館の内部/高性能魔法と策略魔法:1
あぁ不法侵入だ…殺される…
ぐちぐち言わないでよ…全くうるさいなぁ。
そんな他愛のない会話をし続けながら、その先へ進む。
今いる中庭らしき場所の花壇には相変わらずの紅い花が、
ほぼ等間隔で丁寧に植えてあり、とても綺麗だった。
それは細かく、素人目に見てもかなり手入れも良い。
でも……なんかこの風景には見覚えがあるような…。
そしてこの巨大な紅い館の入口にやっとのこと到着。
やたら門から入口までの道のりが長かったるかったが、
そんな事はふたりは着いた事に気を取られ気にもせず。
「よーし、開けるぞ」
「怒られても知りませんよ?」
「お前も同罪だ」
「びぇぇ…」
扉が少しづつ開いていき、中の様子を伺ってみた。
その内側はとても薄暗く足元が危ないほどに暗かった。
外から差し込む光が逆に闇に消されていると思うくらい、
とてつもなく暗く、この中で住もうとする気は起きない。
真っ赤な外装と暗黒の内装という極めて奇妙な館に、
お化け屋敷でも来ているかのように恐怖に怯えていた。
「うわ、暗いな。凄いレベルで節電してんだな」
「魔理さんここ、そもそも電気通ってませんよ」
「あーもう、ボケたんだって…」
颯花をからかおうとしたのか魔理沙は突然扉を閉める。
それに颯花はビクッとしたが、してないように振舞った。
そして内側の取手に親切?に紅魔館と刻まれていた。
この館の名前が見た目からとったと見ただけで分かった。
互いの顔は確認出来るのだが目の前の大きな階段の段と、
2階の先へ続く廊下先が全く見えないほどに暗かった。
再び思うが人が暮らすには適していない暗さであった。
「お前、何か光るも(」
「颯花です。桐初の」
「…。……お前が光るんだな?」
「違います!名前で呼んでって事ですよ!」
「絶対何か光る物持ってるぜ」
「じゃあ探してみなさいよ、無かったら土下寝です」
「おしじゃあ準備してろ…」
魔理沙は颯花の身体を探り何かもってないか探している。
そして後ろに周り、彼女の背中の辺りを探している。
少し颯花はくすぐったそうなしぐさをする最中だった。
ポチ。
颯花から鳴ったスイッチ音が暗闇の館に不気味に響いた。
同時に今ここにいるふたりは冷や汗と悪寒を感じた。
次に魔理沙がとった行動は、かなり必然的な事だった。
それは、他にもなく『その場から離れる』だった。
いかにも爆発しますよーという音を聞いておきながら、
そこから逃げないなんて自殺願望がある人しかいない。
「あっ!馬鹿!自爆したらどうするんだ!」
「お前があんな返答したからだろ!お前が悪い!
ていうか私を 追っかけてくんな!」
逃げ回る魔理沙。それをひたすら追いかける颯花。
死ぬ時は一緒だよと言わんばかりにひたすら追い続け、
その原因である魔理沙の事を巻き込もうとしていた。
しかしいくら経っても爆発どころかタイマー音すらない。
そう思った瞬間、颯花の右手の甲から光る球が出現した。
「ぬおっ!?」
「ん…?エネルギー弾か?」
それを颯花は思いきり魔理沙の方へ光の球を向ける。
颯花は彼女のことを半分嫌がらせで半分実験台にした。
少しびびった魔理沙。少し笑みを浮かべていた颯花。
その奇妙な光る球は、魔理沙の正面真上に停止した。
それはかなりの輝きを放ち周囲を明るく照らしている。
「ほらな!持ってるって言っただろ!」
「……チッ」
魔理沙が勝ち誇る。しかしなんか腑に落ちない。
この光のあるポジションが気に食わないようだった。
「これ、あれだな。深海魚の…」
「チョウチ何と…だった…と思う」
「なんか嫌だな…これ変えられないんか…?」
そう言いながら、颯花は魔理沙に背中を向けた。
最初は突然何も言われずに分からなかったが後に察し、
もうひとつの光の球を作り出す手助けをしてあげた。
そして颯花用の光の球を精製し、同じ場所に停止する。
「そ、それじゃあ私はこっちに行くぜ」
「待て待て!二手に分かれるなんて聞いてないよ!」
「は、廃墟の一人探検は醍醐味だろ!」
「ふっふざけるなぁ!
しかもそっちの方が明らかに明るいですよ!
