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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
184/245

四角い空の中で:3

ふと覚めた。

部屋の天井の照明は消えているものの、

机の上に置いてあった小さな照明がついている。

その照明の光はとても小さいはずなのに、

颯花は何故かとても眩しく感じている。

しかし、そう感じた理由はすぐに理解できた。

その照明は、まっすぐこちらに向いている。


「…(にとり…)」


どうみてもこれは嫌がらせだった。

にとりは毎回無理な願いを頼まれ過ぎていて、

ストレスでも溜まっていたのだろうか。

これが意味のないストレス発散だとしたら、

流石に颯花は多少でも怒っていたかもしれないが、

相手はにとり、色々とお世話になっている。

とりあえずされても仕方ないなと思っているが、

出来ればそのまま放置して寝ないで欲しいと思った。

自分以外全員が何事も無かったように寝ている。

そんな状況で起こしてまでやめろと言える訳がない。

颯花が寝なければこうならなかったかもしれないが、

流石に睡眠が要らないような身体ではない。


色々考えたが、結論は変わらなかった。

自分が彼女達が起きるまで我慢すればいい。

今日のあの件でみんな疲労しているのは当然のこと、

休める時は休んだ方が良いのは当たり前だろう。

でも、出来たらこれは二度とやめてくれ。

身動きがとれない状況でこれはまるで拷問だ、

にとりが感じたものよりはマシかもしれないが、

これはかなり精神的につらい。二度とごめんだ。



「…」

「…(起きたか)」


にとりは机から起き上がり、身体を伸ばす。

そのあと、あくびをしたようなポーズをした。

彼女はなるべく音を立てずに冷蔵庫へ向かい、

ガサゴソと無音のまま何かを探し出す。

起こさずに行っているのか、それとも、

バレないように行っているのか、あるいは両方か。

そして何かを見つけたのか、そこから手を出した。

その手にはアイスのような何かを持っている。

まるでその後の食糧問題を無視するかのように、

その大きなアイスを1人で食べようとしている。

そんな事を、流石に見逃せるような颯花じゃない。

なるべく寝ている2人を起こさないように、

にとりの背中を鋭い眼差しで睨みつけた。


「ッ…!」

「…」


にとりの身体はビクッと何かに反応した。

そしてゆっくりと彼女はこちらへ振り返った。

当然のように目と目が合った。

彼女の顔は駄目なの?と聞くような顔だった。

当然だ。初日からあんな大きなものを食べられて、

後々困るのはお前だろう。そう颯花は念じる。


「…(駄目なの…?)」


それが伝わったのか彼女の目は泣き目に変化した。

勿論そんな顔したって駄目だ。やめとけ。

そんな事を言うような目で見つめ返すも、

認めるまで続けるのか、いつまでも泣き目で見る。

やけに諦めの悪い事から、颯花は感じ取った。

その泣き目は演技、意地でも食べたいんだろうか。

食い意地を張る彼女の気持ちまでは感じ取れない、

少しくらい我慢したっていいだろう。

絶対駄目だ。先程よりも凄まじい目つきで睨んだ。


「…(チッ)」

「…」


その可愛らしいくらいの泣き目は突然と消え去り、

凄まじいほど憎んでいるような顔で舌打ちをした。

颯花が初めて?彼女の腹黒い部分を見た瞬間だった。

そんなに怒らなくてもいいだろう…。

仕方なさそうに彼女はそれを冷蔵庫に戻し、

再び机へと戻って作業を始めようと移動した。

これで一件落着、そう思って颯花は目を閉じた。

しかし、何故か目の前で人の気配がする。

そしておぞましいほどの殺気を颯花は感じた。

久しぶりに冷や汗をかいた瞬間だった。


「っ…」


恐る恐る颯花は目をゆっくりと開けた。

目の前には水色が視界を覆っていた。

その水色、それはにとりの着ている服だ。

というよりも、それ以外にこの部屋に水色はない。

徐々に目線を上へと移動させた。というよりも、

しなければならない。そんな空気が漂っている。


「なっ…なんだよ……」

「…。5日以内に終わったらどうする?」

「どうするって…」

「私を優先に取ってきた食糧を渡す、分かった?」

「えっ流石にそれはちょ」

「異論は?」

「ないです」


即答だった。その彼女の絶対的な気迫に負けた。

怖過ぎる。ヤクザの脅迫よりも怖いんじゃないか?

