人ならざる者
「揺れ終わったな……お前らは大丈夫か……? 」
「ああ……何とかな…で、外は」
狭い戦車の内部で6人の人物が風圧と衝撃を耐え、
そのミサイルの落下地点に近いにも関わらず、
大怪我をする事なく彼らは生還した。
戦車がひっくり返りそうになりそうな状況を、
全員が床の方向へ押す事で体勢を立て直した。
そして壊れた扉を蹴り破り、戦車から身を出した。
「……おいおい…こいつは…」
「早く出てくれ、狭い」
「…すまん」
1人ずつ身を出す度に周囲の光景に唖然とし、
全員が出るまでかなり時間がかかった。
やがて戦車から全員出た後にも唖然となった。
その周囲の悲惨な状況に立ち尽くす事しか出来ず、
外に居た人物は全て死んだと誰もが思っていた。
「おい!お前らも大丈夫だったか!」
「2車両目の奴らだ……ああ無事だ!」
その6人の元に同じく6人が歩み寄って来た。
彼らも戦車でその場を凌ぎ生還していたのだった。
他にも何台か戦車はあったものの、
それはまるで鉄板のように潰れていたり、
もうひとつは衝撃に耐えられず爆散していた。
その2台の他に周囲に戦車は見当たらなかった。
「…避難した奴ら……大丈夫だよな…」
「やめてくれよ…俺の女房もいるんだぜ」
「すまん……気になってつい…」
そこでじっとするのは良くないと思い、
とりあえず基地へ彼らは戻ろうと歩き始めた。
ミサイルの落ちた場所は巨大なクレーターが作られ、
その周囲は頑丈なビル以外かなり吹き飛んでいた。
しばらく歩くと、一人の兵士がある事に気づいた。
「おい!生存者がいるぞ!手伝ってくれ!」
瓦礫の底から這い上がるようにひとつ手が伸び、
まるで助けを求めているように動いていた。
それを彼らが助けないはずもなく、
大きな瓦礫をひとつずつ撤去して救い出す。
ある程度瓦礫を取り除いた後その腕を引き上げた。
「良かった…こいつ相当運がいいな」
「ああそうだな……痛ッ……何すんだ!」
その腕を1人の兵士が掴み引き上げた瞬間、
埋まっていた人間が彼の腕に噛みついた。
痛みでそれを引き剥がすも、かなり血が流れた。
人間はまるで根っこのように全身から手足が生え、
まるでひとつひとつ意思があるように動いている。
「……コイツまさか…嘘だろ…俺の…」
「あっ……コイツが代表の言っていた例の…!」
「チッ…確かこうなった奴は殺すしかない…。
どけ!躊躇ってるなら…俺がやる!」
噛まれた兵士が銃を向けるが、何故か撃てず、
銃を持つ手が銃ごと大きくブレている。
その兵士の隣に立ち、人間へ銃を向け撃った。
脳天を撃たれた人間はそのまま倒れ込んだ。
しかし、その人間は撃たれても死なかなかった。
まるで別の人間が操っている人形のようだった。
「どうなってんだコイツ…死なないだと!?」
「う……うわ…!やっぱり俺もッ…!」
銃を撃った兵士の隣にいる先ほど噛まれた兵士から、
同様に手足が生え目の前の傀儡と同類と化した。
しかし、そうなっても彼はまだ意識はあった。
彼へ向けた銃の引き金を引く指が思うように動かず、
兵士は救いようのない彼を撃つのを躊躇っている。
しかし救いようのないのは足掻いても変えられず、
自身を奮い立たせ、向けた銃を強く構える。
「た……頼む…殺してくれ……。
…やっぱり嫌だ…死にたくない……!」
「くっ…俺がお前を救えるのは殺す事しかない。
殺し方が分からん…痛いが…我慢してくれよ…!」
「やめッ…… 」
その兵士の脳天を撃ち抜いたが、動きが止まった。
しかし意識は消えたもののすぐに再び動き出した。
まるで不死身のような彼らに恐怖を感じ、
銃を持っている兵士は後ずさりしか出来なかった。
全員が異常なほどの真っ青な顔をしていた。
「残弾数も僅かなのに…どうしろと!」
「どこでも試して見るしかない!やるぞ!」
もう1人の兵士が銃を構えて傀儡を撃ち抜く。
しかしいくら撃たれても彼らはこちらへ近寄り、
今にも噛み付かれそうな勢いで迫っている。
対処法がなければどうしようもなく、
彼はとりあえず基地まで全速力で走り出した。
瓦礫の山を駆け上がり、最短距離で彼らは目指す。
「ハァハァ…死にたくないなら脚を止めるな!」
「分かってるよ!こう見えても体力には自信が…」
1人の兵士がそういった僅かな瞬間、
地面から腕が生え、彼の脚を掴んで転ばした。
そして複数の傀儡が瓦礫の下から這い上がり、
彼へ慈悲もなく動物のように群がり喰い荒らす。
「あああああああああああああああッ!!!!」
「クソッ振り返るなッ走り続けろッ!」
それを彼らは助ける事も当然出来ず、
弱っていく悲鳴をその兵士の最期まで聞きながら、
ただ彼らは恐怖から背を向けて逃げている。
そしてやっと彼らは瓦礫の山の頂上に着くと、
目の前に異様な光景が広がっていた。
「…俺達も終わったな…」
「まだだ!まだ終わっちゃいない!
