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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
〜紅霧異変編〜
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館の門番:1

それからひたすら道なりに沿ってその先へ進んでいく。

時間を確認できず、ここがどこなのかさえも分からず、

これが山に入って迷った時の感じなのかなぁと、

何故かは分からないくらい軽い気持ちで呟いていた。

先へ歩いていくほどに、空が更に紅に染まっていく。

まるでこの先に原因があると教えてくれているように。


「見えた……なんだあれ?」


木々で少し隠れているが建造物らしきものが見えた。

その真上の空は他より最も異常に紅く染まっている。

館の色も紅く木々の緑色が異常と思ってしまうほどで、

これがこの空の原因なのだとひと目で理解できた。

道に沿っていきながらその建造物に更に近づいていく。

それはとてもいい館だった。手入れも行き届いている。

門までの道を花壇が挟み様々な種類の花が植えてある。

主に赤い色が多かった。ほとんど赤色で薄気味悪い。

どうしてここまで赤色なのかと不定を感じているが、

どこか懐かしいような雰囲気を同時に感じていた。


「なんでこんな館に自ら入ろうとしてるんだろ…」


そして何かに惹かれるままに館の門まで歩み近寄った。

とても大きな門で、巨人が住んでいるのかと思うほどで、

それは人の顔ほどある、大きな鍵で閉ざされている。

色んな事でも言えるが大きければ良い訳じゃないと、

何か焦った口調で胸に手を当てて早口で呟いていた。


ガチャガチャ。


その大きな鍵は飾りだと思ってそのまま開けてみたが、

結局開けられず、そもそも重くてびくともしなかった。

かなり長い距離を歩き、そして結果がこのざまでは、

呆れた言葉が彼女の口から出ないはずがなかった。


「ひたすら歩かせて…これはないでしょ…」


1人だけでブツブツ話している。同じみの独り言。

他に入口は無いのか独り言をしつつ館の周りを回った。

記憶喪失なのにこの館に何か見覚えを感じるのなら、

そこに手掛かりが絶対あるはずだと自分を騙しながら、

やる気の失せた表情で大きな館の周りを彷徨いた。


そして周り終わった。想像以上にこの館が大きい事と、

やはり見覚えのあるような気もしなくはなかったが、

館の全方位を小高く同じ紅い色の塀で囲まれていて、

流石に高くて登って入れそうな場所はなかった。

そして正面以外の入口も結局は見当たらなかった。


そんな何も変わらない紅い館にも変化はあった。

先ほどまで誰も居なかった大きな門の入口の前に陣取る、

中華風の服を着た、かなりスレンダーな美女がいた。

いかにもここの門番の様に振る舞っているものの、

先程まで居なかったのはサボりなのだろうかと疑う。

とりあえず進展を求めて彼女に早速話しかける。


「あのー!」

「…」

「…」


無視された。彼女にとって本日2回目の無視だった。

自分はそういう人間なんだと解釈してしまうほどに。

しかしそんな事でめげてなるものかと奮い立たせ、


「あのー!」

「…」

「…寝てる……?」


無視、本日は3回目。しかし僅かに寝息が聞こえた。

彼女は後ろの門に寄りかかって立ちながら寝ていたが、

それを見た赤髪はなんとなく憧れのようなものを感じ、

いつかはやってみたいなと目を輝かせていたものの、

赤髪はふと我に返り、状況を振り返って考えてみると、

自身がこんなに色々な事で苦労しているというのに、

気持ちよく寝ている彼女に何故か無性に腹が立った。


「ねえ!」


だが反応はない。

とうとう我慢出来なくなりイライラしてきた赤髪は、

彼女に何かイタズラをしてやろうと悪巧みをし始めた。

もし何かやるのなら地味に痛いのがいいだろうなと、

目が覚めるだろうと赤髪は両手でデコピンの構えをした。

見られたら不味そうな満面のゲス顔でそっと近づく。

依然として警戒心が全くない相手はまだ寝ている。


「…」


自分の腕が相手に届く距離まで赤髪は近づいた。

そっとデコピンの構えのままおでこに手を近づける。

痛いだろうなと自分の非力過ぎる力量すら忘れつつ、

当たっても大して痛くないデコピンをしようとした。

しかし、何かを感知したか絶妙にいいタイミングで、

その中華風な彼女が前置きなく目を覚ましてしまった。

