巨大な檻の中で
「霊夢、見えるか?あれが」
「…ええ」
霊夢とにとりは上空からその場所を見下ろしている。
その場所は先ほどの兵士達が居た場所だった。
周囲の瓦礫の山と化している風景に似つかず、
そこには物凄い数の人影があったものの、
その無数の人影の中に人間と呼べる者は居なかった。
「一体何なんなのよ…アレって」
「こんな悲惨な状況になってるのに…
あいつら1人も怪我をしていない…何故だ?」
霊夢はその近くの大地に何かが落ちたような、
大きなクレーターが出来ているのを見つけ、
それが市街地を崩壊させた原因だと理解したが、
街を崩壊させたものが直撃したはずなのに、
何故見下ろしている生物が無傷なのか不思議だった。
更には様々な瓦礫の下から這い上がって現れ、
街がその生物に埋め尽くされる勢いだった。
その中に銃を持ったままの兵士の姿の者もいた。
しかしその人物も既に手遅れであった。
「銃声の音がしたが…あれじゃあもう駄目だな…
私は早苗達が心配だ、様子を見てくる」
「分かったわにとり。私は魔理沙達の所へ行くわ」
「分かった、すぐ戻る」
にとりは来た道を引き返し向かって行った。
霊夢はそれと同時に自身も向かう場所へ向かった。
飛んで通り過ぎる街はどこを見ても悲惨だった。
例え崩壊を耐え凌いだとしてもあの生物がいる限り、
普通の人間ならば生き残れるはずもないだろう。
にとりは全速力で先ほどの場所へ戻っていく。
速さが自身の反応速度に合わないほどまで上げ、
そのせいで視界がぼやけた状態になっていた。
そして前方から向かって来たその人物でさえ見えず、
避けれたはずの衝突を免れられなかった。
にとりと目の前の人物は衝撃で互いに後ろに飛んだ。
「いっ……すまない!…早苗じゃないか!
あそこで待ってろと…桐柄は……まさか…!」
「…」
早苗の隣、周囲には桐柄の姿がない。
下を向き、黙り込む彼女のその反応からも、
桐柄の今の状況をにとりは理解出来た。
友人が死んだという相当つらい状態の彼女に、
今は言ってあげれる言葉はにとりにはない。
にとりはこんな所で話している場合ではないと思い、
すぐに基地へと移動した方がいいと彼女に言った。
「ここで立ち止まってる場合じゃない、
みんなと合流した方がいい、その方が安全だ」
「そのみんなが…手遅れだとしたら……」
「…。ないよ」
早苗はそう小さく呟いた。
その可能性はない訳では無い。
もしかしたら既に死んでいる可能性もあった。
けれどにとりにはそんなはずはないと断言した。
確かに今の状況では死んでいない方がおかしい。
けれどそんな事は今までも何度もあった。
それを乗り越えた仲間がそんな簡単に死ぬ筈がない。
それは半ば言い訳にしか過ぎなかった。
本当は死んでいないと思いたい自分の気持ちを、
にとりは早苗に押し付けているだけだった。
「確信はない、けどあいつらなら大丈夫だ。
今までだって…乗り越えていけたんだ」
「その自信は……どこから…」
「本当は自信なんかない、信じているだけだよ」
「…そうですか」
早苗はにとりの横をすれ違うように、
まるで魂の抜けたように基地へ向い始めた。
それに先ほど言った言葉に申し訳なく感じるも、
1人でも大丈夫そうだと思ったにとりは、
自身がまだする事があるということを伝えた。
「…にとり、私にはまだやる事がある…」
「……こんな街に何を?」
「…。人を探している、生死は構わない。
先に基地へ戻っていてくれないか?」
「分かりました。」
そう返事を返した後、彼女は猛スピードで向かった。
先ほどまであまりよく飛べなかったはずなのに、
それが無かったかのように平然と飛んでいた。
彼女の姿はすぐに見えなくなった。
掛けられる言葉さえも言えなかった。
仕方なく、自身のしようとした事を始めた。
