金髪少女:2
閃いた。そうだよ、そうしよう。
彼女の頭の中は何もない状態から前触れも何もなく、
突然この状況をを乗り越えられそうな案が浮かんだ。
そして、頭の中での独り言はまだまだ続いていた。
周りが何も見えないのならそれ以外で確かめればいい、
視覚が使えないのなら聴覚を利用すればいいんだ。
そう、周りを音で確認できる耳があるじゃないか。
しかしそう思うも音を出してくれなければ意味はない。
耳を傾けたとしても、風の音しか聞こえないだろう。
とりあえず音を、何かを喋って貰わないと困るので、
彼女は少女が返事をしてくれそうな質問をしてみた。
「そ、そうだな、名前、聞かせてよ!」
「名前?ルーミアだよ〜」
計画通り…!ってかおかしいほどにちょろい!
相手は名前を聞く質問に何の疑いも持つことはなく、
平然としておっとりとした口調で自分の名を名乗った。
そして赤髪は見つけた。光のない暗闇の中、声が響く。
予想に過ぎないが相手はそこから動いた気配は無い。
しかし、それでもまだまだ考える問題点もあった。
その問題は私自身の彼女への攻撃方法だった。
殴りに行こうとも素手では恐らく当たらないだろう。
そもそも私に握力などの筋力は無く、実戦に適さない。
これも予想だが、相手の少女ともしも腕相撲したら、
2秒程度で負かされる自信は自虐的ながらあった。
それと同時に、何故か更に走るのがとても遅かった。
有り得ないほどに体力がなく、まるでひきこもりか、
それとも長い間昏睡でもしていたのかと疑うほどで、
どうしてこんな時にあらかじめ準備してなかったのか、
自分自身にどうしようもない憤りを感じていた。
それらの問題のために接近は避ける事を前提として、
何か遠距離で少女に攻撃を出来るものを探した。
髪の毛。当然ながらダメージを与えることは出来ない。
そりゃあ抜いたら痛いしこれでも女子なんですし、
大事な髪を引っこ抜くなんてたいそう出来やしないね。
もしも波紋を流せれば何かに使えそうだなと思ったが、
…そもそも波紋ってなんだ?謎の言葉に疑問を抱く。
次は木の枝。先ほど拾った地面に刺さっていたものだ。
今の私のこの現状を作ったというある意味元凶の…
それでも心から頼れる相棒だ、投げるなど出来ない。
威力も低そうだ。自分自身の腕力的な意味で。
靴。…あれ?脱げない?しかも形状が奇妙だな。
前から見ればブーツのような形をしているのだが、
横から見ればかかとにあるヒールのような部品と、
二つのパーツに分裂していて、その間の何もない所は、
黒いストッキング?のようなものを一応履いているが、
足場の悪い斜面を歩けば地面に触れてしまうような、
そんな見た目も機能も良くない靴を履いていた。
しかしかかととつま先が別々に分かれている靴なんて、
そんなの靴じゃないと思うし、とりあえず却下。
…いつの間にかかなりの時間が過ぎている。
そのぐらい探しても何も無いことに絶望感を感じつつ、
そのぐらい探しても相手は何もしてこない事に怯え、
視界を塞がれた不安で頭の中がごちゃごちゃになった。
しかし、彼女の服装に変化は起きていた。
袖からアンカーの様な引っ掛ける為だけの形状をした、
普通なら到底付属しないようなものが飛び出ていた。
触ってみたがフックの様な所の素材は恐らく鉄だろう。
その部分をぶつけた威力としてはおそらく問題なし。
ワイヤーの部分。軽く引っ張ってみた。強度は良好。
もっと引っ張ったが終わりが見えないくらい長い。
リーチも問題ないな。筋力に不安が残っているが。
「ねえ?」
「ん?」
それでも彼女は1歩も移動していない。
逆に時が止まっていたのかと赤髪が不思議に思うが、
そんなことは考えている暇はない。その後は…
「おい!後ろ!」
「え?」
少女は振り向いた。そんな気がしただけだった。
