時間切れ
「綺麗事…それしか言えないからくり人形…。
意味が伝わらければ…相手は間違った認識をする。
それで……何もかも無くしたというのに。
あなたの事…手頃な駒だと思っていたけれど、
私が誤解していただけなのね…分かったわ。
ただやかましいだけ…何の取り柄もない」
「…」
八雲 紫は突然その雨のような攻撃を止めた。
もちろん颯花はそれで終わりだと思っていない。
次が来る、どんな攻撃が来るのか分からない。
今突撃すれば容易に蜂の巣にされる。
そう思ってしまってからは脚が進まなくなった。
勘が鋭い為に思った事が当然の出来事になる、
そう思ってしまい、怖気づいているかもしれない。
彼女はただその場で脚を止め、相手を睨む。
「あなたを踊らせて楽しむのも良かったわ。
けれど…もう終わりにしましょう」
「ッ…!」
瞬間、突然足場にしていたミサイルに穴が空き、
そこへ颯花の片脚が飲み込まれた瞬間、
その穴は口を塞ぐように閉じ、片脚を切断した。
脚を飲み込んだそれは八雲 紫の隙間であった。
彼女が当たり前のように無数に展開していたものは、
人体をたやすく切断できる程の力があった。
隙間はそこから姿を消し、脚もろとも消えた。
ただそこに残った結果は、脚から血が流れ続け、
それによって颯花はとてつもない痛みを感じている。
強風の中で片脚だけでは流石に立てず、
血に染まる足場に彼女は倒れ込む。
「…トドメを刺しに来たか…くっ……」
「私は誰だって殺すと思えば殺すのよ…。
けど、殺すより苦しませる方が好きなだけ。
どう?手加減されてるのに勝てる気すらない。
そんな状況、苦しい?死にたくない?」
「まだだ…片脚程度で怯む私じゃない!」
「…」
颯花は模倣能力を再びレミリアとフランへ変え、
併せ持った飛行能力で紫へ深く考えず、突撃する。
それでは駄目だと彼女は分かっていながらも、
半ば諦めているが、それでも彼女にも意地がある。
腕や脚が切られるのは既に慣れている。
そう言い聞かせて恐怖と絶望を吹き飛ばし、
ただ無謀に真正面から突き進む。
それと同時に理性も吹き飛んでしまったのか、
彼女の中には相手を1発殴れればいい、
勝てなくとも何か成せれるのならいいと、
勝ち目のない戦いなりの考え方をしていた。
「勝てなくったっていいんだ…!
お前は私よりも強い霊夢達に倒されるだけ…
どうせ負けるなら…全力を尽くすだけだ…!」
「馬鹿な子ね…素直に従えばいいのに…
ひとつだけ、私本人の技を見せてあげるわ。
私を閉じ込めた…愚かな人形のコピーじゃなく、
本人が使う完全オリジナルのね……!!」
飛び上がり突き進む颯花を取り囲むように、
紫は隙間を展開、そこから高速飛行物体を撃ち出す。
隙間から隙間へ移動し、通った道にあるものを、
全て貫き、高速で空間を通り過ぎていく。
その謎の物体は速過ぎて形すら認識出来ず、
ただ颯花の身体を削り、文字通り蜂の巣にした。
全身に穴を空け、翼のひし形の結晶を撃ち砕き、
そして飛行能力を失い、彼女はミサイルへ落ちた。
これはほんの数秒の出来事であった。
颯花が最初に攻撃を被弾し痛いと感じてから、
最後に痛いと感じた時まで完全に一瞬だった。
何が起きたのか分からないまま倒れ込んでいる。
「空餌『中毒性のあるエサ』って名前よ。
本人が使う技は慣れてるから威力も上がる。
私よりもあなたの方が、それを分かっている筈よ」
「ふっ……打つ手なし…か。けどな……、
このままじゃあ…私は気が済まないんでねぇ…」
「時を止めても無駄よ…。
……?目が…あなた、一体何を……」
颯花は自身の限りある気力を振り絞り、
模倣能力をルーミアへ変化、紫の視界を潰す。
彼女は次に右腕の機械を露出し真下に叩きつけた。