びびってんでしょ!おらぁ!」
先ほどの土下寝をする件は忘れてしまっていることに、
それは颯花も内心喜んでいたがそれはそれこれはこれで、
魔理沙が向かう方向は他の方向よりも少し明るかった。
それに魔理沙の挙動がどうみてもオドオドしている。
「びっびっびびってねーし!全っ然平気だし!」
「ならせめてジャンケンですよ!」
「あっああーいいぜ!負ける気がしない」
「油断大敵だわ!そんな奴こそ敗北者よ!」
そして二手に分かれた。
「あいつ、ざまあないぜ!」
やけに大きな高笑いをしながら、1階右廊下へ進む。
そして光を求めて横に来たカーテンを全て開けていく。
それによって外の光が入り少しづつ明るくなっていく。
「まっ全く、紅ばっかだな!悪趣味ですわ」
ガタン。
真後ろで謎の音がするが振り向くことが出来なかった。
そして魔理沙は直後に全力で真っ直ぐへ駆け逃げた。
いつぞやの本で読んだ元気になる歌を歌いつつ。
歌が終わり、言うことが無くなりとにかく叫ぼうと、
やたら馬鹿でかい声で叫ぶ。恐怖を乗り越える為だ。
全力疾走。手に持っている箒での飛行よりも速く走った。
そして何故か不思議と下へ続く階段に引き込まれた。
どうみても自殺行為に近いというのに何も考えられず、
わけも分からずにとにかく階段を駆け下りていった。
とてつもない長さの螺旋階段を魔理沙は降りきった。
魔理沙の中にはあの状況から疲労感しか残らなかった。
そして背後に気配は感じられない。振り向いても、
そこは降りてきた階段以外、視界には映っていない。
なんとなく、階段が終わり、目の前にある扉を開けた。
それは魔理沙にとって、天国のほかならなかった。
とても大きな本棚一つ一つに本がかなり収められている。
一般的な本から、希少なくらいの価値の珍しい本まで、
ジャンルを絞らず世界の全てがそこに取り揃えてあった。
「すっげ……!」
1つ手に取る。まるで見た事ない事が書き記されている。
夢中になる。ものの5分で厚さ7cm程の本を読み終わる。
棚に戻し、もう一つの本を読み始める。その時だった。
シュッ!
突然どこからともなく同じような光の球が飛んできた。
先ほどの颯花の雷光球(魔理沙が勝手に命名)ではなく、
攻撃用があり、破壊力があるほうの光の球であった。
その攻撃は真っ直ぐ、正確に魔理沙へ向かって一直線、
そして彼女に命中し、辺りに煙が広がり視界を覆った。
「不法侵入なんて、いい度胸ね」
やがて煙が引き視界が正常になりそこを相手は見つめる。
そこには粉々に焼け焦げた本の残骸が散らばっていた。
「読者中の少女を襲うなんて、
卑猥ですわ!悪趣味ですわ!」
半ば馬鹿にした態度をしながら魔理沙はそう言った。
からかったように言ったが紫色の少女は動じない。
「かなり良い性能の魔法弾じゃないか…」
「そんな程度の魔法で驚くなんて三流ね。
そんな程度の本は探せばどこにでもある」
「なっ…!」
ハッキリと言われた。魔理沙は一人身で誰にも頼らず、
ここまでのレベルの魔法を使える様になったのは、
彼女の努力の成果でありむしろ称賛するべきことである。
しかし、相手の紫色はそれを知らず、知る由もない。
しかも彼女は100年単位の強力な魔法をも扱えた為に、
ちっぽけな魔法程度では称賛すら与える気はなかった。
「言ったなこいつ!」
「人間の寿命で、偉業を成し遂げるなんて絶対に不可能。
私利私欲の為に魔法を利用して認められようだなんて、
魔法が泣いてしまっているわ……とてもね。
だからあなた、魔法から手を引きなさい。
それがあなたの魔法に対しての敬意になるわ」
またきっぱりと切り捨てられたが、確かにそうだった。
今までの人間も、今の人間も、私もこの現状である。
先ほど読んでいた本だけでも様々な人間が試行錯誤し、
他人の成果を踏み台にしてまで魔法の研究をしてきた。
一つの強大な魔法には様々な人物達の歴史があったが、
歴史がある分一人では何も出来ない事と比例していた。
一人の人間の存在が何千年もの偉業を成し遂げたことは、
一つとして先ほどの本には記されて無かった。
「偉業を成す…?違うね…!
認められたいから研究してるんじゃない…!
私は色んな時に魔法に救われたんだ!
魔法という存在に憧れ、助けられたからこそ!
その魔法とやらに恩を返すんだ!
成し遂げたものなんか関係ないね!
色々記憶が欠損してるけど、とても助けられた事は!
