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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
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目覚めの悪い気分

飛行機はスカーレットを遠くまで押して連れ去る。

しかしそれはその機械の正しい使い方ではない。

普通ならドリル部分を押し当てて攻撃するものだが、

押して連れ去るには必要な機能が整っていない。

相手を拘束して動けなくするような機能はなく、

ただドリル部分を挟むように中央に動かしただけで、

相手の両手は自由に動かせ機械にも攻撃が出来る。

更には内部の燃料だけでの飛行力はほんの少しで、

1人乗っただけでも数秒と数m程度しか飛べず、

叩き壊されても飛ばしてもすぐに落下してしまう。


「ふん…両手を塞がなければ無意味なもの…!」


その河童の顔をしたどこか愛嬌のある機械を、

スカーレットは上から拳を思い切り叩きつけ破壊し、

その機械の連れ去る行為を途中で中断させた。

機械は真っ二つに壊れ、やがて大きな爆発を生じた。

そんな爆発にも全くの無傷であった彼女は、

あの子の中で一番期待されていた挙句何も出来ず、

相手にダメージを負わせることさえ出来ない、

そんな可哀相な奴だったと破片を見つつ嘲笑う。


「(また直してやるから…すまない…!)」

「…逃げた…いや違うわね…気配がまだ…」


先程までにとりが居た場所を見つめるも、

そこには彼女の姿は当然のように無くなっていた。

更にはあの無力な義体の子まで姿が消えている。

しかし、完全に気配が消えた訳ではなかった。

逃げればいいものをと思いつつ周囲を見渡し探す。


にとりは相手のその僅かな隙を逃げる事には使わず、

すぐに颯花の下へ移動し彼女を物陰に隠した。

そして自身と颯花に光学迷彩を着せて姿を消す。

彼女が何故このままでは勝ち目がないような相手に、

逃げずに戦い続ける事への理由は単純なものだった。

この四角い結界の世界はある程度広いとはいえ、

相手が探し或いは破壊し続けられれば当然見つかり、

いつかはまたこの相手と戦闘をする事になる。

更に見つかる場所が悪ければ雛達に怪我人が出る、

悪ければ死人さえも出てしまうと考えていたからだ。

それに逃げ切って颯花の義体を直したとして、

彼女があの姿の相手に止めを刺せるか分からない。

また彼女を苦悩させる事にも躊躇いを感じていて、

別に颯花の事を信用していない訳ではないものの、

これ以上こいつと戦わせたくないと思っていた。

やれるのならここで、私がやった方がいい。


「(一番奴が分かりやすくて…障害物が無い場所。

そこなら私の最後の手が通じるはず…!)」


にとりは早速物音を立てずに素早く移動を始める。

何も持ってなさそうな彼女が自身を持てるほど、

あんな相手を倒せるようなものを持っているらしい。

そんな物は当然見た目では確認出来なかった。

鞄からでさえ有り得ない大きな物が普通に飛び出し、

服の小さなポケットにも何か入っているような、

そんな雰囲気さえ感じさせたり、漂わせている。


「あの子は一体何を考えているのかしら?

こんな不思議な力さえ手に入れた私に勝てると?」


スカーレットは自身の斬られた脚を見つめる。

そこには周囲から少しずつ集まった小さな粉が、

自身の脚を徐々に再生させているのが目に見える。

颯花の繋げれば次第にくっつく程度の再生では無く、

八雲紫の徐々に離れた身体から戻って来る方の、

便利な方の再生が可能な身体になっていた。

それによって今までの攻撃は無意味へと変化した。

自分の実力と謎の力による自身で恐怖が薄れ、

まるで最高にハイになったような気分になっていた。

高揚しつつ周囲を破壊しながらにとりを探す。

見える障害物を全て壊し、そして見つけて壊す。


「ふふふふふ…怯えて逃げたんじゃないでしょう?

堂々と…殺されに掛かって来なさい……!」


建造物が崩れる音と共に無音の世界に小高く、

その彼女の声が広範囲に四角い世界に響き渡った。

しかしそう呼び掛けても彼女は姿を表さない。


「チッ…無意味に生を望むのね…

どうせここからは逃れる事は出来ないのに…!」


破壊した建造物は全て壊れ、音は鳴り止んだ。

それによって他の音は鳴らず声だけが響く。

高揚した気分ではじっと待つ事が嫌いになるのか、

破壊衝動に駆られ再び全てを壊そうとし始める。

まさにその時だった。


「光ったッ…そこかッ!!」

「『スーパースコープ3D』ッ!!

