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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
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崩れ始めた心

「もういい、この話はこれで終わりだ」

「待ってくれよ颯花、まだ言いたい事が!」

「次ココへ来る時に通信機でも置いていけ。

今日はもう私に時間がないからな。ほら」

「…。計算よりも早いな…燃費が悪過ぎたのか」

「半日しか身体の燃料が持たないんだろう…?

この金髪が燃料なんだろう?もう僅かだが」


颯花はヘルメットに付属している金髪を右手で掴む。

先ほどまで太股辺りまで長かった髪の毛が、

今では肩甲骨の辺りまで短くなってきている。

颯花は地味に気付いているが、あえて言わない。

その髪の毛の材質が明らかに死の灰であると。

何故彼女がそれを手にしているのか疑問だった。

颯花にとってあまりにも気に食わないものであり、

更に自身の身体の材質もその物質が元である為に、

自分自身が嫌いという事を遠回しにいっていた。

しかし、今はそれ以外で頼れるものはない。


「…分かった。次の機会にじっくり話す」

「悪いな。」

「構わない。別に話すなって訳じゃないからな。

それと、お前は余計な事を気にしないでいいんだ」

「…」

「…で颯花、生存者は何人居るんだ?」

「…38人、久しぶりです。颯花」


玄関に最も近い扉が開き、誰かが颯花の名を呼んだ。

以前会ったような態度でこちらに歩み寄ってくる。

帽子に星型の飾りのついた中華風の女性。

しかし、彼女への颯花の対応は冷たいものだった。


「…誰だ」

「なっ…ぇぇ…紅 美鈴、ほら思い出して下さい!」

「…いずれ思い出すはずだろう」

「酷い…」


そんな彼女の隣りに小さな少女が居た。

というよりも美鈴の高身長や存在感のせいで、

彼女の影が薄くなっていたような感じだった。

しかし、明らかに普通の少女ではない雰囲気が、

彼女の存在に気づいた時から感じ取れた。

見た目は単純に威張っているだけの少女だが、

そんな彼女はどことなく不満げな顔をしている。


「…」

「ん?ああ、彼女は伊吹 萃香です。

私達と一緒で、元々は幻想郷に居たんですよ」

「…不満そうな顔だな」

「お酒がなくて不満だって言ってます…」

「…酒の問題よりも食糧の問題でしょう…」


後ろの雛がそう小さく呟いた。

どうやらここの管理者的な存在は彼女らしい。

触れたら危ないらしいがそんな役目が出来るのか?

