信念:2
「時を止めないで突撃する気?
発動時に相手に触られていたら、
その相手も少し動けるのよ?」
「さあな、秘密だ!」
颯花は霊夢へ駆け走る。
両手に数本のナイフを構え、
接近中に次々と投げた。
「珠符『明珠暗投』ッ!」
無数のナイフに、一つの陰陽玉が飛ばされた。
陰陽玉はそれらを弾き、颯花へと向かう。
颯花はそれを横へ緊急回避、
再び立ち上がり突撃する。
「陰陽玉は飛ぶだけなんて考え、甘いわね!」
「…ッ!」
颯花の背中に、陰陽玉がぶつかり、鈍い音が響く。
霊夢の足下まで大きく吹き飛ばされた。
「…背中の骨格にヒビが入ったな…
次ダメージを受ければ故障確定か…」
「何をブツブツと…今のあなた隙だらけよ!
当たりなさい!封魔亜空穴!」
霊夢は颯花の真上にテレポート。
針のような弾幕を降り注いだ。
「空中になった貴様の負けだ!
今だ!時よ止まれッ!私以外の時よっ!」
「何を…!」
颯花は時を止めた。しかし、発動が遅く、
数本の針状の弾幕が、胴体へ刺さっていた。
颯花は更に吐血した。
「8秒間で…いや、片方を魔理沙へ変化…
この4秒、溜め時間に使わせてもらう…!
魔砲『ファイナルスパーク』照射準備…!」
颯花は、霊夢へミニ八卦炉を構えた。
そのミニ八卦炉は少しずつ光を集めていく。
「まだだ…威力が低い…!
時止め終了2秒前…2…1…ッ!」
そして、颯花の時止めは終了した。
「いつの間に魔理沙に変化してる…!
しかもその技は…!」
「全てを消し去る光…!
くらえっ!魔砲『ファイナルスパーク』ッ!」
「駄目…ワープが間に合わない…!」
その後、眩い閃光が霊夢へ発射された。
霊夢は結界を生成。その高火力を凌いでいた。
「こんな程度…私は…負けない…!」
「はああああああっ!」
「最大限の霊力をこの結界に…!
前面集中型、神技『八方鬼縛陣』ッ!」
その結界は、その高火力に負けず、
その閃光から霊夢を守りきっていた。
「そろそろでしょうね!照射終了は!」
「ふっ…終了前に、私の中の予測を実行する…!」
颯花はミニ八卦炉を手放した。
そして、霊夢の背後へワープする。
「貴方…!何故そこに…!
じゃあこれは誰が放って…!」
「霊夢、君の能力の結界を使って、
一時的に持ち手を離れても魔力を供給出来るよう
そうしておいたのさ…
どうやら私の感通り、霊力と魔力には、
似た性質があるようだ」
「なによ…それ…!聞いてない…!」
「おそらくそうだと思っていたさ。
何故ならこれは偶然の産物…
予測はしていたが出来るとは思っていなかった」
「くっ…だけどもう終わりみたいよ」
「思ったより早いな…」
直後、ミニ八卦炉の照射時間が終了。
霊夢は結界を消滅させ、
霊力として自らの体に戻す。
そして背後の颯花へ向いた。
「これで…あんたの負けね…!」
「それは…どうかな…!」
「後ろを取ってもすぐに攻撃しない…
どういうつもりかしら…」
「さぁな、ここからはもう考えてない」
「…。馬鹿な奴…!」
颯花は能力の全てを解除、生身の状態となった。
「もう死ぬのには怖く感じてない…
私は私の、他人の力ではない…
自分の力だけで戦ってみせる…!」
「体術とか習ってるならまだいいとして…
あんたは苦手な接近戦をする理由は何なの?」
「私が…そうしたいから…それだけの事…!」
「…容赦はしないわ…!」
霊夢は無数の霊符を展開、
彼女単体ではまともに戦えない欠点と、
圧倒的な実力差は歴然だった。
「両脚…セーフティ解除…
オフェンス・モード…!」
颯花の両方の太ももの内部の機械の
ショックアブソーバーが露出、
それらは高熱を発して紅色となっていた。
「来なさい…!」
颯花の正面のほぼ全ての視界が、
霊符に包まれるほどの質量が彼女を襲う。
しかし、彼女は目をつぶっていた。
そして、両脚を踏み込む。
「…ッ!?」
両目を閉ざした颯花は、
まるで見えてるかのようにそれらを回避した。
そしてその紅い両脚は霊夢へと踏み出していく。
その圧倒的な物量の僅かな隙間を、
流れる水のようにすり抜けていく。
数弾が掠ったものの、直撃で爆破させることもなく
全てを凌ぎきった。
「なによそれ…悟りでも開いたのかしら…!
