不穏
「…颯花ッ!大丈夫か!?」
「ッ…!…いきなり大声を出すな…。
鼓膜が破けたらどうするんだ?…全く」
「…良かった、いつものお前だ。
でもどうせ破けてもお前なら治るだろ?」
「保証出来るのか?」
「いや全然」
「…。まあいい、にとり。アレだ」
モニター越しから颯花の視界が確認出来た。
まだ早朝だが太陽が見えず曇りの日のように暗い。
颯花が居る周辺のビル等は倒れていたりと、
残骸化していたもののそれで強風が遮られたのか、
向こう側は至って普通の田舎町のような雰囲気で、
窓ガラス等が割れていたりしなければ、
最近出来たばかりのゴーストタウンのような感じだ。
周囲には傀儡が所々居るもののその建造物周辺には、
全くと言っていいほど見当たらず、
まるで彼等がそこを避けているような感じだった。
だが、その内部にも若干彼等が入り込んでいる、
それは遠くから見ても分かっている。
「…どう思う?」
「…感情のないはずの傀儡達がまるで避けている。
中に集団があって縄張りでも生成しているのか?」
「…当たり前の事だが、慎重に行くべきだな」
「ああ、頼むぞ」
「了解」
颯花の居たビルの残骸の上から一気に駆け下り、
周囲を囲まれる前にその場所へと向かっていく。
瓦礫を踏んだ音で察知され、徐々に集まっていくが、
そんな事はお構い無しに彼女は向かっていく。
そしてその場所に到着し、物陰に身を隠す。
周囲の傀儡は目標を見失い、目的を失った為か、
この建造物から一目散に距離を離していく。
やはり彼等の行動には不自然さが極まりない。
「…ここからは小声で話せ」
「ああ…分かった」
内部は商店街の屋根がある状態でやたら薄暗く、
かろうじて天井の穴から差し込む光だけが頼りだ。
なるべく瓦礫のない場所を踏んで進んでいき、
食品等を販売している店を探しながら進む。
入り口周辺には薬局等食品売り場が無く、
まだ病人は出ていない為そこを素通りしていく。
以前雛か誰かがここへ来た時に持ち帰ったのか、
薬品棚が既にほとんど持ち去られている。
「颯花、前方右10mらへんに居るぞ…」
「…。一匹…いや1人か?」
「ああ…ソイツだけだ」
「なら…誘き寄せる方が早いな」
薄暗い自身の足元に手を置き感触で何かを探す。
そしてそこにあった手頃な大きさの石を手に取り、
それを物陰からそっと投げ、音を出した。
それに反応し、傀儡は音のした方向へ振り向いた。
しかし、一歩近づいて、そこから決して動かない。
壁でもあるかのように、意地でも動きそうにない。
「…待つのは嫌いなんだけどな…」
「他の道は無いのか?」
「無いね。一本道だ」
颯花はそう言った直後に、物陰から一気に飛び出す。
傀儡は声を発さず見つかっても動きは遅い為、
僅かな隙を突ければ1体の処理は容易い事だ。
身体の制限を解除してその距離をものの5歩で接近、
傀儡の喉元に狙いを定めて一気に剣で貫いた。
「…解除しろとは、言ってないけどな」
「外へ出る前にお前が言ったんだぞ?
