咲夜の姿の吸血鬼
「殺気が弱まっているわよ?どうしたの?」
「ふっ…あながち間違いではないな」
颯花の目の前の、視界に映し出された相手の姿。
それは今までの、そして今の颯花の生き甲斐であり、
例えどんな手を使ってでもまた彼女に会いたいと、
その相手の為に今まで必死に奮闘し続けていたほど、
それほどまでの相手は今の所1人しか居ない。
その人物は雰囲気までもが彼女と似過ぎている。
例えるのなら颯花と桐柄のような関係だ。
姿は似ていても、どことなく違うと判別出来るが。
その姿、その似ている人物は十六夜 咲夜。
仕草、態度までとは言えないものの、
ほぼ同一人物とまで言えるほどのレベルだった。
「…」
「…何よ、ジロジロ見て。いやらしいわね」
「…。名前を聞かせて欲しい」
「今から殺し合うのにそれは必要なの?」
「おい颯花…逃げるべきだって…!」
「いや…私は確かめたい事がある。
姿はただの偶然の産物として…もっと重要な事だ」
「だけど…!」
そう呼び掛けるにとりに気付かせるように、
目の前の人物へ指をさして画面越しから教える。
その場所は相手を普通にさしているように見えたが、
実際の所、彼女は相手の背中の方をさしていた。
そこには暗闇に薄らと見える茶黒の色をした何か、
背中から何かが生えているのが確認出来た。
「コイツには…私と同じタイプの翼がある」
「…吸血鬼か…!?」
その背中から生えている翼の形状は、
レミリアの翼にフランの翼の結晶が合体したような、
颯花の切り離した身体から生える翼の形状と同じだ。
普通の人間ならこんなもの生えてはいない。
にとりの言ったように、吸血鬼に違いはない。
「あくまで予想だ。聞け、咲…吸血鬼さんよ」
「何かしら?」
「お前の名前に…スカーレットは入っているか?」
一見穏やかそうな表情を見せ続けている相手は、
放っている殺気に見合った表情に変化した。
どうやら、予想は当たっていたらしい。
だが、なぜそこまで殺気を放つのかは疑問だった。
まだ会ったばかりなのにまるで知っているようだ。
誰かに私が来る事を知らされていたのだろうか?
「…。私ってそこまで有名人だったの?」
「…図星か。」
「そうね、けれど私の名前は教えない。
というよりも、無いと言った方が正しいかもね。
そうね、スカーレットって呼んでくれればいいわ」
「そうっすか」
「…」
しばらくの間だけ、2人は見つめ合っていた。
武器か何かを持っているか、等を考えている。
そして、どっちが強いのかという事までも。
正直な所、このままでは勝つ事は出来ないだろう。
見た目以前に、普通に相当な上位の実力者だ。
「なぜかしら、貴女は私と同じ匂いがする」
「二つくらい質問しなければ、私にも分からない」
「封じ込められた後の数少ないまともな生物だし…
答えられる範囲なら返答しましょうかしら」
「分かった。それで確信した事は全て伝える」
颯花は一つ目の質問をした。
家族や血族関係のある人物はいるのか?
返答はYES。二つ目はこれに関係している。
妹や娘等、それらの立ち位置に姉妹は居たか?
またもYES。正確に言えば娘と彼女は言った。
なるほど。レミリアがあの時、血に飢えた状態で、
何故咲夜を仲間にしたのか分かった気がするな。
まだまだ質問したい事はある。だがこれで分かった。
私個人の性格の問題だが話したい事は先に話したい。
この目の前に居る人物、あの姉妹の母親だ。
断定は出来ない。名前を言えば分かってもらえるか?
「レミリア。それとフランド…ッ…!」
「…貴女が連れ去ったの…ねぇ!」
話している途中で躊躇いなく攻撃を仕掛けられた。
異常に速い。目ではまともに追う事が出来ない。
話の途中でいきなり首を絞めてきているほどだ、
それほど大切な家族だったんだろう。
しかし、私にはそこまで情を持つ資格はない。
回避すると分かっている前提で彼女に向かって、
剣を取り出し広範囲を斬り払った。
殺意を込められず、異常なほど振りが遅いが、
それにスカーレットは疑問を持ったのか、
颯花を思い切り蹴り飛ばし、距離を取った。
その力は凄まじく、胸部の外部装甲を凹ませた。
結界の中では弾幕系の能力は封じられる。
しかし、身体能力までは封じられる事はない。
「…私じゃない…けど私がやったのも同然だ…。
そして私が…殺したのも…同然だ…!」
「なっ…今っ…死んだって…!?」
「そうだ…彼女達は死んだ。もう居ない。」
「貴女だけは…殺すわ…絶対にね…!」
「でもな…どうして今まで姿を隠していた?
自身を危険に晒してまで、救けるっていうのが…!
大切な子への…親の義務じゃあないのか…!」
「貴女にだけは…言われる筋合いはない…!」
遠く離れた相手の位置からこちらに急接近し、
颯花に強打の一撃を加えかなりの距離を吹き飛ばす。
受けた身体は義体で痛みはないものの、
振動が伝わり少しだけ酔った感じになった。
それはお構いなしに行動から様々な予想を考える。
戦うスタイル。よく狙う攻撃箇所。
余談だが、相手の持っている能力までもだ。
「見た目はどうしてここまで似るのか…。
私にとって、とても部が悪い相手だな…クッ…」
「待ってろ!今行く!」
「来るな!余計な事はするんじゃない!」
「なっ…」
「…すまない。コレだけは、私がケリをつけたい」
「何をごちゃごちゃと…!」
今度は堂々とまっすぐこちらへ向かってくる。
それに応じはせず、出口へと駆け走る。
今この洞穴では、広さが足りなさ過ぎる。
そしてこの心境では、まだ相手を斬る事は無理だ。
どうしても、別人なのにコイツを斬る事が出来ない。
それは姉妹達の為か、それとも咲夜の為か。
「ふん…怯えて手も足も出ないのね…!」
「お前の姿が変われば…こんな事はない…!」
出口が見えた所で、颯花は相手に追いつかれた。
しかし飛び蹴りをあえて受け、その反動を利用した。
飛び蹴りが来るのはだいたい予想がついていた。
この相手はよく分からないが足技を多用している。
しかし、受け止めたとしても威力は凄まじく、
洞穴の外にあるコンビニの天井を突き抜け、
上の二、三階の床と天井さえも突き破ってしまった。
宙を舞った颯花、この身体では飛行能力はない。
真上の四角い空に衝突し、跳ね返った。
これ程まで様々な場所と衝突したにも関わらず、
速度は減衰せずこのままでは地面に叩きつけられる。
「にとり…アンカーは!?」
「ある!」
「…!」
腕から射出されたアンカーを屋根に引っ掛け、
薄暗い一本道の場所で逆バンジーのような状態に。
運良く商店街の店は背が高い店が多く、
脚がギリギリ付かない程度で速度を抑えられた。
しかし彼女はあえてその残った僅かな反動を活かし、
建ち並んでいる商店街の屋上へ戻っていった。
そして、曇ったねずみ色が終わらないの空の下で、
先ほどの一本道を挟んで2人は見つめ合う。
「…もしも生き返らせると言ったら信じる?」
「信用するほど…落ちこぼれてない…!」