得体の知れない何か
奥の部屋はほとんどと言っていいほどに、
家電製品に電気が通っていて普通に使用できたり、
冷蔵庫の中にはまだまだ食料が残っていたりと、
この家が廃墟や空き家ではない事が明らかになった。
しかし、それにしては少し部屋が埃っぽく、
ここ数日間は出入りしていないような感じだった。
「これ人のものよね…盗み食いになるわよね」
「食わねーと全部食っちまうぞー」
「…えっちょっと魔理沙!?」
その冷蔵庫の中を魔理沙は勝手に許可なく漁り始め、
食べれそうなものを片っ端からつまみ食いしている。
賞味期限がなるべくギリギリなものから、
食べている事が唯一の住人への配慮なのだろうか。
霊夢はそれを見ながら窃盗だと思っていたが、
自分も既に不法侵入になっていると後々気づいた。
それを食べるか否か、どちらにしたとしても、
立派な犯罪だということには変わりないだろう。
そう思いながら、霊夢もさらに罪を背負った。
「あの…二人共…それはまずい気が」
「大丈夫よさとり、お腹は壊さないわ」
「そういう問題じゃないんですけど…」
霊夢に配られた冷え切ったチョコレートを、
呆れたような顔をアリスに見せながら分け合った。
その味は全く普通で食べられない訳でもないが、
申し訳なさの気持ちであまり美味しく感じられず、
量はたったの一口分程度しか食べられなかった。
それよりも二人の怪我の手当てをしようと思い、
様々な棚の中を漁って使えるものを集め始めた。
颯花か桐柄か分からない人物を見ていた早苗も、
自分も何か手伝わないとまずいと思ったのか、
ゆっくりと立ち上がり同じように探し始めた。
「あの、お二人方、ありましたよ」
「早っ、結構探すの得意なんですね早苗さん」
「あ…ありがとうございます」
「…これとこれ…よし、揃ったわね」
「意外ときちんと整頓されてますね。
簡単に見つけられたので良かったです」
薬品棚らしき棚は隣の部屋にあったので、
探す時間はほんの数秒の手間で済んでしまった。
霊夢達は未だにもそこで盗み食いを続けていて、
呆れて物も言えず、手伝ってとも言いえなかった。
仕方なく3人で協力して2人の怪我の手当てを始めた。
「…なあそこの3人」
「魔理沙…。手伝いもしないで楽しそうね」
「それは正直すまなあと思っていた。
けど…なんかヤバそうなものを見つけたんだ。
こいつを見てくれ、これをどう思う?」
二人共重傷ではなかったので手軽な処置で済み、
その所要時間はあまり掛からなかったはずなのに、
その間に冷蔵庫の中ははほぼ空の状態に変わり、
そして何処かから汚れた分厚い本を持っていた。
それは先ほどの医療のノートではなく別のもので、
何十個も上から様々な色の付箋がはみ出ていて、
その本の中身の情報量が物凄いということが、
外見だけを見ただけでも伝わってくる。
「で、そのヤバそうなのが何よ」
「これはな…私と霊夢…アリス。
お前も関わっているかも知れないって事だ」
「は…はぁ…そんな本に見覚えなんてないわ」
「それは魔理沙と私も同じよ。
この裏に書かれた私達の名前を見るまで、
これはただの薄汚くて奇妙な本だったわよ」
魔理沙はアリスに分厚い本の裏を見せると、
そこには確かに3人の名前が小さく書かれていた。
それによって間違いなく私達に関係があると、
確信を持ち、その本に興味が湧いてきていた。
そして全員がそのノートを見つめている状況で、
魔理沙がそっと始めの1ページを開こうとした。
しかし、その手を何故かさとりは止めた。
同時に人差し指を口元に当てて静かにしてと、
喋らずに動きで全員に指示をした。
「外に誰かいます…!電気を…!」
「分かったわ…消しに行くから物陰に居て…!」
霊夢は言ったとおりすぐさま部屋の照明を消して、
自身も暗闇へ入り物音を立てずに溶け込んだ。
真っ暗過ぎて何も見えないが、少なくとも、
足音はしていないので全員その場でじっとしている。
あまりにも急な出来事に焦って動けなかったのだ。
静かな町の歩道を歩く足音が家の中に響いている。
その足音は離れるどころか近寄って来ている。
そして、玄関の扉が開いた音が次に響いてきた。
「…(まずい…これだと動けない…。
じっとしてやり過ごすしかないわね…)」
そのまま扉が閉まり、真っ直ぐと歩く足音は続き、
霊夢達の居る居間へだんだん近寄ってくる。
電気も付けずに、真っ暗で視界が悪いはずなのに、
壁にぶつからず、何かを踏んで転びもしなかった。
やがてその足音は動けないままの霊夢の真後ろで、
彼女の背中を見つめている状態となった。
その真後ろの人物に何故か恐怖を感じていた。
それはこの奇妙な状況から感じたものではなく、
ましては暗闇でも見える視力からのものでもない。
恐怖を感じた理由はその真後ろにいる人物から、
自分や魔理沙と似た力を感じ取っていたからだった。