高性能魔法と策略魔法:2
魔理沙は咄嗟に後ろへ仰け反りながら回避したが、
少し間に合わず、氷柱は額を掠りつつ帽子に穴を開けた。
魔理沙はその傷から少し血が流れていたが気にもせず、
「いって〜…」
そんなまるで恐怖を感じていないのんきな言葉を言った。
しかし魔理沙は心の中で何かを計画しているかのように、
相手の冷静さを崩そうとしたのか相手を挑発している。
「ほら、もっと来いよ!まさか…ビビってる!?
予想以上だからビビってるのかな!?」
「……ッ…!」
紫色はそれに釣られたのか、魔法陣を展開し始める。
それは先ほどまでとは違い壁、天井、床、様々な場所に、
まるで魔力が無尽蔵とも言えるほどの数が作られている。
しかし、もう数が増えただけでは魔理沙は驚きもしない。
数が増えただけで弾の軌道が変わらないということに、
彼女は既に気づきそして魔法陣は壁のある場所にしか、
設置出来ないことまで魔理沙は勘づいていたのだった。
「(やっぱりな、あの魔法陣…
壁がある場所にしか展開出来ない…!)」
地下のこの巨大な図書館を舞台に氷柱が何本も生成され、
壁や天井、全方向から無数に魔法陣から生え続けている。
その景色まるで雪山の洞窟のような状態になりつつあった。
それを駆け回りながら避け、ひたすら避け続けている。
「大きな態度をしておきながら逃げてばっかりね!」
「おう!だからなんだって言うんだ!?」
その巨大な氷柱は魔理沙が走る度どんどん増えていく。
それによって図書館内はほぼ氷で埋め尽くされていた。
室内が寒過ぎと感じてきた魔理沙は頃合だと思ったのか、
彼女は突然足を止め、紫色の居る方向へ振り向いた。
「そろそろだな!」
「諦めの時間かしら!?」
「残念だけどその正反対だ!」
今まで地面だけを足場にしながら逃げていた魔理沙。
しかし紫色の氷の攻撃が、彼女に新たな道筋を作った。
「…なっ!?」
魔理沙を襲った氷柱は、彼女の足場に成り代わっていた。
今まで攻撃してきたものを逆に彼女は利用したのだった。
魔理沙はその氷柱のある場所を殆ど理解しているように、
正確に脚を氷に付きながら空を飛ぶモモンガのように、
見事なまでに華麗でしなやかに素早く飛び回っていた。
紫色は魔理沙の即興で考えた行動を見て驚愕を隠せない。
「まさか!そんなことあを考えていたというの!?」
「そうだ!そしてお前の次の言葉は!」
「これも計算の内って事なの!?」
「これも計算の内って事だぜ!!」
氷を蹴って移動する度に移動速度とキレが増していく。
ついには紫色が予測できずに目で追えなくなるほどまで、
彼女の動きは先ほどとは似つかずとても素早くなっていた。
「いつも引き篭もってるからそんな羽目になるんだよ!」
「なっなぜそれを!?私とあなたは初対面なはず!」
魔理沙はその言葉に返事をすることなく紫色へ突撃する。
彼女飛び蹴りは氷柱と氷柱の間を見事にすり抜けていく。
何百本もの氷柱がありながら1度もぶつからず一直線に、
紫色の目の前に魔理沙の姿が高速で迫り来ているが、
それに反応出来るほどの本人の反射神経は無かった。
「うおおおおおくらえええええええ!!!!」
「駄目っ!防御の魔法が間に合わない!」
ドゴッッッッ!!!!!!
魔理沙のライダーキックが紫色の腹部に炸裂した。
その攻撃の反動で後ろへ相当な距離を吹き飛ぶ紫色。
彼女の手に持っていた魔導書は衝撃で手元から離れ、
彼女が居た場所の魔理沙の足元には魔道書だけが残った。
「ゲホッゲホッ…ちっ……」
「高性能魔法が、策略に負ける。それは、
まだそいつには欠点、穴があるってことなのさ。
だからまだ極められる。これだから魔法は面白い」
「……戯れ言を…ゲホッ。
だけど、あなたはひとつ誤算をしているわ!」
「なんだとッ!?」
魔理沙は自分の思った通りになり過ぎて油断をしてした。
紫色は吹き飛ばされる前に木属性の設置拘束型の魔法を、
蹴られた瞬間に足下にいつの間に展開していたのだった。
そしてその魔法は作動し、ツルがそこから生え伸びる。
「フフッ…考え無しに突っ込んで来るから…!」
「やらかした……チッ…!」
そのツルが魔理沙の脚にもがけばもがくほど絡みつく。
強い力で引っ張るほどに、その拘束力は増していった。
魔理沙はそれによって行動を制限され、何も出来ない。
「どうやら…チェックメイト…ね…」
紫色が痛みを耐えながら、その場でそっと立ち上がる。
彼女は魔理沙を見つめ不気味にそして不敵に笑っていた。
どうみてもこの状況で彼女の勝ちが決まったからだ。
「私を翻弄したし、褒めてあげるわ」
「へぇ…ありがとさん」
紫色は自分の肩の隣りにとても小さな魔法陣を展開した。
直後、小さな氷柱が魔法陣から出現、撃ち放たれた。
それは魔理沙目掛けて発射されたが、軌道は直撃を逸れ、
回避すら出来ない相手を紫色は仕留め損ねていた。
氷柱は魔理沙の右の横腹に刺さっていてかなり痛いが、
それよりも直撃を逸らした事に魔理沙は気になっていた。
「いっっ……たっ…!」
氷柱は魔理沙の体温で溶かされ傷穴が開き血が流れた。
さきほどの足場になった大きな氷柱が飛んで来ていたら、
即死は免れなかったであろうし、疑問は増えていく。
氷柱は小指ほどの大きさだったが痛みは相当なものだ。
「楽には殺さないわ。そうね、名前を聞こうかしら」
「…霧雨……魔理沙…いっ…なるほど、
このまま…私を弄ぼうってのか…?」
「霧雨魔理沙…ね。
私はパチュリー、パチュリー・ノーレッジ。」
紫色、いやパチュリーは魔理沙の近くまで歩み寄り、
足下に落ちている自分の魔導書を再び手に持った。
次に魔理沙から離れ、何故か元の位置へ戻っていった。
そのまま近寄って殺しに来ると思った魔理沙の考えを、
分かっていたかと思うほどに彼女の読みを裏切った。
「そうね、今から痛み無く葬ってあげる。
その状態で足掻けるのなら、してみなさい」
「ちっ…こいつ…」
そしてパチュリーの目の前に大きな魔法陣が出現した。