戦闘になる前には制限を外してくれって」
「…こんなの戦闘じゃない」
剣をしまい倒れかける傀儡の胴体を片手で押さえ、
もう片方の手を使って切り離した頭部を掴む。
地面に落ちれば音がなってしまうので、
身体を無理矢理な動かしてまでそれをやり遂げた。
義体に過度な負担を掛けるなと小声で怒られるも、
そこまで無理な動きはしていないと言い張った。
やがてその傀儡は原型を無くし徐々に消えていった。
「傀儡が多いと言っていたのは脅しだったのか?」
「あいつは嘘を言うような奴じゃない」
「…すまん」
おそらくこの長い道の中央とみられる場所に着いた。
それまで居た傀儡は先ほどの1人だけというのが、
かえって颯花の心境を不安にさせている。
それはモニター越しから見ているにとりも同じで、
もしもの事があれば助けに行くなどと言っている。
勿論来させないし、心配も無用だ。
多少噛まれても問題ないのに、少し心配し過ぎだ。
ちょっとだけでも信用はして欲しいものだ。
「ここか?」
「食糧…何も無いじゃないか」
コンビニらしき店の目の前に立ち尽くす。
ここに来るほどに傀儡の反応が減ってきている。
彼等はここが嫌いなのか、それとも何かがあるのか。
そこから見える店内はゴミは散らかってないものの、
逆に不思議なくらい綺麗に、清潔な状態だった。
「このまま帰るのは惜しい、入るぞ」
「どうせない、戻ってこい」
「無駄な事は嫌いなんでな」
「…」
半開きの自動ドアの隙間から中へ入ろうとしたが、
ヘルメットの飾りか分からない突起部分のせいで、
身体を横にしても入る事が出来なかった。
しかし、無理に入ろうとしたせいで力が入り、
その解除された力が容易く扉を破壊してしまった。
倒れた扉は大きく音を鳴らしガラスが飛び散る。
「…集まってくる前に帰ってくる」
「…」
その店の店内へ一歩踏み出した。
しかし、そこから颯花はにとりが声を掛けるまで、
微塵たりとも動かなかった。いや、動けなかった。
一瞬にして周囲の空気が凍りついたような、
店の外とは違う感覚を颯花は全身に感じた。
流石に颯花はここはまずいと思ったのか、
少しだけ身体が外へ動くも、すぐさま身体を戻す。
どうやらまた彼女は意地を張っているらしい。
店の中は全く荒らされていない。
ホコリさえもなく、誰かが昨日掃除したような、
手入れが行き届いているような状態だった。
相変わらず店の棚には食品ひとつもない。
しかし、ひとつだけ異様な点を彼女は見つけた。
「打ち開けられたような…穴だ」
「まるで、何かの巣みたいな感じだな」
コンビニの内部、その奥の床に大きな穴があった。
今度は何故か逆に一歩、吸い寄せられていた。
奥にいる何かに呼ばれているような感触を味わい、
凍りついた原因がその奥にあると断定出来た。
吸い寄せられるならされてやろうと脚を進める。
いつものように、颯花はにとりの言う事を聞かず、
疑問に思った事の答えを求めようと体を動かす。
「一本道だな」
「おい…もうやめとけって」
「大丈夫だ…。何故かかえって安心感を感じている」
「どう見てもそれはおかしいって…!」
まっすぐ続いているトンネルのような洞穴に、
終点にライトのような明るみを感じた。
まだこの場所では見えない。向こうの相手は、
こちらの存在を既に気づいているんだろうか。
その場所へ、一歩一歩脚を進めていく。
「…こっちでは見えたぞ。…女性か?」
「どんな見た目だ?」
「…。もしそれが敵なら、お前じゃ斬れない」
「…敵じゃない事を祈るよ」
「…やめろ。…今回だけは頼みを聞け…!」
やがて、その相手が視力的に見える距離まで来た。
そして、その場から再び動けなくなった。
ずっと前の記憶の中にあるその顔が目の前にある。
彼女は死んだ。それは間違ってはいない。
じゃあコイツは、誰だ?
「…そりゃあ…斬れない訳だ」
「…あの生意気な傀儡じゃないわね…貴女」
「それは…こっちの台詞だ」
服装は至って普通の普段着の人間。
いや人間ような生命力を感じれる生物じゃない。
傀儡と似たオーラを放ちつつ、決して違う化物。
日焼けのない綺麗な白い肌に、それに似合った、
美しく艶のある白銀のような色の髪。
私はコレを斬る事が出来るのだろうか。
ジョジョ4部今日(正確には明日だけど…)なんですね。
見逃す所でした…危ない危ない。