管理する立場なら人と接する機会も増えてしまう。

なんで彼女がそんな事を自ら担当したのか。

と思ったものの、彼女以外まともそうな人が居ない。

目の前の2人組はどう見ても向いていない。

先ほど颯花が見てきた彼女達以外の生存者の顔も、

雰囲気だけでも真面目そうな人物が全く居ない。

むしろ食糧が少ない中こんな面々で、

よく数日持ちこたえられたのか不思議でならない。


「そうか。やはりここも食糧も酷い状況か…」

「いや…そういう訳でも…」

「ん?何か手があるのか?」

「えっ話して大丈夫なんですか?雛さん」

「どうせ取ってこれませんよ…あの場所は。」


雛が頭を抱えてため息をつく。

現状はどこの場所でも地上は傀儡のせいで危険だが、

彼女は少しだとしても外には出ているので、

そんな事はどこでも同じと理解しているはずだ。

安全な場所が全くないと言っていいほどの地上で、

それ以上に危険だというのは妙に引っかかる。


「教えてくれ」

「行く気か颯花?」

「問題を取り除けるのなら危険でも構わない。

私はお前の造ったコイツを信じるだけだ」

「あまり危険な目には合わせたくないけど…

食糧難なんかで死ぬのは御免だからな…頼む」


にとりはしぶしぶ了承した。

自身の造ったものに自信があるとは言えども、

そんな危険な場所へ向かわせるのは気が乗らない。

けれども現実はそんな甘い状況ではない。

そんな2人だけで話を勝手に進めているのに対して、

雛は呆れ顔をして颯花を見つめている。


「…まだ教えるなんて言ってないけれど」

「教える気が無いならそんな話題を出す筈もない。

そうだろう?厄神さま」

「どうなっても……知らないわよ」

「だからこうして煽って言わせているんだろう?」


その彼女の呆れ顔が徐々に怒りに満ちてきている。

流石にやり過ぎたかもしれないと思ったが、

だからといってやめる義理もないと思っていた。

颯花は何故か彼女に対して維持を張っている。

無駄な事をしている自分自身に疑問を持つほど。


「ほんと、気に食わない性格ね。

貴女よりも年上なのに敬語も言えないのね」

「確かに妖怪やら神やらのお歳は桁が違いますわね。

ですけど見た目だけで判断しないで欲しいですの。

姿が変わらないからっていつまでも若いフリを…」

「なっこれでも私はんごごごご!」

「はいはい、落ち着いて下さい雛さん…」

「中二病こじらせた中学生が調子に乗…!

ちょっと!離しなさいよ!触れると危険だってば!」


何かを言い放とうとした彼女の口を、

両手で美鈴が全力で押さえて言わせるのを止めた。

しかし雛の厄が移ったのか足を滑らせ体勢を崩し、

床に思い切り顎を強打してしまった。


「あっ…だから触れないでってあれほど!」

「…もういい。茶番は終わりだ。閉廷。

さあ話してもらおうじゃないか。食糧も分ける」

「は!?ちょっと颯花ッ!!」


被っているヘルメットから怒鳴り声が響いた。

それはどう聞いても一人だけではなかった。

向こう側の3人が同時に怒鳴ったのだった。

その声は異常なほど耳に響き、痛みまで感じさせた。

それに耐えきれずヘルメットを投げ捨ててしまい、

胴体が燃料を供給出来ず、動けなくなってしまった。

まるで意識のあるまま時が止まったようになり、

ずっと前に感じたような寒気に襲われた。

そのヘルメットを拾って、雛が不気味に微笑んだ。


「…」

「…返して欲しい?」

「…。にとり助けて言いたくない」

「自業自得だろ」

「威張ってすいませんでした。」

「宜しい」

「…(チッ」

「今何か聞こえたような…?」

「そっ空耳ですわよ。オホホホ……」


「食糧を分けなければ死人が出るのは当然だ。

私としては見捨てる訳にはいけない。

虐殺なんて考えた奴の言う言葉じゃないだろうが」


自然と自ら避けられるような言動をしてしまった。

まるで自分の中では当たり前の事のような事だと、

間違った認識をしてしまっているのだろうか。

それはやってはいけない事だというのは、

はっきり理解しているはずだと思ってはいるものの、

また別の自分が正しいと誤解してしまっている。

今は間違いを間違いだと思えるようにならなければ。

もう2度とこんな罪を犯したくはないから。

少なくともそれが1番の罪滅ぼしの近道だろう。

罪滅ぼしが出来ずとも、後悔をするつもりもない。


まだ彼女達は私のした事を知らないはずだ。

今彼女達に無理に教えても信じられる訳もなく、

もし信じられてしまえば空気も悪くなってしまう。

取り敢えず空耳だと言っておいた。


「虐殺って言った?今」

「…。いや、そんな事を言ったつもりはない。

それに教えて貰ったのに何も無いのは失礼だろう」

「そりゃあそうだけど…」

「にとり、3人分なら余るはずだ。

私からも頼む。アレだアレ…ツケとやらでいい」


音の出る場所からため息が聞こえる。

やはり駄目か。食欲に飢えている程だったからな。

可哀想だがそういう事らしい。すまない雛。


「いいよもう。お前が行くからお前が選べ」

「…」


やっぱりいつも通りのにとりだ。

友人を見捨てられない。雛の事を見捨てられない、

そして人を見捨てられない彼女らしい言葉だ。

さっきのため息はツケの事だろうか。

まあそれはそれとして、残りは雛だけだ。


「後は貴女ですわ。お雛様 」

「仕方ないわね!死んでもいいなら行けば!?

