館の門番:2
引き続き、颯花の中での第2ラウンドが始まった。
第1ラウンドはただの強めの1発の蹴りで終わっている。
美鈴は颯花と戦ってみて弱いと不満を持っていたのだが、
今の颯花の変わった姿を見て、少し嬉しくなっていた。
だらしないような体勢からシャキッとした体勢になり、
まるで一瞬で戦いの手本を覚えてしまえたようだった。
颯花が身構えた瞬間、美鈴の姿はその場から消えた。
そしてほぼ同時に颯花の腹部に右の拳の一撃を入れた。
しかし颯花はそれを見切っていたかのように防御した。
音よりも速いと思えるくらいの速さの美鈴の機動力を、
一瞬の刹那の如き凄まじい速度を目で追えていたのだ。
…あのかなりの速度を目で追えていたというよりも、
彼女の元々持っていた勘が当たっただけかも知れない。
その答えはそれが分かる彼女のみぞ知っているだろう。
颯花は妙にこの状況に嬉しがり、笑みを浮かべている。
「(ドヤァ…)」
「いいですね…面白くなってきた…!」
颯花はその一撃を耐え先ほど美鈴がこちらにやってきた、
音速のような動きと同じような攻撃方法を仕掛けた。
なぜ全く同じ事をオウム返しのようにやり返したのか、
それは彼女の能力の性質が起因していたのだった。
彼女の能力は他人の力を模倣する事が出来るという、
便利でどんな環境にも対応できる能力なはずなのだが、
それはあくまで身体能力の方を模倣したのであって、
それがどんな力があり、どんな使い道を有しているか、
相手の動きを見るか聞かなければ能力を充分に扱えない。
模倣した相手が奥の手を残している場合で例えるなら、
その奥の手を使うまで颯花は一度足りともそれを扱えず、
使うには必ず初見を済ませておかなければならない。
だが、同じような動きでも同じような速度は出なかった。
ただ見て真似するだけで扱える事という訳にもらなず、
真似て何度も練習するか工夫するかしかないのだが、
能力は実際は使用者との相性で性能が変わる事もある。
生まれた時から扱っている能力なら相当慣れるはずだが、
突然初心者が同じ力を真似しても本領を発揮できない。
だがちゃんと練習や努力を積み重ねていけるのなら、
颯花の能力もオリジナルの力に成りうる可能性もあるが、
能力を複数極めなければオリジナルの劣化版に留まり、
例え複数極めようとしても身体と時間が足りないだろう。
所謂、中途半端、器用貧乏、そのような感じだろう。
話は戻るが、その劣化版はそれでも充分な一撃であった。
風を切るような音を出すほど素早く攻撃していたのだが、
しかし既に先読みして回避行動をとっていた美鈴には、
その手の攻撃を当てられる間合いの距離にはいなかった。
互いを挟む距離がまた一段と大きく開いてしまった。
「この距離だと…互いに攻撃は届かないね」
「…そうかな?」
美鈴はそう言った。同時に颯花は冷や汗をかいた。
先ほど彼女が戦っていた少女ルーミアと同じような、
凄まじい破壊力で射程もある輝く光の球を飛ばせると、
彼女は感じた勘からそう思ってしまったからだった。
「そ、そう言ったなら…見せてもらおうじゃない」
そう言ったが、内心とてもビビっている。
「いいでしょう…」
即答だった。恐らくするつもりであったのだろう。
颯花はそう理解しておいた。もしもそうだった時の、
自身の動揺をなるべく少なめにしておきたいからだった。
美鈴は自身のしなやかな脚を思い切り振り上げた。
そして振り上げた脚が通った何もない空間が輝き始め、
その後、斬撃のような光の形となって颯花を襲った。
彼女の予想通りだった。
光の色は確かに違う。しかし同じ様なものと理解した。
だがルーミアと違う点がある事を颯花は感じ取った。
その光が颯花に迫るにつれてだんだん巨大化していた。
既に2人の距離の中央まで迫った頃には互いの姿を隠し、
颯花の身長の3倍ほどの大きさへと巨大化していった。
少しずつ大きくなっていく恐怖感が彼女を襲い続ける。
彼女はそれを避けない。避けれないとも思っていたが、
彼女はだだ同じ場所で立ち止まっているだけだった。
何も抵抗せず、そのままその光は彼女に衝突した。
「…」
煙が美鈴の視界を塞いでいる。颯花の姿は確認出来ない。
このあっけなく終わった状況に美鈴は溜息をついていた。
そして自分の居るべき立ち位置へと戻ろうとした。
振り返り、そのまま歩いていき、門が視界に入った。
煙が引いた、だが、その見えた門は粉々になっていた。
「…えっ?」
その状況に美鈴は驚いた。
門の方向へあの攻撃を飛ばしたはずはなかったと。
彼女は身体中に焦りを浮かべていた中更に煙が引いた。
そしてもう一度振り返り、そこに颯花の姿が確認出来た。
土煙で服が汚れていたものの、本人は無傷だろう。
彼女は左手で右腕を押さえるように抱え持っていた。
その右腕には、壊れたのか煙を出す機械があった。
「こいつの風圧で射線を逸らせたけど…
これ…壊れちゃったかな…?これもうわかんねぇな」
不安そうな顔をして颯花はそう独り言を言っていた。