けど…
流石に収束撃ちには隙間なんてないわよ…!」
先程と同じ弾幕を再び放った。
しかし、今度は颯花の居る方向のみに放った。
「風圧結界…土風型…ッ!」
颯花は右手の機械を地面へ叩きつけた。
そしてその場所から周囲にかなりの風圧を発生させ
前方の霊符を全て吹き飛ばした。
そして更に互いの距離が短くなっていく。
「風圧で飛ばすのなら…
飛ばせない程の巨大な輝弾タイプなら…
貴方はどう防ぐのかしら…!!
宝具『陰陽鬼神玉』ッ!当たりなさいッ!!」
その颯花の何倍もの大きさの輝弾が、
彼女へと迫ってくる。
「吹き飛ばせない…なら…!弾き返すだけだッ!」
颯花は大地に左脚で踏み込む。
そして右脚を振り上げ、輝弾へ蹴り込む。
だが、負荷が溜まっていたその身体は、
瞬時に壊れ、容易く爆散した。
「原始的に焚き火をするよりも、
簡単に壊れたわね!」
「まだ…終わっちゃいない…!」
しかし、速度が落ちた輝弾は、
少し無理をするだけで軽く押し返した。
その輝弾は霊夢の頭上を通り抜ける。
そして、片脚の彼女はそれでも接近する。
「まだやるのね…本当に機械みたいに…!」
「機械だからこそ自分を捨てれた訳ではない…
死ぬ運命だと分かってからこそ!
前を向いて歩むことが出来た!
仲間を信じて疑わなかったからっ!」
颯花は片脚だけで大きく飛び上がった。
それは彼女にとって自殺行為だった。
「その魂…儚く…鮮やかに散りなさい…!」
霊夢は無数の霊符を飛ばした。
空中の無防備な颯花に避ける術はなく、
全て命中した。
しかし、彼女の消された記憶が薄く蘇り、
手元が狂ってしまった。
即死とは行かなかったが、ほぼ致命傷だった。
彼女の右腕と左脚が損傷し、爆発した。
しかし、颯花は突撃を止めない。
頭上からほぼ重力に頼って接近しており、
霊夢なら容易く回避可能だった。
しかし、その相手の、信念を訴える様な眼差しが、
彼女の動きを鈍くさせた。
「この時を、この瞬間を待っていたんだぁああ!!」
「まだ動けるって!?貴方は一体何なのよ!」
「これを…私の…思い…希望…全て…!
届けぇえええええええええええええええ!!!!」
そして彼女はその左腕で霊夢に優しく触れた。
その後、高圧力な電力で霊夢を気絶させた。
そして、残った左腕は負荷を負い爆散した。
そして彼女は満身創痍となった。
意識が戻ったのはその10分後位だろうか。
目覚めた霊夢は周囲を見回し状況を確認する。
「……!」
「やっと目が覚めたな…よく寝る奴だ…」
「あんた…」
「電力で頭ん中の記憶を書き換えてみたが…
で…どうだい…?消された記憶は戻ったか?」
「…。ええ、私は…私達は…利用されていたのね」
「ふっ…ならこれで…私の役目は…終わった。
次は君が…死ぬ気で頑張る番だ…」
「ちょっと待ってよ…どういうこと…?
まさか死なないわよね…?
あんだけ馬鹿みたいに不死身だったくせに…」
「ああ…運が良かったとしか言えないね…
責任を押し付けるようで悪いが…
これからは…君しか出来ないことさ…」
「でっ…でも…」
「行け…!時間が掛かり過ぎている…
私に構ってるのは…他の死んだ奴に悪い…」
「…」
「大丈夫さ。人は…いつしか死ぬ。
それが…早まっただけさ」
「あんた…でも人じゃないって…」
「私は…皆が幸せになれるなら…
鬼となり悪魔にもなる。死神にも魂を売る。
私は色々な人を殺した。だが後悔はない…
色々…楽しかったよ…運が良ければ…
再成後の世界でまた会えるかも…な」
「貴方…でも泣いてるじゃない…」
「結局…何も出来なかった償いか…いや…
最後には正直になろうかな…はは…」
「…」
「やっぱ…死にたくない…けど…
もう無理みたい…体が動かないわ…。
死なせちゃったみんなの為に出来たことが…
結局…何一つもなかった…
自分のせいで……ごめんね……。
地獄行き…かな…私は…。
あっちで…宜しく…やってくるよ…」
「…」
「絶対勝てるって…信じてる…」
その後、颯花は自爆した。
絶命時に爆発する、機密保持用に搭載された
自爆システムが、起動されたのだった。
辺りに彼女の破片が、燃え尽きながら飛び散る。
彼女の生きた痕跡は全て消え去った。
「…私は…何の為に…嘘を…」