当然の如く想像であり、振り向くのに音は出ない。
ただイメージしてどこで何してるかを考え始める。
先ほどのワイヤーを持ってハンマーのように振り回し、
勢いよく少女へと投げ、怪我などの心配は微塵もせず、
そしてその数秒後に命中した鈍い音と少女の声がした。
やがて徐々に視界が復活、相変わらずの赤い空、満月。
その禍々しい月が照らす真下に、少女が倒れている。
「あれっ…?まさか…死んだ…?いやまさか」
「…」
「今ならあんな事やこんな(」
ゴツン。反動なのか戻ってきたアンカーが額に命中。
その痛みに数秒もがいた。とてつもなく痛かった。
まるで何かの罰を受けたような気分になっていた。
もがき終わったとほぼ同時に少女は立ち上がった。
良かった。自分がこれから何かやらかすと思ってたよ。
まだまだ安心できないのに、安心したしぐさをする。
相手の少女は立ち上がり、頬をフグのように膨らませ、
可愛いくらいに顔を真っ赤にした状態で怒鳴った。
それが赤髪にとって怖くないはずもなかった。
「もお!ぜったい許さないんだからぁ!」
その時、赤髪にとってありえないことが起こった。
なんと、この金髪少女、ルーミアは空に飛び上がった。
紐などで釣っていない、正真正銘の『浮遊』だった。
人間は普通なら飛べるような機能は持ち合わせていない。
何度も普通ではない事が立て続けに起き過ぎていて、
すぐにそれに慣れると赤髪は思っていたのだったが、
流石に予想外過ぎてその状況に彼女は困惑する。
「おい!何よそれ!」
返答はなにも無かった。赤髪は少女に無視をされた。
悲しいなぁなんて呑気な考えを頭の中で考えていたが、
立て続けに常識に囚われないような現状が起こった。
なんとルーミアの手から目も眩む眩い光が放たれた。
体勢を崩して無理矢理回避したが、頬を少し掠った。
だが、後ろにあった木は粉々になり塵になっていた。
「あんなの、当たったら即死ね…!」
再び少女の居る前へ振り向いた。また光を放っている。
あきらかに先ほどより光が増大しながら輝いている。
弾幕になるようなくらいぶっぱなすと感づいた。
「まずいまずいまずいまずい!!」
その手の平から光で出来た弾が数十個飛んできた。
だが、赤髪の瞬間に閃いた行動が寿命を伸ばした。
アンカーを自身の後方の遠くの木の枝に引っ掛けて、
そしてそのワイヤーを引き戻し、木の枝の場所まで、
筋力をそこまで使わず、走らずに瞬時に移動出来た。
「危な…アンカーが無ければ即死だったわ…」
「一体…あの光はなんなの…?
弾幕張られたら終わりじゃない…!」
今なら逃げれると思ったが、飛行中のルーミアは、
速くはないが、それでも追い付かれる速さがあった。
とてもここからこんな私が逃げ切れるとは思えない。
そう何かを考えようとしていた途端に弾幕の第二波。
さっきとほとんど似たような方向に光が飛んできた。
その光の中には少しだけだが隙間を見つけられた。
そこをすり抜けるようにして動き、回避が出来た。
「(弾道を予測すれば行けるかもしれない!)」
僅かに光が見えた。いや光で殺されかけているが。
諦めるには早過ぎるし、まだまだ私に希望はある。
しかし先ほど何度もつきまとう問題点の話になるが、
彼女赤髪は足が遅いので相変わらず接近方法が無い。
近寄れなければ拘束やら何かを出来るはずもない。
そんな筋力も持ち合わせてなどいなかった。
見えた希望の光が小さくなっていく。
「逃げてばかりじゃつまらないよ〜♪」
「逃げなきゃ死ぬわ!動けば当たらないからな!」
ルーミアのテンションは元の状態へと既に戻っていた。
そのおかげでルーミアはまだ幼いという事を理解した。
幼稚で可愛らしいその喋り方のおかげで軽い策なら、
憶測でしかないが引っかかるかもしれないと思えた。
策を作れば彼女に少しでも隙が生まれるかもしれない。
