佐藤さんと喧嘩
おはようございます。こんにちわ。こんばんわ。
皆様お読みいただきありがとうございます。
今話ではなんと! 須島君がなぜこんなにすんばらしい優良物件の佐藤さんではなく、木下恋なんていう幼馴染であることくらいしか取り柄のない女の子を好きになったのかが明かされます。
まあ本題はそっちじゃなく佐藤さんとの喧嘩の方なんですけどねぇ。
それよりも、私事で申し訳ないのですが、休みが欲しいです。
一週間くらい。
……頑張れ私!!
僕は、木下恋。
君のことが好きだよ。
いつから好きだったかとか、そんなこと覚えていないけど。
ふわふわした猫みたいな髪の毛が好きだ。
垂れた目が好きだ。
いつも君からするかすかな甘い匂いが好きだ。
人を傷つけられないその優しさが好きだ。
一人では何もできないくせに、それでもがんばろうと努力するところが好きだ。
でもね、一番好きなのは、君の笑ってる顔だよ。
くしゃっと相好を崩して、目尻を下げて、なのになぜか眉尻の下がってしまう、そのちょっと変わった笑い顔が好きだ。
始めてみたとき、すごくかわいいと思った。
だから、僕は君にいつだって笑顔で居てほしい。
僕の好きな君には、僕の好きな君の笑い顔で居てほしい。
それがささやかな、けれどたった一つの僕の願いだ。
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side恋
「須島君が意識を失う前、あなたに……僕は君の笑顔が好きだから、だから何があっても笑った顔を見せて欲しい……そういったそうよ」
「須島君がそんなことを……?」
だから私はそんな状況で……?
「それに、最近見ていてわかったけど。アンタ、結構泣き虫でしょ?」
「ぅ、はい」
「だけどね、須島君の前で、あなたは一回も泣かなかったのよ」
「……え?」
「泣き虫で、小さなことでもすぐに泣いちゃうアンタが、それでもなお、須島君の前では一回も泣いてなかったのよ」
「そんな……」
わたしは、大切な人が自分のせいで傷ついて、居なくなってしまうかもしれないと言う状況で、泣かなかった。
……泣くことすらできなかった。
そっか、私ってそんな最低な人間だったんだ。
そんな冷たい人間だったんだ。
最悪だ。
本当に。
死ねばいいのに。
そういえば……何で私って生きてるんだろう。
こんなゴミ。
「勘違いしないで木下恋!」
「……」
「泣き虫なアンタが泣けないくらい、泣けなくなるくらい、須島君を傷つけてしまったことが、悲しかったんじゃない? 辛かったんじゃないの?」
「私は……」
どうなんだろう。
「少なくとも私、それに担任の女の先生にもそう見えたわ。辛くて、悲しくて、苦しくて、……だからこそ泣くことすらできない、そんな風に感じた」
確かに間違ってはいないかもしれないけれど。
でもそれは。
「それにね、アンタその後、急に甲高い声で笑い出して、家に帰ったのよ?」
「ぇ……な、なんで?」
須島君をおいて私が家に帰った?
どうして……。
「覚えてないのね。アンタ、須島君が望んでるから、家に帰らなくっちゃって言ったのよ。……あのときのあんたの目は、本当に恐ろしかった」
深淵をのぞきこんでいるようだった。
と佐藤さんは言う。
言いながら佐藤さんはぶるりと身震いした。
そっか、その時からなんだ。
そこから私は狂っていた。
直視できない現実に狂ってしまった。
「それが、何だってんですか!! 結局、この雌ブタがお兄ちゃんの傍から逃げ出したことには変わらないじゃないですかッ!!」
「あ……うん。そう……だね。そうだよね」
今まで黙っていた須島君の妹、ミサキちゃんが叫ぶ。
だけど、やっぱり彼女の言うことは正しい。
だって私が逃げた事実は変わらない。
どんなに辛くても、苦しくても、それでも自分のせいで傷ついた須島君の前から逃げて良い理由なんかには成えないはずだ。
はずなのに、私は……。
「だからアンタはバカなのよ。須島ミサキ」
「はあ?」
「ならなんでアンタはこんなところにいるのよ?」
「ちっ……胸の脂肪に栄養とられて頭に栄養足りてないんじゃないんですか? 病院には面会時間ていう物があるんですよ! それに私は昨日まで、ずっとお兄ちゃんの傍に付き添ってたんだッ!! 乳だけの牛女に何がわかるッ!!」
「はぁ……結局、そこなんでしょうね」
えっと?