足を至近距離で振り上げ赤髪の顔すれすれで止まった。

目では追えたが、回避が間に合わない速さだった。


「なっ…!」


先ほどから本当は起きていたとそう思えてしまうほど、

彼女の目の前の状況への対応力は凄まいものだった。

目を覚まして瞬時に状況を判断したとしか思えなく、

耳だけで感じ取れるような事は全くしていなかった。

赤髪はそれにかなり遅れながら後ろに下がった。

あまりにも速くこの瞬間でケリがついていたはずたが、

なぜそのまま攻撃をしなかったのかと疑問に思いながら、

そして互いに見つめ合ったまま話し始めた。


「巫女…ではないようですね」

「巫女?…ああ、怪力ゲス巫女のことか?」


どうやら中華風の彼女はは巫女を知っているようだ。

こう化け物じみた身体能力なら仲間と思うしかない。

どうしてそんな人間らしからぬ力を持っているのか、

人間が普通に鍛えて到達できる領域を越えすぎている。

そのような並外れているものには憧れを感じるが、

流石にこう何人もいると逆に自分にも何かあるのだと、

ありもしない妄想に期待を膨らませていたのだった。

あんなのと知り合いとはますます興味が湧いてきた。

しかしながら何故かそれはお互い様のことであった。


「お前は巫女の仲間か!」

「なら巫女の仲間という事!」


互いに自分達が直感に思った予想を言い放った。

互いに台詞の意味が被っていた。考えれば敵か味方か、

すぐに理解できるはずだが、2人は何も考えなかった。

もちろんその後にもそんな事を考える気は無かった。


「コホン、君の名前を聞かせてもらおうか(キリッ)」

「……ッ!?」


そう言われた途端、赤髪に電流が走るように思い出した。

そう、彼女には名前がない。ないというか忘れている。

これはどうしようもないと思い後回しにしていた事で、

かなり初歩的な事でありながら、大問題であった。

何かに慌てているような仕草になるほど動揺している。

どうしようかとただひたすら焦りながら考え始める。


「名前…そう名前ね!名前、名前……」

「ん?どうしたんですか?」


中華風は困り果てている仕草と顔の赤髪を見つめつつ、

不思議な奴だなと思っているのか首を傾げながら、

何故かよく分からないがとても心配そうな顔をしている。

そんな事なんかどうでもいいと赤髪はとにかく考える。

例え名前がないと言ってしまえば笑われてしまうだろう。

記憶喪失と言えばこの相手に利用されるかもしれない。

こーなったらやけくそに言ってやるぞと自暴自棄に、

いままでの台詞を参考に半ばやけくそに名前を答えた。


桐初(きりはじ) 颯花(そうか)…」

「颯花…そうか…プッ」


赤髪は中華風の彼女に当たり前のように笑われた。

適当ではあるが確かにこの名前の元となった言葉だ。

赤髪は相手に言い訳や反論する事は出来なかった。

まあ何でもいいやと彼女自身も納得してしまっていた。


「さて、行きますよ!」

「待て待て待て待て」

「もう、何ですか!」


赤髪…いや颯花が戦い始めようとする彼女を止めた。

中華風の相手は戦いたくてウズウズしているのか、

ウォーミングアップらしき行動をしつつ困惑している。

中華風の彼女はそのまま聞いてくれそうであったので、

颯花は同じ質問を相手に返した。

別に相手に同じように困って欲しかった訳ではない。

普通なら困惑するような質問では全くないだろうし、

例え困らせようと考えていても別の質問をしていただろう。


「そう怒らないでって…」

「…。で、何か?」

「そっちも名前言えよー」

「名前…ですか。私は紅 美鈴、よろしくね」

「よろしくねって…」


中華風がまんま中華風らしい名前を颯花に言った。

例え中国人だとしても日本語をペラペラ話せる所に、

すごくそこにツッコミたいくらい気になっていたが、

くどいと言われるのもあれなので質問はしなかった。


「よおbook、来い!」

「book…?まあいいか、…はぁぁ…!」


颯花は何故か勝てる筈もない戦闘にやる気があった。

彼女がそう思った理由は先ほどのルーミアの件で、

ルーミアという謎に満ちた存在に勝てた事によって、

知恵を凝らせばどんな相手だろうと勝てると思い込み、

かなり自信過剰になってしまっていたからであった。


互いは足を踏み込み走り出し、距離が近づいていく。

先に攻撃できる美鈴は素早く右腕で殴りかかった。

それを颯花は勘で回避し、彼女はその腕を引っ張り、

どうにかして優位に立とうと体勢を崩そうとした。

しかし、いつの間にか美鈴の左脚が颯花の右腹部を、

