」
ただの屍のような先生に声をかけたのは、意外にも佐藤さんだった。
意外なんていったら失礼かも知れないけど、佐藤さんの周りにいる人たちはギャル系の人とかいかにもリア充って感じの人とかが多くて、佐藤さんもそっち系のイメージがあるんだよね。
でも、こうやってみると、やっぱり佐藤は優しい人なのかな。私のこと保健室に連れて行ってくれたし。
それに、お昼休みにはお弁当持ってきてくれたし。こんな私なんかに。
先生は佐藤さんの言葉に何も答えずに、ゾンビのようにゆっくりと地面を這って教室を出ていった。
ちょっとその動きが怖かった。背筋がぞっとした。
ゾンビというより、井戸から出てきた髪の長い人みたい。なんて名前だったっけ、あの人。
とにかく。
すごく異様な光景だった。そして先生の向かった廊下の方からは、ちらほら叫び声があがっていた。
ごめん先生。私のひょんな言葉がそんな立ち上がれないくらいショックだったなんて。
でも何か廊下が異常に騒がしいけど、先生、まさか廊下で人襲ってるわけじゃないよね・・・・・・?
なんてくだらないことを真剣に考えていたら、まだその場にとどまっていた佐藤が私に話しかけてきた。
「木下恋」
「ぃ、は、はい?」
「さっさと鞄持ってきなさいよ」
「ぇ? え?」
佐藤さんは何を言ってるの?
鞄をもってこいって・・・・・・もしかしてパシリかな?
佐藤さんの席の周りを探して見るも、佐藤さんの鞄はそこにはなかった。
机の中にも何もないし、横のフックにも何もかけてなかった。
佐藤さん。毎日教科書を家に持って帰るなんて・・・・・・意外とまじめな優等生だったんだね。
いや、一応成績いいのは知ってるけど。
「・・・・・・何してるわけ?」
「さ、佐藤さんの・・・・・・か、鞄」
「・・・・・・はぁ?」
「うぐっ佐藤、さんの・・・・・・か鞄探して、ます。ひぐっ」
やっぱり佐藤さん。怖いです。
顔が。
「はぁ・・・・・・鞄って、アンタの鞄に決まってんでしょ? っていうかこれくらいでいちいち泣かないでよめんどくさいわね」
「・・・・・・ごめん、なさい」
「ほんっと世話焼けるわねぇ・・・・・・はぁ」
佐藤さんはため息をつきながら私にハンカチを差し出してくる。
「な、なんですか?」
「顔拭きなさいよ」
「ぇ? 私が、ですか?」
「そうよ。アンタの顔を、よ! ここで私の顔拭いたらいかげん怒るわよ!!?」
うぅ。もう怒ってるよぉ。
これ以上怒られると怖いので、私は自分の顔をハンカチで拭いた。
ハンカチで目元を拭うと、そこからはふわりとした柑橘系の良い香りがした。
そっか・・・・・・これが女子力か。
「ほらっ顔拭いたら鞄もってさっさと帰るわよ!」
「かえ、る? どこに、ですか?」
「は? いや、帰る場所っていったら家しかないでしょうが」
「そ、そう、ですね。えへへ、ごめんなさい」
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
「・・・・・・」
っというわけで、家に帰るん・・・・・・だけども。
うん。
「な、何で佐藤さんがいるんですか?」
下校中。
何故か私の隣には佐藤さんがあるいていた。何で?
「は? いや、アンタマジでいってんの?」
「ぇ? え?」
その「いってる」の字がイってるなのか、言ってるなのか、それが問題だ。
私が吃音混じりに聞き返すと、佐藤さんはその端正な顔をゆがめてめんどくさそうに返答する。
何か変なこと言ったかなぁ、私。
「アタシは今日、仕方なく。ほんっとうに仕方なくアンタと一緒に帰ってあげるって、さっき言ったじゃない」
あれ? そんなこと言ってたっけ?
・・・・・・言ってたかも知れない。
でも。
「え・・・・・・? な、何でですか?」
「ちっ・・・・・・・・・・・・別に良いじゃないそんなこと」
佐藤さんは舌打ちをして、さらに顔をしかめてそっぽを向いた。
ツンデレ・・・・・・だったらよかったなぁ。いや、実際そんな展開はうれしくないけど。そういう趣味はないし。
佐藤さんは、それ以降沈黙してしまった。
羊達じゃないのに沈黙してしまった。佐藤さんと私の間には、とてつもなく広い溝と、沈黙だけが存在する。そんな気がした。
それでも、私も佐藤さんに自分から話しかけられるわけもなく、気まずい空気の中、自分の家までの帰路に就いた。
その最中。ずっと佐藤さんは不機嫌そうだったし、何でか家のすぐ近くまでくるし。
あ、佐藤さんの家ってこの近くだったんだ。
そもそも。
これ、何の罰ゲームかな。
そんな風に内心グチりながらも、私は家にたどり着いた。
なんだか今日は色々合ったから、家について昼寝のつもりでベットに寝転がると、睡魔という睡眠欲の悪魔が私を眠りの世界へ誘った。
勿論私も理性という勇者が悪魔に立ち向かったが、あっという間に敗北した。
私の理性弱っ!!
そんな自分のつっこみの声が暗闇の中でこだましながら頭の中を巡り、私はゆっくりと無意識の海へと落ちていった。
女教師はゾンビのように廊下を徘徊する。
授業中に突如泣き出し、消えてしまった女生徒。
早くも二つの学校七不思議を作り出してしまった主人公たち。
彼女たちはこれから何を思い、何に立ち向かっていくのか。
戦いはまだ、始まったばかりだっ!!
もう仕事いかなければならんので今日はここまで。
ではでは。