そうして、小さな希望の光は再び輝きを増した。
「さてと…どうしましょ…っ…」
避けながら考えるのは難しいと赤髪は理解した。
ぎりぎりで回避するのがやっとだった。
何度も何度も光が肌すれすれを通り過ぎひやひやする。
だがほんの少しの時間経過だけで策は作れていた。
「(あとは実行するだけ、そうすれば…!)」
そう思った直後赤髪は完全に油断をしてしまってした。
僅かにルーミアの放つ光を足にかすらせてしまった。
それによって体勢を崩した。動けない訳ではない。
なぜなら動けば死ぬと思っていたから動かないのだ。
何か人間の本能がそう感じている気がした。
死んだフリしてやり過ごそうとするようなものだった。
「へっへーん♪」
ルーミアのその可愛らしい笑顔は紅い光で照らされ、
可愛らしいとは呼べないほどにまで不気味さが増した。
完全に赤髪が今考えていたこの策は無駄となった。
頭の中を完全に切り替え、残り少ない時間の中、
ただ生きたいと切実に思いながら必死に考えた。
…だが、もう無理だった。何も思い浮かばない。
希望の光があった頭の中が絶望感で染め上げられた。
ふと、隣りに落ちた木の枝が目に入ったのだった。
地面に落ちている赤髪のアンカーの上に乗りながら、
それは勇ましいほどにルーミアの方角を指していた。
「……!!」
赤髪に電流が走る。
そうか…そうか!
「ルーミアたん!ほらよっ!」
アンカーを軽く、誰でも取れるような投げ方で投げた。
それをキャッチボールのようにルーミアは受け取った。
ルーミアは一瞬困惑した。
赤髪はその一瞬絶望した。
そしてルーミアは先ほどの笑顔を取り戻す。
そして赤髪は堪えているような笑顔を浮かべた。
「腰が抜けて投げるのに力が出なかったのね!
残念ね!そのまま来させて焼き殺してあげるよ!」
ルーミアはそのアンカーを引っ張り赤髪を引き寄せる。
赤髪が釣られて2人の距離がどんどん縮まっていく。
「今だッ!!」
「えっ!?」
勢いに乗って接近をしてくる赤髪を見て後ずさりし、
ルーミアに少しながら隙が生まれていた。
しかし、それでもルーミアの手は赤髪の方へ向く。
だが、その手は今まで無かった左腕の方のアンカーを、
射線を逸らそうとぶつけるように投げつけられ、
発射寸前の左手を弾かれ光は明後日の方向へ飛んだ。
「こぉおおおおおのぉおおおおおおおッ!!!!!」
赤髪の凄まじい叫びが辺り一面に轟くように響いた。
自身の右腕を振り上げて少女に殴り掛かろうとする。
ガチャッ
無機質な機械音が出た同時に右手が袖の中に入り込み、
奇妙な鉄製のシンプルな見た目の機械が出現した。
だがそんな事をいちいち気にすることが出来るような、
他の事を考えられる余裕がある様な赤髪では無かった。
赤髪はその鉄の機械でルーミアの腹を殴りかかる。
しかし咄嗟に動いたルーミアの右手から眩い光が出現。
それでも赤髪は殴りかかろうとするのを辞めない。
その後、ルーミアの放った光と赤髪の機械が接触した。
その時、しつこいほどまでに奇妙なことが起こった。
光がその機械に衝突すること無く明後日の方向へ、
何事も無かったかのように吹き飛ばしてしまったのだ。
機械にある小さな穴からかなりの風圧が発生していた。
そして無人のままそれでルーミアの腹を殴った。
感触は無かった。ルーミアは大きく後ろへ吹き飛ぶ。
感触が無かったのは機械だったからではない。
機械が発する風圧でルーミアを吹き飛ばしたからだ。
赤髪はしばらくしてそう考えられ、それを理解出来た。
赤髪は勝てた。自分が生きているという喜びと同時に、
あんな事やこんな事が出来ず悔しい気持ちがあった。
他の人に頭の中を覗かれたら大変だっただろう。
ルーミアっていう子、大丈夫かな?なんていう事を、
微塵にも考えず木の枝に感謝しながらその先へ進んだ。