貴女が死んじゃっても私には関係ないからね!」

「…遠回しに止めてるのは悪いが、

そんな覚悟が無ければずっと前に死んでいる身だ。

それくらいでビビっていれば…アイツに悪い」

「アイツ…?まあいいわ。

場所はここからもっと西の商店街。

歩道の場所に屋根があってかなり薄暗いの。

更にあそこには結構な人が祭りで集まっていたわ。

視界と狭さ、あと奴らの数が手強いわよ」


更に西側に行けばミサイルの落ちた場所から離れ、

建造物が崩れて押し潰される事は無いだろう。

しかしその場所が薄暗いというのは厄介だな。

今の私は片目の視力が完全にないままだ。

ヘマをして不意打ちされれば状況が悪くなる。

しかし行って見なければ分からないので、

深い事はその場所に到着してから考えよう。


「…そうか。明日の早朝に私は行く。

何事もなく戻って来れたらご馳走をくれてやろう」

「…フラグ?」

「止めろ。冗談でも言うな。…じゃあな。

次はちゃんとにとりと話し合ってあげてくれ」

「…。貴女が止めたんでしょ?」

「もともと話す気が無かっただろうが」

「…」



「帰還した。とても疲れた。もう休む」

「俳句みたいに言うな。はいはい、分かったよ」


床に座った途端、彼女は気絶するように倒れた。

それほど疲れてしまったのだろうか。

にとりが声を掛けても全く動じる気配がない。

取り敢えず頭を取り外しそっとしておいたが、

せめて呼吸だけはしてくれ。にとりはそう思った。

これでは生きているのか死んでいるのか分からない。



「(…なんだ…?)」


颯花は目を開ける。周囲は真っ暗だ。

しかし、それに反して自分の身体ははっきり見える。

辺りを見渡しても誰も居ない。

声を発したが返事すら帰ってこない。

それも奇妙だが、もっと別の事がそれ以上に奇妙だ。

私の身体は機械の身体、義体ではなかった。

つまり以前の身体がそのまま残っていた。

痛みはある、右目の視力が無いのは相変わらず、

あの時と全く変わっていない姿のままだ。

しかし、この私の身体を蝕む者がそこにいた。

それは必死に身体にしがみつき、決して離れず、

欲望のままに私の身体を食い荒らし続けている。

手足がムカデのように生えている、こいつは傀儡だ。

普通ならこの時噛まれている時点でアウトなのは、

何故かは分からないが忘れてしまっていた。

たかが1匹、殴り殺してやる。

颯花は相手の髪を掴み、左手を振りかざす。

しかし、彼女は何故かそれを殴る事が出来なかった。

その傀儡の顔は、

颯花の言った『十六夜咲夜(あいつ)』だったからだ。

そして体が動かないまま、周囲に集まってきた。

蝿のように集り、身体がある限り食い荒らす。

叫んでも、それをいつまでも止める事はない。

これは、彼らの最後の、決死の復讐劇なのだろう。



「おい颯花ッ!どうした!?」

「…!……にとり、か」


嫌な夢を見た。久しぶりに私は涙を流していた。

そうだった、完全に忘れてしまっていた。

私が躊躇いなく平然と切り捨てた傀儡達は、

1人1人、もともと人間だったんだよな。

私のせいでみんな、人生がめちゃくちゃになって、

そして無関係の被害者のまま、私に切り捨てられた。

失わせた命、そして取り返せない命。

死神という簡単に片付けてしまっていた私を、

再び思い出させてくれたような夢だった。

今出来ることは彼らを切り捨て、無に返す。

彼らを切る度、何度も夢に1人1人、出てくるだろう。

いつか耐えきれず彼らを斬る事すら出来なくなる。

そうなるまで、そうなったとしても続けよう。

もう私に後戻りは出来ないのだから。

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