夢に出るんじゃないかっていうほどの、

ゴミを見るような目とは比較にならない。

もしも胴体があればこんな事はなかったと、

それを言い訳にしても、おそらく胴体があっても、

あれは無理だ、誰だって生きた心地がしないはず。

卑怯なほどの顔を、今後も見る機会があると思うと、

いやいやいや、絶対見たくない。

今度からなるべく怒らせないようにしよう。

そう心に誓わせるほどの顔だった。

にとりはいつの間にか机へ戻っている。

魂が抜けたような顔をしながら、颯花は見ている。


ふと思った。これは奴の策略じゃないか?

いやでも本当に怒っていたのかもしれない。

颯花は疑心暗鬼に陥った。相手の心が読めない。

いつもなら勘でどうにかなっていた。

でも何故か今は勘が働かない。今なら、

ちょっと人見知りの人の気持ちがわかる気がする。

結局、身体が完成するまでその結論は出なかった。


その2時間後、2人はほぼ同時に起き上がった。

何かスイッチでも繋がっているんじゃないか。

そう思うほど、動作時間仕草が一緒だった。


「あれ?もう起きてたの?」

「…あ……ああ…まあな…」

「…どうかしたの?」

「気にしないで欲しいです…ハハハ…諏訪子…さん」

「さん付けだなんて…頭打った?」

「いやいやいや本当気にしないでください、本当に」


駄目だ、しばらくは人を信用出来ないだろう。

敬語を使わなければ相手が怒り、例の顔をまた…

いや絶対見ない。見たくもない。

にとりの顔が見えず、更に不安になっていく。

今もまだあの顔なのだろうか。もうやめてくれよ…。


そのオドオドした態度に不思議に感じるも、

どうせどうでもいいことだろうなと、

そんな風に諏訪子は思っていた。

彼女も腹が空いたのだろう。冷蔵庫へ向かっていく。

それを止めようと思うが、止めたら怒られる。

止めなくても、にとりに怒られる。あの顔で。

諏訪子の手が冷蔵庫に触れた。

にとりがこちらに振り向こうとしている。

あっもう駄目だ、終わった。

完全に魂が抜けたように、颯花は恐怖で気絶した。


「あれっ」

「んー?どうしたの?」


にとりが不思議そうな顔で颯花に振り向いた。

どうやら先ほどのにとりの顔は策略だったらしい。

やり過ぎたかな、そんな顔で颯花を見ている。

それが気になり、諏訪子が聞き出した。


「颯花が埴輪みたいな顔して気絶してる」

「…」

「…」


諏訪子が颯花の顔を見た。何とも言えない顔だった。

2人は時が止まったように動かなくなった。

どうすればいいのか、どう反応すればいいのか。

動けない2人をフォローするかのように、

諏訪子の隣から神奈子があるものを持ってきた。


「写真、撮る?」

「えっ…じゃ、じゃあお願いします」

「はいよ」


その写真は、一生颯花の黒歴史になるだろう。

というよりも、ならない方がおかしい。



「やった……出来たッ!」

「なっ…3日で…」


にとりは完成したらしく喜び、はしゃいでいる。

10日と言っていたのは何だったのだろうか。

そして、ゲスい表情で颯花を見つめている。

ひっ、怯えた声を出す。とても情けない声だった。

そして颯花を両手で掴み、胴体の首へ叩きつける。

痛い、と言おうとしても言えない。まだ怖いからだ。

そして頭にヘルメットのようなものを着け、

これで完成、そうにとりが言った。

そこへ神奈子と諏訪子が歩み寄ってきた。

神奈子がにとりに手をかけて話しかける。


「へぇ、なかなか良い出来じゃないかい」

「あれ、機械に興味があったの?」

「まぁね…これでやっとコレに仕事をさせられると」

「コレって…」

「何か言ったかい?」

「何でもありません」


試運転に歩いたり、物を持ったりしても、

颯花のもともとの身体と大差がないくらい、

完成度が凄まじく、にとり自身も自慢げだった。


「んじゃ、後はヘルメットから通信できるから、

何かあったら言ってね、映像も見えるから」


そう言いつつ、机にノートのような薄いパソコンに、

颯花が見える視界をそのまま映し出している。

にとりの科学力も相当上がっているんだなと、

颯花はしみじみと思った。


「じゃあ…行ってきます」

「手ぶらはナシだよ」

「大丈夫…たぶん」

「たぶん?」

「大丈夫です!問題ないです!行ってきますわ!」


颯花は飛び出す。いつまでもそこに居れば、

精神がもたない。また気絶していたかもしれない。

まあそんな事を考えつつ、暗い小道を進んで、

天井のあの入ってきた扉に手を触れた。

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