倒すまでありったけぶっぱなしてやる!」


にとりは商店街から離れた遠くのビル街の、

倒れたビルの上に乗り大砲を抱え砲撃を始める。

その古そうな大砲はかなりの距離でも弾が届き、

まるで誘導しているかのように上から真っ直ぐと、

相手のいる方向へと弾速と重力で加速し襲い掛かる。

そして直撃し同じような爆発が生まれるも、

どうせ相手は無傷だと煙が引かなくとも感じ取り、

エネルギー切れまでその砲撃を絶えず撃ち続ける。


「無駄な悪足掻き…!貧弱な攻撃力…!」

「ちっ…なんであんなに硬いんだ…!」


スカーレットは余裕な笑みを浮かべながら、

身体を力ませにとりへ一直線に高速で突撃する。

それはいつもとは違い何も考えずに行動したもので、

恐怖さえなければ恐れもなく、死への恐怖さえも、

当然のように跡形も無く消え去っていた。

痛みもなく死にもせず、必死な相手の顔を見れば、

馬鹿馬鹿しく必死こいていて惨め、哀れだと、

馬鹿にしたような笑い声さえ口から漏れ出ている。


「痛くも痒くもない…これなら世界を壊せる…

いや……支配する事も可能!まさに無敵!」

「ちっ…いくら撃っても止まりもしない…

この中の世界では奴を倒せる奴はいないのか…!」


あんな遠かった距離を残り5秒で到着するほど、

圧倒的な速度で迫り、やがて文字通り到着した。

にとりは成す術が消え冷や汗と唖然とした顔をして、

目の前の実態の分からない生物に怯えていた。

そんな彼女を後目に砲台の口の中に顔を覗かせた。

何をやっているのかにとりは分からないまま、

無意識ながら相手への攻撃を続けた。

そして0距離で放たれた砲弾は直後に爆発し、

その爆発で砲台は自爆し粉々に破損してしまった。

煙が引き、同じ体勢のままのスカーレットが、

足に力の入らないにとりの目を真っ直ぐ見つめる。


「ふふ…存分に楽しませてもらうわよ…」


「ッ…」


「…違う!寝てる場合じゃない!奴は!にとりは!」


動けないままの壊れた身体の颯花は目覚める。

周りの建造物はほとんど破壊されて崩れ、

落ちた瓦礫が颯花の義体の上に乗っている。

義体の上に被せられた布が火花を散らせていて、

彼女はすぐにそれを光学迷彩なのだと気づいた。

にとりは私を置いて逃げるような奴じゃないと、

残念ながらそう思った事は当然その通りであった。


「目覚めの悪い目覚めだ…めまいが酷い…

だけどそんな場合じゃ無いって事は分かってる…!」


当然のように身体は彼女の意思に背き動かない。

今も戦っているだろうにとりの命が危ないのに、

敵を殺すのに戸惑い、そして今は動けず非力になり、

これによって更に自分自身を嫌悪していた。

そんな時、目の前から何かが落とされた音がした。


「っ……」

「目覚めが悪そうだからビックリさせて、

意識をハッキリさせようと思ったのよ?

有り難く思いなさい、これでも生きてるのよ?」


颯花は言葉が出ない。

勘通り、にとりは悲惨な目に遭ってしまっていた。

私がこう思ったりしなければこう無らなかった。

私が迷わず相手を断ち切ったりすれば良かった。

私が居るからこんな目に遭わせてしまった。

私が…堂々とこの世に蔓延っていたから。

数え切れないほどの言葉が自身を追い詰める。

思った事は全てその通りになっていく。

この後悔も、周囲の悲劇も、全て私のせいで。

あまつさえにとりに手を伸ばす事さえ出来ない。

あの時と同じだ。咲夜が1度死んでしまった時と。

涙が出ない、声の出ない悲鳴に似た叫びを上げた。


「ふふふ…その顔…いい顔してるわよ…

ならこれでどうかしら…もっと見せてよ…」

「ゃ……めろ…」


意識の失い掛けているにとりの身体を起こし、

首筋に目掛けて一気に噛み付き、血を吸い始めた。

私のせいで更に彼女が苦しんでしまった。

やめてと必死に叫ぶ。しかし当然無意味だった。


「フフフ…どうしたの…掛かって来なさいよ…

でないと…お仲間は絞りカスになるわよ…?」

「……ギ…ギギ……!」

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