どういうこと?
「須島ミサキ、アンタがここにいる理由は、木下恋に八つ当たりする為でしょう?」
「八つ当たりなんかじゃないッ!! そいつのせいでお兄ちゃんはッ!!」
「……だから、それなのよ。面会時間があるから無理矢理引き離されて、その鬱憤を木下恋にぶつけるってことなんでしょう? ほんと、バカって嫌いなのよね……同族嫌悪なんでしょうけど」
佐藤さんは何を?
「確かに木下恋は結果的に逃げたように見えたかもしれない。でもね、そうじゃないのよ。木下恋の行動は常に、須島君が指標になってるのよ」
「はあ?」
「ぇ……?」
「アンタも私も、自分の感情が一番で、自分の思いのために行動している。……それ自体は悪いことじゃないわ。けどね、木下恋は、自分の為じゃなく、須島君に言われたから、須島君が望んでるから、だから辛いことでも実行するのよ。だから彼から離れた」
『ほかならぬ、須島君自身が木下恋に笑ってほしいと望んだから木下恋は無理矢理にでも笑った。死ぬほど辛かったはずなのに。苦しかったはずなのに。それでも……それに、彼が学校に行くことを望んだから狂ってさえも、正気を失ってまで学校に通った。まともで居られなくなるくらい、木下恋は彼の傍にいたかったはずなのにね』
そんな、私はそんな……良い人じゃない。
と思う。
「アンタにできる? 須島君が望んだからって、こんな状況で学校に通える? 彼の死にそうな姿を見て、それでも彼に笑顔を向けてあげられる?」
「そんなの、お兄ちゃんさえ望めばッ」
「無理でしょう? だってあなた、昨日まで須島君の傍で泣いてただけじゃない。何もやってないじゃない」
「くッ……っていうかいつまで私のこと足蹴にしてんだッ!! 汚い足で踏むんじゃねぇこの売女がッ!!! お前はおっさん相手に援交でもやってろこのクソ……ッ!!?」
「……」
佐藤さんは無言で須島君の妹、ミサキちゃんの顔面と腹部にかかとを振り下ろした。
その時の佐藤さんは、今までで一度も見たことがないくらいに、怒りをにじませた表情をしていた。
すごく怖い顔をしてた。
鈍い音がして、ミサキちゃんはうぐっと呻いた。
「はぁ。私のこの力もそう、私はいじめを受けてたとき、相手に対して暴力で応戦した。いえ、応戦するためにこんな力を付けたのよ」
「……だから佐藤さんはそんなにつ、強いんだ」
「強くなんてないわ。それに、変に力を付けてしまったせいでいじめは余計に陰湿になったしね」
……そういうことなんだ。
だから掲示板にまで。
「だから、私とアンタは一緒なのよ須島ミサキ」
「はあ? どこがっ!!?」
「そういう、自分のためにしか頑張れないところが。……それに比べて木下恋は、自分がどんなに辛かろうと誰かのために頑張ることができる。どんなに辛くても誰かを傷つけたりはしない、誰かのせいにしたりはしない」
「私、が……」
「だから須島君は木下恋を選んで、私たちのことは選ばなかったのよ。だって須島君は……」
そう。
「「誰かのために頑張ることのできる人間が好きだから……!!」」
それは、彼がよく口にしていた言葉だった。
だから口をついて思わずでた。
そんな私に佐藤さんはにっと笑いかけ、声をかける。
「そういえば。机の上にある手紙、たぶんアンタのよ」
「え?」
確かに、彼の机の上には見慣れない、かわいらしい便せんがおいてあった。
そして、それは佐藤さんの言うように、私に宛てた手紙だった。
「それを読んで答えを出しなさい。これからどうするか。あ、でも言ってとくけど____」
「な、何ですか?」
「アタシはまだ、須島君のことを諦めた訳じゃないから」
「……ぅ、はい」
友達が、ライバルへと昇華してしまった。
今の佐藤さんは前よりももっと輝いていて、すごく手強い感じがした。
勝てるのかなぁ……?