こんな状況でも俺は生きてやるぞ!クソッ!」
目の前の山の下は足元を埋め尽くすほど、
無数の傀儡が立ち、全員がこちらを睨みつける。
先ほどよりも凄い冷や汗と焦りが彼らを混乱させ、
まともな考えをさせる事を妨害した。
銃の残弾数が絶望的な状況にもかかわらず、
彼らは傀儡へ喰われまいと抗い続けた。
「銃声が聞こえた…?霊夢ッ!」
「ええ…聞こえたわ、行くわよ…!」
「私も行けます!置いていかないで下さい!」
「あんたはここで待ってなさい!桐柄も頼むわ!」
「えっ…ちょっと!?」
霊夢達は遠くから響いた銃声に気がつき、
一体何が起きているのか原因を探しに行った。
流石に無理に動けばはぐれると思った早苗は、
仕方なく桐柄を降ろしてその場に待ち続けた。
辺りには銃声が響くもののそれ以外の音はない。
「はぁ…流石に置いていかなくても…」
そう早苗は独り言を言うも、桐柄は返事をしない。
呼吸はしているものの、眠っているのだろうか、
いくら揺すったりしても起きなかった。
全身に巻かれている包帯がとても痛々しく、
無理に動かせば痛いだろうなと思った早苗は、
彼女を目覚めさせようとするのを止めた。
「…動いた…?誰かそこにいるの!?」
早苗が座ったすぐ目の前の瓦礫が盛り上がり、
下に誰かが生存している事を目視で確認出来た。
しかし瓦礫は相当な重量があり退かせられず、
彼女は目の前の生存者を助けられなかった。
それでも諦められず何か方法を考えた。
「…何か方法は…私の霊力じゃ吹き飛ばせない…」
しかし方法を考えている途中である事に着目した。
あの衝撃と強風の中で外の人間は生きられるのか?
早苗が踏ん張ってやっと頑丈な扉が閉まり続けられ、
何もかも吹き飛ばしていた風圧を耐え凌ぎ、
とても重い大きな瓦礫に上から押し潰されてなお、
ただの普通の人間が無事に生存出来るのか。
早苗は目の前の状況に不思議と恐怖を感じた。
人間じゃない。彼女はそう思った。
不意に早苗は桐柄が心配になり彼女の方を見た。
「…」
「りえ……まだ眠っているのね」
彼女はまだ眠っている。連れて逃げなければ。
桐柄に近付いたその時、何かが崩れる音がした。
その方向は、先ほどの大きな瓦礫があった。
ゆっくりと首を動かし、恐る恐る早苗は振り向いた。
しかし、目の前から何かが早苗へ飛び掛って、
早苗はその何かによって体勢を崩した。
「…きゃっ!」
その何かはすぐさま早苗に蹴り飛ばされ、
瓦礫に突っ込むように大きく後ろへ転んでいった。
しかしそれはすぐに這い蹲りながら歩み寄り、
その無数の手足をムカデのように動かし、
空腹なのか涎を撒き散らしながら口を動かしている。
もうそれは人間ではなくなっていた。
「(やば……脚が動かない…逃げないと…!)」
彼女は逃げようとするも身体が動かない。
目の前の恐怖に身体が屈しているのだろうか、
指すら動かせず、全身が震えている。
桐柄を起こそうと呼び掛けようと努力するも、
口もまともに動かせず全身が冷や汗をかいている。
このままでは私も桐柄も死んでしまう。
彼女だけは助けたいと思っているものの、
何も出来ない早苗は自身の無力さを痛感する。
その傀儡は一気に早苗へ飛び掛った。
早苗はそれでも動けず、何も出来ないままだった。
「…(…嫌……来ないで…!)」