不安と
紫はそう言いながら隙間に入っていき、
不気味な視線を最後に姿を消した。
それまで霊夢は彼女に声をかける事も出来ず、
隙間が閉じた直後に手を伸ばしたことしか、
今の霊夢にはなぜかそれしかできなかった。
同じくその場にいる全員が何もできずに、
俯きながら唇を噛みしめていた。
魔理沙は彼女に好き勝手やられ、反抗しても、
それさえも彼女の思惑通りになっていて、
まるで操られている事に怒りを抑えきれない。
その気持ちさえも紫の手の内なのかもしれず、
疑ってしまい疑心暗鬼になってしまっている。
「…魔理沙さん」
「なんだよ…あっすまんさとり。
つい強気で言ってしまった。
理由は…心を読めばわかるだろう?」
「ええ。でも自分を疑っても、
なにも結果は生まれませんよ?」
当然のようなことを言ってしまったが、
それはさとりも同じ状態になっていて、
上手く言葉を返せなかったからだった。
自分と同じような状態の魔理沙を見て、
冷静さが足りなくなるのはまずいと思い、
自分に言い聞かせるように言っていた。
「…そうだよな…すまない。それに、
私からあいつに似てきちゃ性に合わない」
「…どうしてそこまで毛嫌いするんですか?」
「喋る気はない。いまここに反論しそうな、
妙に優しすぎるあいつがいるんでね」
行動に曖昧な理由をつけて正当化したり、
自分自身が嫌いと言いながら周りにも頼らず、
結局自分を信頼して頼っちまってるのさ。
やってる事に確実性があるのならマシだったが、
誰かを生き返すとかいう不確定な要素に、
自分の命を捨てるほどできると信じ込んでいる。
もし可能性があるなら奴と同じことをしていた。
けれど死の灰とかいう万能な物質を使っても、
完璧な状態で蘇らすことはできなかったんだ、
そんな甘い話なんか絶対あるはずないね。
あるとしても既に利用されているのがオチだろう。
それに人は同じ状況が続けばいつか慣れてくる。
あそこまで行けばもう普通の奴には戻れないね。
さとりの頭の中にそう言葉が入ってきた。
確かに間違ってはいない解釈ではあると思つつ、
それは単に正解も間違いもないとも思っていた。
さとりもその中の半分程度は同意見だったが、
それでも人のために死力を尽くしていることに、
ここまで否定的なことを言っているのも、
どうかと思ってはいた。がそんなことを思っても、
颯花がたとえ人の話を聞いたとしても、
変な方向に解釈をしてしまったりもしている。
今の彼女には何も言わないのが善策だろう。
今そこにいる本人が本人であるかという、
良く分からない問題が発生していたけれど。
「さーて、どうするんだ次は?」
「このまま先に行くしかないでしょうね。
でもそれだとあの人物の思うままですが…
今は休める場所へ行くのが最善策です」
「…怪我を負ってる奴もいる…嫌だけど…
ここはそこへ行くしかないな」
「…待って魔理沙、さとり」
そっちの方向へ進もうとした直前、
前にもあったような感じで呼び止められた。
いつまで経ってもここから移動できないのに、
魔理沙は半ばイラッとしたが表情には出さない。
声を掛けた霊夢にそんな顔を見せたとすれば、
場の空気が重くなるのは確実だと思ったからだ。
だが既に重くなっているのは変わらない。
「考えてみてよ…私達が幻想郷を出て、
この街に来た、そしてまた街から外へ出た」
「…どこがおかしいんだ?」
「魔理沙…地図をはっきりと見たの?
私達がいま向かっている方向はね…
幻想郷があった方向なのよ?」
よく考えればだがそれは確かであった。
魔理沙も方角的にはあっていると言ったが、
それは地図には載っていなかったとも言った。
同時に地図を取り出し霊夢に見せている。
こんな広範囲の地域を閉ざしたままの状態で、
いつまでも外の世界にばれない筈はない。
紫か永琳が何かやったのには違いないが、
既に存在が知られているので隠さなくても、
そこへ行っても結局結界で入れないので、
特に問題がないはずだった。
「でもさ、あのね霊夢。
そういうことは行けばわかるはず何だよ。
だからここで立ち止まってるのは愚策じゃね?」
「言いたい事は分かったわよ。
けどそんな言い方はないんじゃない?」
二人がまた口論を始めそうになったのを、
さとりとアリスがそれを呆れつつ全力で止める。
二人も魔理沙の意見とと同意見であったのだが、
その本人が始めてしまえば元も子もない。
そして腕を掴みつつ向かう先へやっと進み出す。
「…着いたな」
「やっとね」
「誰のせい?」
「知らないわ」
その集落か何か町のような場所へ着いた。
妙に暗い雰囲気で、時代が数十年遅れたような、
近代的な都市周辺とは似つかない田舎町であった。
見下ろした限りではあるが人通りはかなり少なく、
手入れが行き届いておらず草木は伸び放題、
空家のような家屋も数多く見られた。
この現状ではゴーストタウンと呼べるかもしれない。
しかしながら、自販機等ははっきり稼働していて、
まだ人が住んでいる感じは少しだけあった。
当然ながら飛んでいれば悪い目で見られてしまう。
全員町の端に隠れるように降りてその町に入った。