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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
198/245

過去と現在

「…」


颯花は確かに相手の事を完全に殺そうとしている。

しかし未だ何処かが引っかがっているような、

中途半端な気持ちが彼女の心の中にはあった。

颯花はにとりの事を全て信じているわけではない。

それでも今まで一緒に居た欠かせない存在を、

相当痛めつけられたのなら黙ってはいられない。

それは自分がどこかで意思に反して信じていて、

大切な存在だと思っているからかもしれない。

しかし少しでも信頼の気持ちを持とうとすれば、

毎回、当然の報いのように痛めつけられている。

私はノイズ、心を持った、ただの化け物に過ぎない。

こんな存在に、その答えはないのかもしれない。


「…」

「早いな…もう立てるのか。」

「…調子に乗るなと言っているでしょう…」

「ふん、調子に乗っているのはお互い様だが」

「ふぐッ…!」


まだ足元が覚束無い状態のスカーレットに、

再び心臓部周辺を削り取り大きな丸い穴を空けた。

その反動でかなり吹き飛ばされたが、彼女は、

そのままの体勢の颯花を見て仕組みを理解した。

腕を変形させ内部の機械が露出した状態で、

そのある程度の範囲に入った物体を削り取った。

しかしその削り取る原理までは分からなかった。

それは誰でも分かるはずもなかった。

何故なら本人さえも分からない、恐怖も感じるほど、

そんな訳の分からない機械なのだから。

その漆黒な暗闇が渦巻く颯花の腕を見た彼女は、

底知れぬ恐怖、得体の知れない恐怖を感じた。

攻撃も防御さえも全て通用しない、一方的な暴力。


「…一体それは…なんなのよ…!」

「知るはずもない、答える必要もない。

利用価値のあるものは…利用するまでだ。」

「へぇ…そうやってすべてを利用してきたと…

その帽子の子も…私さえも踏み台にして…!」

「…」


今の颯花にはそれに否定や認める答えが出来ない。

今まで自分が周りの事を信じて頼っていたのか、

それとも目的の為だけに利用していたのか。

私はただ生き返し、皆が元の生き方を取り戻す。

それだけを願って、それを目的に進んできた。

しかし周りの意見を取り入れることはせず、

自分勝手な理想郷を創ろうとしてしまっているのは、

嫌でも自覚はしている。

そんな個人的に作られた理想郷という舞台に、

踊らされるだけの人形になりたくないのは当たり前、

誰かが必ず反発をするはずだろう。いや誰かではなく、

全員がそんな事を望んでいないのかもしれない。

私と八雲 紫の立ち位置と似たようなものだ。

彼女が理想とする世界に私が反発している。

でも、それでも私は彼女達に、私の存在のせいで、

これ以上悲惨な道に進んで欲しくはない。

これをもし魔理沙に伝えればこう言われるだろう。

人の未来を勝手に決めつけてんじゃねえ。

分かってる。けれど不思議とそう思ってしまう。

勘がいいのとは違う、まるで未来予知のように。


「私にはその答えはわからない。

周りを無自覚に信じて、そのうえで頼っていたのか。

それとも目的の為だけに全てを利用してきたのか。

自分の事なのに、どう考えてもわからない。

けどこれだけは確かなことだ。今は…お前を殺す」

「ギ…ふざ…ふざけるなぁあああああああ!!」

「っ…」


スカーレットは右の拳を思い切り地面に叩きつけ、

颯花をその衝撃で生まれた風圧で周りの瓦礫ごと、

そして倒れたままのにとりまでも吹き飛ばす。

同時にその風圧によって身体を燃やしていた炎が、

一瞬にして消されたが義体はまだある程度動かせ、

それが返ってにとりを触れられるようになり、

咄嗟に彼女の腕を掴み咥えた剣を地面に突き刺した。

