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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
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無責任でも

だんだん意識が遠のく桐柄に成す術はない。

ただ完全に傀儡化するまで意識があるだけのこと。

後悔や悲しいという感情は当然持っているが、

それは普通の人間が感じるものと同一である。

一般的な感情を持つ人間が彼女と同じ立場となれば、

ほとんど同じ思いをしていただろう。


「うっ…気絶する前に喰われる…のかな……」


まだ意識がある中、先ほどの傀儡が起き上がる。

腕力が無いとはいえ重さのあった瓦礫を

桐柄に思い切り叩きつけられたにも関わらず、

数秒経てばその何事も無かったような動きをする。

その傀儡の異常性が更に桐柄に伝わってきた。

そして正常に戻った傀儡はゆっくり振り向き、

桐柄を先ほどと同じ餌を見るような目で見つめる。

それに怯えるほど桐柄に余裕はない。


「…せめて気を失ってから……お願い…」


桐柄は意味が無いにも関わらずそう言った。

自分でも何を言っているのか分からなかったが、

特に気にするほどの状況でもない。

しかし、その傀儡は突然奇妙な行動を取った。

まるで餌を見るような目で見つめていたその目は、

興味がないようにそっぽを向き、そして歩き出した。

そのまま何かを求めるように彼女から離れていく。

ほぼ傀儡化している桐柄はもう餌じゃない。

何故か悲しいような嬉しいような感情を感じたが、

それでもう彼女の眠りを妨げる者はいない。

再び、桐柄は目を閉じ始めた。

しかし、何か大きな音が付近で響いた。

同時に桐柄は全身に血のようなものを浴びた。

再び眠りを妨げたそれが気になって仕方なくなり、

瓦礫の山に横たわったままゆっくり目を開けた。


「君は…あの時の……」

「…」


目の前に居た人物は左手に細長い剣を持ち、

右手に先ほどの傀儡の頭部を持っている。

それだけでは死なないと相手に教えようとしたが、

頭部を無くした身体は二度と動くこともなく、

やがて粉のような状態となって消えた。


「……死の灰…か」


彼女は確かにそう言った。しかし桐柄には、

その死の灰とやらの存在も使い方も知らない。

ただ自分も殺されたらああなるのかと、

何もこの世に残らない虚しさを感じていた。


「…颯花…ちゃん……そんな目で…。

ギ…なんでそんな…ゴミを見るような……」

「…」


相手は颯花、私をまるでゴミのように見ている。

それが嫌だとか、やめてとか言うつもりはない。

颯花は私を可哀相だと思っているようで、

あーあ、こいつはもう駄目だというような感情も、

持ち合わせているような目で私を見ていた。

それが本当に思っているのかは颯花しか知らない。


「…。お前の人生はそれで終わっていいのか?」

「…早苗を守れたから…それでいいの……。

私はもう死んだようなもの…良かったら…

それで私を……楽にしてほしいな」

「…。まだお前に話すことが私にはある。

お前は…生き残った相手の…友達のその後の、

どんな感情を持っているか…思った事はあるか?」


颯花は傀儡の原型が崩れていく頭部を投げ捨てた。

桐柄は彼女の言った言葉がよく分からない。

早苗が思っている気持ちだと断言して言えないが、

私と同じ感情を持っていた事は間違いない、

彼女も二度と会えない悲しみを感じているはずだ。

本当は彼女は天国など存在しない、消えて無くなる、

ただそれだけ、0になるのが死ぬということ。

一度死に存在の消えた友人と会えるはずもない。


「…深くは考えたことはないけれど…分かる。

私と同じ…二度と会えない…悲しい気持ち…」

「…。半分正解だ。そのまんまだ…。

もう半分は…また会いたいという気持ちだ」


確かにそれも桐柄は思っている。

しかし、会えないものは会えない、不可能だ。

存在のないものにどうやって会えるのか。

また会いたい、そう願っていると同時に、

会えるはずがないと同じくらい否定をしている。


「…」

「難しい事を言っている訳じゃない。ただ…、

私は人に説明するのが苦手なんでね…。

私は一度死んだ。地獄はあるのは確かだ。

天国があるのかどうかは……知らないが…」

「一度死んで君が見たものは地獄…、