ってなんの話?
「……と、とりあえず、手紙読んでみようかな」
口の中が切れて血の味がした。
さっき思いっきり何発も殴られたせいで頭も、顔も、体中が痛かった。
メガネもどこかへいってしまった。
でも、彼の手紙を手に取ると、不思議と力がわいてきて、どきどきして、わくわくした。
私、やっぱり……。
確信に近い思いを胸に、須島君からの私への手紙。
彼からの思いを紐解いていく。
中に入っていた手紙は、かなりの枚数があった。
10枚? いや、それ以上かもしれない。
それでも、彼が。
他でもない須島君が。
この手紙を私に向けて書いてくれたんだ。そうおもうと、不思議なくらい穏やかで幸せな気持ちになれた。
でも。
いや、だからこそ。
「木下恋……?」
「私なんかにこれを読む権利があるのかな……?」
須島君を傷つけてしまった私なんかに。
彼からの手紙を読む権利なんて。
彼の気持ちを知る権利なんて、あるのかな?
「……木下恋。アンタホントおバカね!」
「ば、ばか……」
うぅ、分かってはいたけど。
改めて言われるとショックだなぁ。
「アンタ。どうせ自分が須島君を傷つけたとか思ってるんでしょ」
「……ぅ、うん」
事実だし。
あの時、私が彼と一緒に帰らなければ。
一人で帰ることができれば。できるようになっていれば。
あの時、私がちゃんと気をつけてあるいていれば。
あの時私が……彼の傍いいなければ。
きっと彼は怪我を負ってしまうことも。
入院することも。
生死の境をさまようこともなかった。
もしあそこにいたのが私じゃなくて、もし仮に……佐藤さんだったら。あるいは、須島君の妹、ミサキちゃんだったら。
きっと須島君はあんなことには……。
知らず知らず、目に涙がたまる。
泣いてしまいそうになる。
だけど。
ギリッ。
私には泣く権利すら……。
「木下恋!!! いい加減にしなさいよアンタ!!!!!!」
「ッッ!!!?」
急に佐藤さんが怒声をあげるから、私はびっくりして転んでしまった。
いや、床に転がっている須島君の妹、ミサキちゃんでさえも驚愕し硬直して、青ざめた表情をしていた。
「木下恋。重要なところをはき違えないで! 須島君はね、アンタだから助けたのよ!!!」
「で、でもそれは、私じゃなかったら……私がいなかったらッ!!!」
「須島君は傷つかなかったって? ふざけないでよッふざけんじゃないわよ木下恋!!! 須島君はね、そんな冷たい人間じゃないわよっ! 須島君は、たとえアンタを助けることが、自分が死ぬことであったとしても、たとえ自分がどれだけ傷つく結果になったとしても、それでも彼は他の誰でもない、アンタのためにどんなことだってするのよっ!!」
「それは…………分かってます。けど……でも」
だからこそ。
彼がそういう優しい人間だからこそ、私は彼の傍にいない方が……。
そう、つぶやいた。
「は?」
佐藤さんの方から重く怒りの感情の乗った疑問符が発せられた。
その声に驚き佐藤さんの顔を見ると、彼女が怒りに顔をゆがめたのが見えた。
そして、先ほど須島君の妹、ミサキちゃんに売女扱いされたとき以上に怒りに拳をふるわせた。
佐藤さんは大股で私に近づいてくる。
ずんずんずん。そんな足音すらしそうなくらいの迫力だった。
そして。
「ッざけるなぁあああああああああああああああ!!!!!!」
