門番と魔法使い
「とりあえず、結構楽しかったですよ」
「そ……そう…?」
先ほどの戦いの敗北者と勝利者が向かい合って話し合う。
その雰囲気はまるで喧嘩友達の様な関係になっていた。
互いの顔を見ても嫌悪感など全く生まれなかったのだが、
それに颯花は言葉に出来ない複雑な気持ちを抱いた。
「さっ、巫女の情報、能力、教えてもらいましょうか」
「あー。だーから、巫女なんて少しだけ会って…
…それに蹴り飛ばされただけだってば…」
それを聞いあ美鈴は颯花に不思議そうな顔を見せていた。
そして颯花は呆れ顔だ。彼女は本当に何も知らない。
奇妙な服装に似つかない立派な神社の巫女という、
その時見たものだけで判断できる事しか知らなかった。
それは数秒間の出来事で、会話もまともにしていない。
2人はただ蹴り飛ばした、飛ばされただけの関係だった。
「参ったな、本当に知らないの?」
「だーから、そうだって言ってますよね…」
颯花はゆっくり立ち上がる。それはまるで子ヤギに似て、
見るだけでも危なっかしい立ち方でとても弱々しく見え、
まだ座っていた方がいいと美鈴は言おうと思っていたが、
考えてみれば普通ならあれをまともに喰らっていれば、
骨折も容易いほどの威力はあったはずだと思った。
美鈴は彼女の身体を眺めながら不思議そうな顔をする。
「まあ、敵じゃないし、手当てしてあげます」
「手当てはいらない…かも」
「……えっ?」
すると突然、彼女の傷口がゆっくりと塞がっていく。
それはとても人間技ではない出来事に驚きを隠せない。
身体中の傷が訳も分からず勝手に癒えていくのに対し、
美鈴も颯花自身もそれをとても不気味に感じていた。
思考がまともなら無理もないだろうと颯花は思っている。
絶対に普通じゃないことに驚きを隠せないというのは、
颯花にとって一番普通の事である為であったからだ。
「…やっぱり…人間じゃ…」
「違う…私は人間……人間だから!」
それを言ったと同時に、近くの壁に何かが衝突した。
お馴染みの土煙で何も見えない。散らばる門の壁の素材。
恐らくレンガだろう壁の素材がかなりの範囲に散らばる。
それをただ2人は棒立ちで動けずにそこを見つめながら、
やがて土煙が引き、そこの周辺の視界は回復した。
そこから一人の人間が姿を現しこちらに歩み寄ってくる。
「これまた見慣れない人間が現れましたね…
一体なにここ、ここは夢の国かしら?」
「何を言っているんですか。
私もよく知らないけど夢ではないですよ。
ファンタジーやメルヘンじゃあないんですし」
それは見慣れない人間。というかどちらかというと、
私達がこのとても深い森林に似つかないほうなのだが、
それでも見慣れない服装であることに変わりはなかった。
その服装は、黒と白を基準とした魔法使いのような、
先ほど出会ったルーミアと似たような金髪であった。
似ているけども、容姿や態度から何も関係のない、
ただの似ているだけという関係だろうと颯花は思った。
「っててて…霊夢の野郎…
いつもはボケても怒鳴るだけなんだけどな…」
「霧雨…魔理沙……ですか?」
美鈴はそこから間を開けることなくすかさず質問した。
それに対して金髪は全く嫌な顔せずにその返答をした。
颯花から見れば会った事のあるような友達同士の関係、
そう見えてしまっているほどの気楽な雰囲気だった。
「あれ、お知り合い?」
「あ?おう!私がいかにも『普通の魔法使い』
霧雨 魔理沙だ!」
颯花は思う。あんな衝突をしていながら痛みが無いとは、
明らかに自分よりも人並み外れた存在ではないかと。
普通の身体なら骨折のひとつやふたつある筈だろう。
しかし彼女はまるで痛みがないようにピンピンしており、
不思議な事が連続で起き過ぎていてもうそんな事も、
颯花は普通の事だと思えるようになってしまっていた。
「霧雨 魔理沙!巫女の手先!覚悟!」
「えっ手羽先!?」
颯花の通常時では目で追えない神速で美鈴は殴り掛った。
しかし、突如魔理沙の手元から放たれた極太な光が、
目の前にいたはずの美鈴の姿をを消し飛ばしてしまった。
その圧倒的な火力を見て思わず颯花は顔を歪めるほど、
見た目に相応しいほどにその破壊力は凄まじかった。
ブオオオオオオオオオオオン。
「うおっなぶしっ…なんだ…一体何が!?」
その大きな閃光からはとても不思議な音が響いていた。
真っ直ぐ輝く閃光はまるで彼女の真っ直ぐな性格を、
見事に再現しているような輝きをしているのだった。
何故彼女が魔理沙が真っ直ぐな性格だと思ったのかは、
美鈴への返答の素直さと単なる勘で思っただけだった。
極太の閃光、それを浴びて黒焦げになった美鈴は、
何かを叫びながらはるか遠くの彼方へ飛ばされていった。
「なっ……ちょっ何ですかそれは!
必殺技レベルじゃないっすよ!」
「何って……ミニ八卦炉」
「って言われても分かりませんって!」
ミニ八卦炉だと、魔理沙は素直にそう答えたのだが、
別に颯花はその道具の名前を聞いたわけではなかった。
その小さな石っぽいものから何故そんなものが出るのか、
颯花にはまるでそれを理解など出来るわけがなかった。
「ここから入れるぞー早く来いよ」
「無視かよ!不法侵入だっつーの!」
そういいつつ、全てが紅い不気味な館の門の先に進んた。
中庭に入り、こちらの花壇も手入れが行き届いている。
そして相変わらずの赤い花が、更に多くなっていた。