でもそれは…もしかしたら幻覚だったかもね…。

なぜなら今そこに、君がいるからね…。」

「…」


彼女はまだゴミを見るような目だった。

桐柄は颯花の思っていることが分からない。

目の前の中学生くらいの子が妙に大人びている、

まるで現実を知らないような夢を見ている子が、

自分の夢を押しつけるように語っている。


「私は勘が鋭い…稀に相手の思っている事さえ、

分かってしまう事もある…その上で話す。

上から目線みたいな物言いですまない…」

「…ふふ…夢を聞くのは…嫌いじゃないよ…」

「…。死ぬのは存在が消えるというのが、

お前の思っている事であっているか?」

「……うん、死んだら何も残らないから…ね」

「…じゃあ、…今そこにいるお前は存在している。

存在しているのに、お前はもう死んでいるのか?」


再び、桐柄は颯花の言っている事が分からない。

既に死んでいるというのが正しいだろう。

こんな状態であり、時間が経てば普通に死ぬ。

それまでは意識のあるだけの死体のようなもの。

見れば分かるような事を彼女は質問している。


「今の私は……ただの死体みたいなものだよ。

何か救える方法が…あるみたいだけど…ギ…

それは夢であって…現実じゃないよ……」

「現実に起こり得ない事が既に幾つか起きている。

私はこの目で色々と見て来た、勿論人の死もだ。

私の身体は呪われている…死神というものにな」

「……死神…」

「君に覚悟があるのなら…私に賭けてくれないか?」

「賭ける……私が…?」


一瞬だけ会話に間が空いた。

なぜこんな状態の私に賭けを求めるのか。

もうこんな私に利用価値はないと思うのに。

桐柄には疑問しか頭の中に入ってこない。

しかし、このまま死んでいくよりも、

他人の為になれるならなってみようと思った。

それは目の前の人物が顔見知りである為に、

そう思っているに過ぎないことでもあったが、

その相手の目は先ほどとまるで変わっていた。

それに桐柄はどこか信念のようなものを感じた。


「…命は賭けるものじゃないよ…でも」

「でも?」

「もしも…また早苗に会えるのなら……会いたい。

このまま死ぬよりもまた会って死にたい…

私が死ぬその時まで…早苗を…護りたい」


そう私が言った瞬間、視界があらぬ方向に向いた。

世界が回ったような感覚が視覚から感じる。

視界に入ったままの颯花の剣が血に染まっている。

どうやら首を斬り落とされたようだ。

痛みは感じる。遠のいた意識が戻ってくるほど。

宙を舞った私は重力に引かれて落ちていく。

しかし、冷たい瓦礫へ落ちる事はなかった。

私は颯花に受け止められた。

両手で抱かれ、胸に触れているにも関わらず、

彼女から心臓の鼓動は全く聞こえない。

彼女の身体は冷たい、それに何故か悲しくなった。

しかし、もう彼女の目は冷酷では無くなった。

まだその目には悲しい気持ちは残っている。

けれど、何か希望を託すように信じた目だった。


「(…死神と契約はよくある物語ではタブーだ。

けどな……強い意志があるのなら問題ない。

手にした力の誘惑に惑わされず…突き進んで…

理想の為には悪魔でも、死神でも利用して……

私みたいに…全てを後悔するよりも…

ひとつでも多く…幸せを……掴み取って…)」


その抱かれた胸に寄り添うように目を閉じた。

次目を覚ませば何が待ち受けているのだろうか。

そこは天国だろうか、地獄だろうか。

そこが絶望でも早苗を護っていける気がする。

私にも、早苗にも強いと呼べるような力はない。

だから私が力を手にして、彼女を最後まで護る。

おせっかいとか言われるかもしれない。

でも、まだまだ彼女に恩は返しきれていない。

全部返すまで私はどこまでも添い遂げる。

後悔なんかしない、幸せは全部掴み取ってみせるよ。



『世界を直すのは人間でなければ出来ない。

私みたいな化け物や鬼には直せない。

それが、自分のせいだとしてもね』


桐柄は人間だ、私とはまるで正反対だ。

彼女にはこんな世界を直せる可能性がある。

私もまだ戦い続けるつもりだ。道程は長いけれど。

この子に全てを背負わせてはいけないから。

彼女はまだ未熟な所もある。けど賭ける価値はある。

私が絶望しか生み出せなかった。けどその正反対、

彼女は希望を生み出してくれるはずだ。

霊夢…魔理沙…早苗、無責任ですまない…

どうか……彼女の支えになってあげてくれ。

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