周囲を更地にするほどの風圧を片腕だけで、

ずっと耐えていれば流石に千切れ壊れてしまう。

身体もにとりも、もう私が考えられる時間はない。


「行くぞ…お前に死ぬ覚悟はあるか…!」

「ここは私が迫害されないでいられる唯一の場所…

お前なんかに私の憎しみを潰されてたまるか…!」


スカーレットは飛び上がり、真上から急下降し、

颯花の頭部目掛けて自身の最大限で飛び蹴りを放つ。

にとりを抱えたままでは反撃が出来ない為、

彼女を優しく降ろし、空いた右腕で輝く剣を掴む。

徐々に動かなくなる義体を信じ、相手の飛び蹴りへ、

曇り切った空を貫くように真上へと掲げ上げた。


「はぁあああああああああああああああッ!!!」

「はぁあああああああああああああああッ!!!」


何でも斬り裂いた剣は当然のようにはいかず、

何故かその脚に押されている状態だった。

燃料の全てが剣に行き渡り義体は機能不全に陥り、

その場で踏み止まる事しかできなかった。

しかし燃料の全てが剣に流れているにも関わらず、

風圧を纏ったただの蹴りにさえ押されていた。


「このまま…地面に押し潰す……そのまま死ね…!」

「ちっ……持ってくれ…こいつに勝つ時までッ!!」


颯花の義体は既に火花を散らし悲鳴を上げている。

踏み止まっていた脚はとうとう膝が逆に折れ、

残った太ももだけで地面に立っている状態になり、

剣を持つ腕は肩から謎の音が耳元に響いていて、

今にも外れ破損し、爆発してしまいそうだった。

颯花が諦めかけた、そんな顔をしたその時だった。


「諦めるなよ…そんな簡単に…お前の夢を…!」

「ッ…!」


既に動かない右腕を両手で抱きしめるように、

颯花の隣りで寄り添うようににとりは居た。

二人だけで、弱っている状態のたった二人だけで、

今のこの傷が完治している相手に勝てる筈がない。

もしも颯花にまだ話せる気力があったのなら、

私を置いてさっさと逃げろと言っていただろう。


「断るね…そんなお前を捨てるようなこと…

もう二度と…自分の元から去っていく…

仲間が…大切な誰かが離れていくのは御免だ!」

「っ…」

「勝つよ…ひとりじゃない…ふたりでッ!!」

「…ふふ…」


弱気になってしまっていた颯花を奮い立たせ、

そしてこの勝ち目がない空気を押し返している。

それはただ二人の意思や勢いだけではなく、

その負けかけていた状況さえも押し返していた。

出力の弱った剣が徐々に相手の脚を二つに裂き、

少しずつ、相手の頭へ突き進んでいく。


「馬鹿な……なんで……!」

「それは単純な答えだよ…人はな…

誰かを守るためになら…どこまでも強くなれる!

貴女は強かった…けど運命に救われなかった…

貴女の思ってる事も私の頭の中に入ってくる…

極寒の地…灼熱の町…人気溢れる都市…

どこにいっても…悪魔だと迫害されてたんだろ…」

「…お前なんかに私の何が…」

「分かるさ…私にだって居場所なんてなかった…

でも今は居場所がある…大切な仲間も…!」

「…に……とり…」

「人はやり直すことが出来るはずだ…だから…

きっと…次は…幸せになれるはずだって!」

「…次…か…」


スカーレットの脚を貫き、そして胸まで届く。

そして最後は顔を裂き、縦に真っ二つに切り裂いた。

先ほどの相手の全力の蹴りは勢いを失い、

出力の弱い剣でも容易く身体を斬る事が出来た。

それはにとりの言葉がスカーレットの心に届き、

彼女の中に何かが生まれたからだろうか。

今となってはその答えは聞いても返っては来ない。

彼女の身体は綺麗な光を帯び、灰になって消えた。


「…成仏…か。まさかな」

「いや…お前の思っている事はないよ。

待ってくれているはずだ…きっとあっちで…。

ここまでやってこれた…お前を信じているから」

「…そう願っているよ」

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