「あいつはあの程度なら死なない…はずだ」
広大な瓦礫の街を見下ろして人を探している。
時間もかかり、相当な体力を使っている。
瓦礫の下に埋まっている可能性もあったが、
今は目視でその人物を探していた。
しかし、その人物は不自然なほどすぐに見つかった。
そこは先ほどまで早苗達が居た場所である。
そこには颯花らしき人物と切断された胴体、
そして首を抱えた八雲 紫がその場所に居た。
まともに戦って勝てる相手ではないと分かっていた。
それでも向かう事以外考えられなかった。
その場所に急降下する最中、紫がこちらを見た。
全身に冷や汗をかくも何もしてこなかった。
「お仲間が来たわよ…偽善ちゃん」
「颯花ッ!」
にとりは叫んだ、しかし返事はない。
その場所へ降り、身体を揺さぶろうとした。
しかし、彼女の声が別方向から聞こえた。
そして、同時に揺さぶろうとした身体は消えた。
その声は八雲 紫から聞こえた。
しかし正確には彼女の持つ生首からだった。
「なっ……一体何が…!?」
「なんで戻ってきたッ!にとり!」
そう生首が叫んだ、それをうるさいと感じたのか、
強くその生首の口を紫は両手で塞いだ。
彼女はその生首を見つめ不気味に微笑んでいる。
「騒がしい子ね…」
「くっ……せめてあいつも…!」
「駄目、願い事は1個までよ。
それに……ものを頼む態度じゃないわよ?」
「チッ……」
「あなたと契約したのはあの子の生存、
代わりにあなたの存在を貰ったのよ、私は」
「…」
「じゃあ……あの子と檻の中で生き延びる事ね」
「なっ……!」
その喋る生首は紫が展開した隙間に投げ込まれた。
しばらくの間、その空間は静まったが、
にとりは自分の上から彼女の声が聞こえた。
それに反応して見上げると額に鈍い痛みを感じた。
頭を抱えながら痛がるにとりは紫の方を見るも、
既に彼女の姿はそこには無かった。
「契約だと?どういう事なんだ!」
「…私は桐柄を生かした。それだけだ!
それにしてもなんで戻ってきた…!」
「そんな事どうでもいい!早く移動するぞ!」
「いや……もう出られない」
「…何っ……?」
そういった瞬間、辺りに吹いていた風が止んだ。
空は曇ったように太陽が見えなくなり、
辺りを雨が降り始めるような天気になった。
それと同時に、彼女は閉鎖的な感覚を感じた。
「…この一帯を囲んで……結界が張られたんだ。
封じる為に特化した紫や永琳の結界ではなく、
正真正銘の霊夢タイプの結界だ…」
「霊夢が?なんで!」
「この結界は……あいつのじゃない。
八雲 紫が頼んだ…霊夢の元々存在するはずだった、
そんな集団の人間達のもの…らしい。
この現状を拡大させない為だと嘘をついたんだ。
本当は……中にいる生存者を全部殺す為に…、
そして最大限に傀儡を増やす為だけの手段だ…」
「…そんな…!」
「早くここから逃げるんだ!この中じゃ…
この結界の中にいれば…能力を封じられている」
そう言った瞬間、周囲の瓦礫から傀儡が出現した。
それらは一斉にこちらを見つめ掛け走ってきた。
にとりはそれから逃げる為に飛び上がろうとした。
しかし、身体が1ミリたりとも浮かぶ事はなく、
彼女は飛び上がることが出来なかった。
すぐそこまで傀儡は迫って来ている。
それに成す術もなく、逃げ回る事しか出来なかった。
「戻って来なければ…大丈夫だったのに…!」
「何言ってんだ!お前は大丈夫じゃないだろ!」
「…」
「今は逃げるだけだ、お前と私が生きる為にな…」
「…にとり……」
ただ追ってくる傀儡の団体に宛もなく逃げ続ける。
絶望感が2人を襲うも、それはもう関係ない。
生き延びる為には、逃げるしか無かった。
颯花は胴体がない状態であり何も出来ず、
必死なにとりを見る事だけしか出来なかった。