私はこの身に染みるように覚えているのさ!
だからこの短い人生だからこそ大切に使うんだ!
これはあんたら長寿命には絶対分からない事だ!」
鋭い殺気を発しつつ、魔理沙が自分の想いを放った。
しかし紫色には、そんな言葉など届きもしなかった。
それを否定するかのように相手は続けて言い放つ。
「魔法は唯一無二の存在。
助ける物でも、救う物でもないわ。
救われたのならそれはその人物が良かっただけ。
魔法は使い手次第で善にも悪にも何でもなれる!
ただ人に利用されるだけの存在、それが魔法よ!」
突如、紫色の背後にかなりの数の魔法陣が展開される。
その後、そこから放たれた多数の弾幕が魔理沙に接近、
それを避けて反撃する為に魔理沙は箒にまたがった。
そして上空に飛び上がり、弾幕を軽やかに回避した。
「どうだ!」
「はぁ…この程度で威張るやつが相手なんて、
時間の無駄だわ…!すぐに終わらせる」
「……ッ!」
魔理沙は体勢をもう一度立て直そうと着地した瞬間に、
突如前置きもなく彼女の足元に魔法陣が展開される。
距離が離れ過ぎていて普通なら設置出来ないはずだが、
それをやってのける相手に過ごした時の差を感じていた。
そしてその魔法陣から、無数の氷の棘が撃ち放たれた。
回避が間に合わず、箒を弾き飛ばされ自身も落下する。
紫色の隣りに魔法陣が展開されそこから出現した炎に、
魔理沙の唯一の飛行手段であった箒が包まれ燃やされた。
「飛行手段を奪った。これが魔法よ。後悔しなさい。
貴方程度の人物では、絶対にたどり着かない域のね」
「くっ…!」
「可哀想だから同じ魔法使いとして二択選ばせてあげる。
そのまま膝まづいて詫びるか無駄な足掻きをして死ぬか、
どっちがいいかしら?フフフ、待ってあげるわ」
「…私は…」
「ん…もう少しハッキリと言いなさい…?」
「後悔はしないししたくない」
「へぇ……」
「私の選んだルートは!勝利してお前を越えていく!
それ以外の道は!私には存在しない!」
「なっ!?」
魔理沙が言い放った心の叫びが図書館内に響き渡る。
広い図書館の空間内で何度もその言葉が反響する。
それは相手の心に響かせるように反響を続けていたが、
そんなことができる訳もなく紫色は魔理沙を嘲笑う。
「だったら…死ぬしかないよねッ!!」
先ほどとは倍以上の大きな魔法陣が後方に展開された。
飛行能力を失った彼女には人間同然というよりそれ以前に、
どんな人間でもとても回避出来ないだろう物量だった。
だけど、私は負けない。
そんな前向きな気持ちだけの信念が彼女を強くした。
魔理沙に向かってほぼ回避不可能の弾幕が展開される。
それでも彼女はじっとしたままその場から動かなかった。
しかしそれに怯んで攻撃を止めようとする相手ではない。
「馬鹿ね!死になさい!」
「そんな訳、ないだろッ!」
目の前の弾幕に向かって3つの瓶が投げ込まれる。
その中のひとつは中身に奇妙な色の液体が入っている。
「そんなもので!」
真ん中の瓶が弾幕に直撃。そして破裂した。しかし、
その瓶の中から突然、花火の様に弾幕が展開された。
それはとても綺麗な色で、相手を驚かせていた。
「なっ…何……!?」
花火は飛び散った火で周囲の弾幕を相殺し消し飛ばした。
残り二つの瓶も割れ、中には水が入っていたのだろうが、
花火の熱で生まれた水蒸気がありえないほど発生していた。
湿気がとてつもないほどにあり、気分が悪くなりそうだ。
「これで……弾幕も火属性も使えないな」
「…貴方は馬鹿なの?空気中の水分が増えればね、
かえって氷属性の相性が良くなるわよ?
それに火属性が必ず使えなくなる訳じゃない。
本にダメージを与える事をしないで貰える?」
「悪いな。却下だ」
「…やめて」
「いいや駄目だね。それに、
お前はさっき自分で本を粉々にしたはずだ!」
隠し持っている残りの瓶の殆どを落とし、足で割る。
まるで異常気象のように更に図書館の湿度が増していく。
ただの水ではないのは分かるが、正直室外であったら、
こんなものは一度も使い道にはならなかっただろう。
「やめなさいッ!」
魔理沙の足元に再び魔法陣が次々と展開され始めた。
そしてそこから先ほどとは違う大きな氷柱が発生した。