瞬時に考えられるかなりの判断力で颯花の隙を見つけ、

目で追うのが精一杯の速度でそこを正確に蹴った。

その威力はとてつもなく、颯花は大きく横へ吹き飛んだ。

颯花が食らった場所から全身に鈍い音と痛みが響く。


「ッ…!」


最初に美鈴が攻撃に使った右腕はフェイントだった。

後先考えない颯花はまんまと引っかかってしまった。

時の流れで身体中の痛みと衝撃が少しずつ引いていく。

先程のあのルーミアと比べていたのが馬鹿だった。

予想以上に強かった。いやおそらくは叶わないだろう。

ルーミアともしも比べれば、遠距離の攻撃はないが、

近接攻撃に相当特化していると考えられる。などと、

口から血が出ている事に気づきながら考えていた。

更には彼女はルーミアほど単純な相手ではない。


「もう降参?」

「んな馬鹿な、考え事だよ」

「考えて強くなれるなんて、そんな事あるわけ…」


颯花は考えている。

今回の敵はフェイントも近接もゴリ押しも通用しない。

ルーミアでの遠距離で押し潰されるのも苦痛だが、

今の自分の唯一の攻め手を潰されるのも苦痛であった。

しかし、先ほど自分の身体に助けられた事を思い出した。

あの時は確か袖から出たアンカーのようなものと、

手首がまるで違うものに変形する謎の機械に助けられた。

もしかしたら、私にはまだまだ他があるかも知らない。

そう思いつつ颯花は自分のボディチェックをした。


「えっ?何してるの?」

「探してるの、決め手を」

「決め手?」


颯花は集中のし過ぎでうっかりそれを喋ってしまった。

それを聞いてやらせまいと美鈴は妨害してくるだろう。

颯花は汗をかきながらそう予想していた。しかし、


また彼女は騙された。

美鈴は何もして来ない。ただこちらを見つめている。

その予想外な行動に颯花はかなり不思議に思ったが、

おそらく『戦いに喜びを感じる人』という事で、

相手に偏見を持つ事で自分自身を無理矢理納得させた。

そんなことよりもと、そのまま突破口を探した。


頭部。カチューシャに猫耳の様なとんがった三角型の、

奇妙な飾りが2つ付いている。先端は鋭く痛い。

腕部。謎の機械が任意で出たり入ったりしている。

他に目立った所はない。いやそれが目立ち過ぎている。

胴体。思ってみれば肩が出た奇妙な服装だった。

あの巫女の服装を馬鹿にしたが、人の事を言えず、

ましてはあの巫女よりも胸もなく、悔しく思った。

脚部。靴が脱げない。美鈴に負けず美脚だけどね。


至る所を探したが、腕の機械以外特に何も無かった。

万事休す…更にこの腕の機械があの機敏な美鈴に、

決め手になるくらい通用するとも思えない。

所見殺しのような使い方ならいけるかもしれないが。


「何か…何かあるはず…!」


美鈴は……あれは寝ているのだろうか。

目をつぶりただじっとしている。瞑想でもしているのか。

しかしやっぱり彼女の身体能力はずば抜けて高いな。

もしも私があれと同じくらい強くなれれば…。

私が今ここで彼女と同等の力を手に入れられたら…

彼女のその力をコピー出来れば…!


瞬間、颯花のカチューシャと服が謎の光を帯びた。


「…!?」

「…!?」


2人は同じような顔をする。それは無理もなかった。

発光した部分が何か別のものへと変化していく。

奇形なカチューシャは美鈴が被る帽子の星型の模様の、

その星を半分に切ったような形に突起部が変化した。

服はもとの青色から美鈴の服に似た緑色になっていく。

必要あるのか分からない、服とショートパンツの間から、

スリットが太ももまであるスカートのようなものが、

どこからともなく出現した。しかし動きに支障はない。

拳にグローブが勝手に装着され、手の甲に星の模様。

まるで、彼女、紅美鈴を模した様になっていった。


「コピーなんて、悪い奴ですね」

「コピーじゃない。利用した…と思う」


雰囲気に乗ってシャドーボクシングをしてみる。

あの酷かった身体能力が有り得ないくらい増している。

美鈴ほどまでではいかないが元々の颯花の身体能力に、

美鈴の身体能力の半分を上乗せした感じだった。


「終わったかな?」

「…たぶんね」


突然発動された能力に信頼がまだ出来ないものの、

今はそれしか宛がないと自分を奮い立たせ、言い放つ。


「第2ラウンド始めるよ!」

「第1終わってないと思うけど…」


美鈴が適度に言葉を返しつつ互いに身体を構えた。

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