それを見た美鈴はただひとつ相手に質問をした。
それを初めてみれば、聞きたくもなるはずであった。
「君はレプリロイドとかアンドロイドとか、
そういう機械人形なのか…?」
「いやいやいや、全くの人間だよ、
ぜんぜんそんな記憶残ってないけどたぶんそう」
言い終わる頃にはしまった、喋ってしまったと思った。
記憶喪失である事を利用される可能性もあるかもしれない。
彼女はとても焦ったが、それは無意味でどうやら相手は、
人間だよと言った事に疑問を感じているだけだった。
強い相手と戦えるのならどうでもいいらしいそうだ。
……これはただの颯花の勘なので不正解かもしれない。
「まっ、そんなことどうでもいいですね」
良かった。相手が戦闘馬鹿でそう思い颯花は再び構える。
美鈴は右手でかかってこい、の合図を颯花にしていた。
そしてそれに惹かれるように彼女は脚を強く踏み込んだ。
先ほどの足が遅いという事がまるで嘘だったかのように、
颯花は上昇した身体能力でとても機敏な動きを見せた。
その後ある程度近づいた所で颯花は空高く飛び上がった。
高所から飛びかかって美鈴に攻撃しようとしていた。
しかし、それは本当はとてつもないほどの愚策であった。
空中は踏み台にできる物も無く、速度も変えられない。
鳥のように飛べない人間にとって隙が大き過ぎていた。
「そんな攻撃が当たるとでも!?」
「やってみなきゃあわかんないよ!」
その時、颯花は上空で突然奇妙な姿勢へと変えた。
両手両足を自分後ろに向けたような状態になっていた。
その姿は例えるのならダンクシュートやイナバウアーを、
空中でしようとしているようなポーズであった。
「これなら次がどんな攻撃をするか分かるまい!」
「2度言ってあげる!そんな攻撃当たるとでも!?」
颯花は重力に引かれながら美鈴に両手で殴りかかった。
すかさずそれを守るような体勢へと変化させた美鈴は、
その時颯花に起きていたとある変化に気付いていた。
「グローブが…ない!?
そんな君のただのパンチが効くと思って?!」
その時だった。空中にいれば人間に出来ない動きだった。
殴りかかった両手は美鈴から逃げるように退散して、
その次には颯花の両脚わが突如前触れなく美鈴を襲った。
両脚に強く蹴り上げられた美鈴の両手の守りは崩れ、
颯花に対してとてつもなく大きな隙を作っていた。
「けど、もうこの隙に攻撃は出来ない筈ね!
空中ではもう動けないし君が脚をつくまでには、
私はもう君に何発も攻撃を与えることができるわ!
貴方は着地した時に負ける!と宣言する!」
「……それは、どうかな!」
颯花の足が先ほどの攻撃の反動で真上に上がっていき、
重力と真逆の位置まで上がり、完全に逆立ちになった。
そしてそれは完全に敵に背を向けている状態だった。
明らかに無防備過ぎる姿に美鈴は失笑しているほどだ。
「どうやら、着地する迄に決着は着いたわね!」
美鈴はその好きを逃さずすかさず背中に殴りかかる。
しかしその時だった。
下からグローブが突然姿を現し、美鈴の顎を強打した。
颯花が自ら手で投げて彼女に当てたものではなかった。
あらかじめ空中でもある程度動けるよう姿勢制御用に、
例のワイヤーを両手両足に手錠のように繋いでおき、
そして先端のフック部にそのグローブを繋げていたので、
このような奇妙だが奇襲力が高い技になったのである。
「1つの攻撃に、4つの策!
これが私の必殺!『ソーカ・スペシャル』!」
ネーミングセンスが全く無くなんだそれと美鈴言わらたが、
その内容の策の出来はかなり良く出来ていた方だろう。
少々無謀な所がまだ戦闘初心者のように感じてくる。
グローブによって宙に殴り上げられた美鈴が空を舞う。
そして着地した颯花はその隙の内にワイヤーをほどき、
攻撃の要とも言えるそのグローブを両手に再装着した。
ドサッ。
美鈴が地面に落下した。しかし瞬時に体勢を戻した。
両者、まるで楽しそうに互いを見ながらにやけていた。
「やっぱこうでなきゃね!」
「やっぱこうでなきゃね!」
互いが再接近。美鈴の最初の一撃は颯花の腹に命中。
颯花はその鈍い痛みを耐えつつ美鈴の左の頬を殴った。
しかし、それを美鈴は自身の攻撃の糧にしてしまった。
攻撃されて美鈴の重心が右側に偏ったのを利用しつつ、
彼女は自分の右脚を力強く大地に踏み込み力みながら、
左脚を振り払い、物凄い速度ので花の右腹を強打した。
「ぐは…ッ…!!」
「まだまだ甘いよっ!」
颯花は血を吐きつつ痛みで悶え苦しんでいたのだが、
美鈴はまるで身に教えるかのように攻撃を続けていた。
パンチの連打を颯花の全身に浴びせるように放ち、
締めに彼女の身体に一直線に蹴りを放ち吹き飛ばした。
吹き飛んで門の壁に衝突。そこから土煙が上がった。
倒れ込む颯花に美鈴は歩み寄りそれを上から見つめる。
「やっぱ、コピーしてても劣化してちゃあ…ねえ?」
「くっ…くそ…」
颯花の能力が強制解除された仕組みは分からなかったが、
それと同時に敗北を喫した。