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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
199/245

帰投

「さあ帰るぞ」

「へ?」


スカーレットを倒して、彼女が完全に消えた時、

ほぼ同時に颯花は空気も読まずに、そう呟いた。

あまりにも気を移すのが早くにとりは返答に困り、

その為にこんな気の抜けた声が出たのであった。


「何がへ?だよ…武器も持たずにここに居て、

何事もなくいられると思ってるのか?」

「いやその、手ぶらで帰る気か?」

「帰れなければ元も子もないぞ」


確かにここ一面は先ほどの風圧で平地になり、

ある程度ではあるが周囲の危険が無くなっている。

一緒に傀儡達もかなり吹き飛ばされているからだが、

それはほんの少しの間だけ安心できる程度だろう。

彼らは何故か音に敏感に反応を示している。

それにこれだけ大きな音を立てれば半日もすれば、

この辺りは彼らで埋め尽くされてしまうだろう。

こんな危険な状況に食料を探せるはずもない。

もう武器は一つもなく、ただお荷物ひとり。私だ。

そして彼らに遭遇して盾にされるのも嫌だ。


「ぅぅ…飢え死ぬ…」

「また次なんとかするから…ほら歩いて!

餌を探す前に餌にされちゃ嫌だろ!」

「少しは休ませろこの鬼!悪魔ぁー!……はぁ…」

「そんな悲しそうな溜息しないでよもう…

一週間なら飲まず食わずでいられるはずだから…」

「お前に言われても説得力がない…」

「私だって食欲くらいはあるわ!

ただ食わなくていいってだけの身体なの!」

「訳の分からない身体しやがって…もぉ…」


2人、いや颯花を担いだにとりは真っ直ぐ帰る。

逆にほかに行く宛もない。時刻は既に昼は過ぎ、

暗いままだが夜に近付いているのがはっきり分かる。

電気は当然通ってない。街頭があったとしても、

それはもはやただのオブジェクトに過ぎない。

暗くなれば足元は見えず、立ち往生をしてしまう。

ここは何としてでもどちらかの隠れ家には着きたい。


「なあ颯花…あそこの自転車があるだろ?」

「義体を捨てる気か?」

「また取りに来ればいい…あれなら日が暮れる前に…」

「また作るのに数日掛かるんだぞ?」

「構わないよ…けど…

お前をカゴに入れるから段差の時痛いぞ?」

「大丈夫、痛みには慣れてる」


風圧で吹き飛ばされた瓦礫の残骸に紛れて、

錆びて前のタイヤが外れそうな自転車を見つけた。

右のハンドルが上に曲がってはいたものの、

ぎこちないがまだ使える為、それを利用する。

義体から颯花を切り離し、彼女をカゴに入れる。

素材は鉄で錆臭く、凹凸で入れられただけでも痛い。

恐らくにとりに颯花のこの心の声は聞こえている。

とりあえずさっさとその機能を切って欲しい、

颯花はそう強く念じるが、彼女は何も返さなかった。

恐らく、先ほどの戦闘で壊れたのだろう。


「こいつなら全力で1時間も掛からないな!」

「申し訳ないが過度な期待はNGで頼む」

「あっ…すまん」



「…本当に大丈夫かな…あんな場所行って…」

「そう簡単に死ぬような人じゃないですよ。

でも貴女が他人を心配するなんて珍しいですね」

「別にそこまで心配してないわ!

ただ食料が少ないから早めに欲しいだけ!」


隠れ家の入口の前で雛は颯花の帰りを待っている。

それはただ食料の問題が深刻になっているからで、

多分心配でじっとしていられないからではない。

少し寒い廊下で1人で待つのは可哀想だと、

美鈴は寄り添うように彼女の隣りで座っている。

彼女の最近の楽しみは雛の物事に対しての、

態度の変化といつも通りの修行、睡眠らしい。

逆にそれくらいしかこの状況ではする事がなく、

また颯花と戦いたいとか思っているほどである。


「!…静かに……!」

「ふぐっ……んん…!」


扉の外からの小さな足音を聞き取った美鈴は、

咄嗟に雛の口を押さえ、物音を最低限にさせた。

再び彼女に触ったせいなのか頭上から豆電球が落ち、

美鈴の頭頂部へ直撃した。割れた音が響き渡るが、

本人はその痛みを涙目になりつつこらえた。

しかし、外の足音は徐々にこちらに近付いていた。

まだ人数までは分からなかったものの、

能力を使わずともある程度なら戦えられる彼女は、

扉の前で待ち伏せながら戦闘の構えを取り、

右手で雛を自分から離れるように指示をした。


「(来る…2人…?いや傀儡には沢山足生えてたし…

やっぱり目視じゃないと分からないですね…)」

「(待って!何開けようとしてるのよ!)」

「(生存者か判断を出来ないんです!

大丈夫、絶対中に入れさせませんから!)」


美鈴はそっと取っ手に手をかけようと伸ばした。

しかし、触れた途端その取っ手はひとりでに動き、

外の人物は今にもこの扉を開けようとしていた。

美鈴はあえてその取っ手から手を離し、開かせる。

その相手の顔面に蹴りを食らわせてやろうと、

タイミング良く脚を振り上げ、一気に振りかざす。


「今ね!はぁあああッ!!」

「うわっ何だっ!!」


外から見れば急に中から脚が飛び出てきた状態で、

大抵の人なら動けずそれをまともに食らうだろう。

しかし、手元に手頃な身を守れるものがあれば、

咄嗟にそれで身を守るのが普通だろう。

外の人物はそれで自身の頭を隠し、身を守った。


「待て待て待てやめろ!いっ痛ッ!!」

「あっ……傀儡じゃない」

「当たり前だ!奴らに扉を開けれる脳はない!」

「あっ颯花すまん、つい咄嗟に」

「全くだ…ここで盾にされるとは思わなかった」


外に居た2人組の足音の正体は颯花とにとりだった。

判断を誤ったのだろう攻撃の脚は止められず、

声を聞いたにも関わらずそのまま攻撃してしまった。

にとりは両手で抱えていた颯花の頭を使って、

その攻撃を受けまいと無意識に防いだのだった。

そんな事よりも、二人のそのボロボロな姿を見て、

1番反応が大きかったのは雛であった。

もちろんそれはにとりに対しての反応であって、

ほぼ頭だけの颯花は完全に無視られていた。


「にとり……貴女なんでそんな状態に…!」

「こういう時はそうじゃないだろ?

ほらほら、昔みたいにあれを言ってくれよ?」


今にも泣き出しそうな顔で見つめている雛に、

その反応は違うだろと教えるようににとりは言った。

彼女が聞きたかったのは心配の声ではなかった。

昔と同じようなやりとりをまたしあいたいと、

にとりは彼女に会ってからそう思っていた。

雛は左手で涙を拭い、右手をにとりへ差し出す。

それににとりは答えるようにその手を握った。


「もう…。…おかえり、にとり」

「ふふっ。ただいま、雛」

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