大音声の怒号とともに、私のこめかみに鋭い痛みが走り、気がついたら私は地面に思い切りたたきつけられていた。
見上げると。
佐藤さんは、回し蹴りを繰り出した後みたいな体勢で私を見下ろした。
「……アンタが選んだんじゃないのよ!! 須島君が選んだのよ!! アンタを守りたかったから守った。アンタを失いたくないからかばった!!!」
何より。
「アンタの傍にいたいからずっと一緒にいたんでしょうがッ!!! 彼が選んだのよ、アンタと一緒にいることを、アンタを守ることを、なのにッなのにそのアンタがッッ……彼の思いを踏みにじるなぁぁああああああッ!!!!!!!!」
涙がこぼれた。
「……だって、私のせいで、私のせいで須島君がぁああああ。ぅぁああああああああああああああああああああああああああああん」
私はみっともなく、子供のように泣いた。
でも。
「そうよ、泣きなさい。泣いていいのよ……だってあなたは、大切な物を傷つけてしまった。そして何より、これから無くしてしまうかもしれないのだから……だから今はちゃんと泣きなさい。泣いて今の感情に区切りをつけなさい」
生まれて初めてここまで大声で泣いたのかもしれなかった。
それでも、佐藤さんが、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった私を、優しく抱きしめてくれた。
優しくて。
暖かくて。
私は流れ出る涙を止めることができなかった。
私が落ち着いたのは、外が暗くなり始めてからだった。
いつの間にか、大雨は降り止んでいて。
床に転がっていた須島ミサキちゃんは、「なんか、ばっかみたいです」とか吐き捨てて、いつの間にか自分の部屋に戻って行ってしまった。
「……木下恋」
「何? 佐藤さん」
「もう、大丈夫よね。もう彼の気持ち、受け止められるでしょう?」
「……うん」
私のせいで傷つけてしまった。
私のせいで失ってしまうかもしれない。
だけど、だからこそ私は、もう前に進まなくちゃいけないんだと思う。
いつまでも彼の幻影を追いかけるのではなく、本物、現実にいる彼を受け止めなくちゃいけない。
その第一歩としてまずは。
「私、手紙……読んでみます!」
決意を込めて、私は大きな声でそう宣言した。
須島ミサキ「ちょっとっ私の扱い雑過ぎませんかこのクソ作者がッ!! 舐めたことやってると買い手のいない食肉に加工してやりますよッ!!」
担任の女教師「し、しかたないですよ。本当はあなたこの物語に出る予定じゃなかったですから」
須島ミサキ「はあ? ちょっと自分は何話も登場してるからって調子こいてんじゃないんですか? あなたも食肉希望ですか? ……脂肪は少ないけど、まあ趣味は人それぞれですしね」
担任の女教師「胸の大きさの話はしちゃだめなのぉおおおおおおお!!」(ノД`)シクシク
須島ミサキ「ええ!? ちょっこんなことで泣かないでよ。あなた一応教師でしょ?」
担任の女教師「一応じゃないもぉおおおん。うわぁぁあああああああぁぁん」ふぇーどあうと
さてさて、盛り上がってまいりました幼馴染の恋愛便りもついに佳境に入りました。
次回は早めに投稿する予定なのでよろしくお願いします!
では、あでゅー。
須島君「ふっ、早めっていっても明日じゃないけどね~。後、作者ポンコツだから、もし誤字脱字、文章的な間違いを見つけたら教えてあげてね」