するとその風圧の力で颯花は高く浮き上がり、
すぐに紫の目の前にまで辿り着く事が出来た。
紫の目の前に落ちた為に、音で居場所を知られ、
紫の隣の隙間から爆音と共に銃弾が放たれる。
それを分かっているかのように、両手を前に掲げ、
そして左腕の機械も露出させ銃弾から身を守った。
「防いだ…?何も見えないわね……」
「…(流石に察知されるか……ならこれで…!)」
「ッ…!」
紫は見えないまま、何かで身体を撃ち抜かれた。
しかし、彼女はそれをすぐに理解した。
自分の放った弾丸が颯花に何らかの手で跳ね返され、
それを相手が攻撃に転用していると察知した。
銃弾が身体を貫く衝撃と自分の意志で銃撃を止め、
次にどのような手で攻撃が来るのかを待った。
痛みもなく恐怖さえもない彼女は、
見えない相手の行動を楽しさを感じていた。
「ふふふ……来なさい…………!」
「そこだぁああああああああああッ!!!!!」
颯花は飛び上がり、真正面から殴りかかった。
左手を前に当て狙いを定め、それは紫の顔面、
ただその一点に狙いをつけ、拳を叩きつける。
しかし、その攻撃は紫が持っていた扇を、
そっと風圧に押し当てただけで勢いを止めた。
銃弾をも弾く風圧を、そよ風のように受け流し、
恐怖すら感じていない彼女の目は、
見えないはずの颯花の瞳を真っ直ぐ見つめていた。
「見えなくても分かるわ……あなたの殺気が」
「……まだだ……私の力はこんなもんじゃない…
全力を……私の全力を……この一撃にッ……!!」
「っ………?」
颯花が両腕の機械を合わせ、扇に押し当てた。
それが持ち主に反応するかのように、
風圧はいつもの弾き飛ばすだけの風圧ではなくなり、
どんどん風圧は強くなり、轟音を轟かせている。
颯花にも何が起きているのかは分からない。
ただ彼女は魔理沙のように道具に応じるだけだ。
颯花は自分の体の一部でもあるその機械を信じ、
機械の全力を自身の全力で答えた。
「…なるほど…まだそんな手があったのね…。
最後の最後に発現した力…面白いわね……」
「この…まま……砕け散ろぉおおおおおお!!!」
その機械が生み出す力は、もはや空間を削るほど、
光も通さない、真っ黒な空間を作り出した。
例えて言うなら小さなブラックホール。
その領域に侵入したものを全て粉々に砕き、
やがて存在そのものを消え去ってしまう。
光も通さないその空間は不気味に黒い渦を巻く。
今まで全てを弾いた空間が、逆に取り込んでいる。
存在を打ち返すものが、存在をかき消している。
そしてその暗黒の空間は扇を飲み込み、砕き、
存在をなかったかのように消し飛ばし突き進む。
「(この力…底知れない力…漆黒そして暗黒…。
自分が飲み込まれそうな…欲望のありのまま…
禍々しい黒色…でも…それが私の力なら信じる…!)」
颯花はこの力、自分の力を恐怖すら感じている。
何もかも飲み込む力に自分が飲み込まれてしまう。
そんな思い込みをしつつも、今はどうでもいい。
この力を使って、一矢報いる事が出来るのなら。
いつか言葉通りなっても、誰かが止めてくれる。
このミサイルもきっと誰かが食い止める。
自分以外の誰かがやってくれると他人任せながら、
それを最後まで信じ通し、自分の意志を貫く。
「…そこまで意地があったのは褒めてあげるわ…」
「ふっ……このまま食らって…消し飛びなッ!!」
「けどね……時間切れよ、のんびり屋さん」
「なっ何…!?」
颯花は視界をとてつもない輝きで包まれた。
直後にミサイルは何かに衝突し、大きく揺れた後、
何もかも吹き飛ばすような風圧を生み出した。
颯花は吹き飛ばされ、宙に舞った後、
何が起きたのか分かったと同時に気絶した。