仮で偽な存在でも
「お前は…一体何をする気だ……!」
「決まってるじゃない…これを利用するのよ。
この国に落として…壊滅状態にさせるのよ」
「なんだと…ッ……何だ…?」
ミサイルは直後に大きく揺れ出した。
その揺れはまともに立てなくなるほど激しく、
颯花は事が過ぎるまで膝をついて凌いでいる。
彼女はその今の状況をすぐさま理解した。
弾頭部分と後方の噴射口が綺麗に切断されていて、
颯花達の足場になっている弾頭が落下している。
このまま地面に衝突すれば爆発し、その輝きが、
周辺の人々を傀儡化させてしまうだろう。
光に惑わされ欲に飲まれた人間が人間を食い殺し、
喰われた人間は再び動き始め同族と化す。
事が始まればもはや止められる代物ではない。
「これで無意味に人が死んでいく…ふふ…
こんな意味もない世界で苦しみながら…!
さぁ…悲しみと絶望の連鎖の…幕開けよ…!」
「チッ……こんな所に落とすだと…だが、
そんな無意味な事……絶対にさせるか…!」
斜めになった足場に2人が陣取っている。
颯花が背にする先端側から強風が吹いている。
揺れは徐々に弱まり、足場が安定したことで、
颯花はやっとのこと立ち上がれるようになる。
その背中から吹く風は相当なものであるはずだが、
目の前にいる紫は体勢を崩すこともなく、
そよ風を受けるように平然と立っている。
絶望的な状況で颯花が見た八雲 紫の姿は、
神々しく敵わないような、まるで神のように、
絶対的な存在であるかのように見えてしまう。
「この高度なら10分もしない内に落ちるわ…。
そんな短い時間で、何かを成せれる筈がない」
「やれる事はやる…わたしは…それしか出来ない」
「出来る訳ないでしょう?私相手に、あなたが」
「か………何…だ…また揺れた……?」
「八意 永琳…余計な事を……」
足場のミサイルは再び大きく揺れ始めた。
そして、ミサイルの先端付近から煙が出ている。
地上から何者かが砲撃しているらしい。
命中した反動で少しずつ落下速度を抑えて、
地上に落ちた時の衝撃を弱めるように、
ミサイルを破壊しない威力で攻撃している。
しかし、その砲撃は何発か放たれた後、
発射音さえも鳴り止んでしまった。
地上さえもまともな状況ではないと思われる。
「…神にでもなったつもりか?まだ分からない」
「神なんて空想上の存在なんて馬鹿馬鹿しいわ。
もう私に失うものなんて存在しない。
こんな存在意義のない世界は…壊すだけよ」
「自分の意志だけで世界を壊す……か。
お前の過去を可哀想だと思う気持ちはある…が、
今のお前に可哀想だと思う気持ちはない…。
今ここで、わたしが…お前を止めるだけだ。
そんな…腐った理想を…止めない訳にはいかない」
「腐っているのはこの世界なのよ…。
藍達が死んだこの世界は…必要性もなにもない…」
紫が自身の左右に隙間を2つ展開すると、
そこから何故か颯花の刺剣が撃ち放たれた。
その2つの刺剣が颯花の目の前の足場に刺さり、
まるで紫がやってみろと言っているようだった。
無論、それを拒む事なく手に取った。
「その限界の状態でどこまで楽しませてくれるか…
とっても…楽しみだわ……ふふふ…」
「…」
「あなたももう、分かっているでしょう?
この世界が変わらなければ、自滅することを」
「だからって…お前なんかに壊されてたまるか…。
わたし達はここに居る。今を生きる理由がある。
それを訳の分からないあんたの理屈で…!
それだけの為に……殺されてたまるかぁーッ!!」
颯花は模倣能力をレミリアとフランへ変化、
そして自身の吸血鬼の力を解放し、
個人的での最強の接近能力を誇る状態となる。
そして2つの剣に紫と紅の輝きを纏わせ、
切れ味と丈夫さを最大にまで強化する。
当然ながら身体が既にボロボロである為に、
いつも通りの戦い方でも相当な負荷があった。
しかし、彼女はそれを軽視し戦い始める。
「そんないきなり全力を出して…、
最後まで持たないわよ…ましては私に勝てない。
下らない英雄ゴッコを…いつまでする気なの?」
「英雄になったつもりなんかない…。
そして、お前の下らない欲望のおままごとに…
いつまでも付き合う義理はない…!」
「ふふふ…下らない…?そうでしょうとも。
存在自体が紛い物の人形には理解できないわ…。
総てのものを支配するこの喜びは、
この私……人にしか分からないものなのよ」
「…」
紫の周囲に展開された多くの隙間から、
いつものように標識棒が無数に撃ち放たれる。
それをたった2つのとても脆い牙を振り回し、
目の前の自分よりも大きな存在へ立ち向かう。
このままでは勝ち目は無いと分かってはいるが、
それでも一歩も引かず、前に踏み込んでいく。
「人は欲を持ち…満たし…欲を持って生きている。
これは支配欲とでも言おうかしら…
総てのものを意のままに動かす快感…
これだけは、人様の頭脳がなければ味わえない。
究極の快楽よ…所詮人形には分かるはずない!」
そんな傲慢な態度の紫に対し、無意識ながらも、
「まともな人にも…理解できるとは思えない」
と颯花はスッパリ切り捨てているが、
目の前の攻撃を凌ぐことで精一杯の彼女は、
今自分が言ったことさえもすぐに忘れた。
紫はただ質量でものを言うように続けている。
すぐにいつもの結界で囲めばこの戦闘は終わるが、
それをしないという事は、紫は彼女で遊んでいる、
失うものがない彼女は余裕で死の恐怖もなく、
目の前の必死こいている生物を哀れみている。
「本当に勿体ない…その模倣できる能力、
なんであなたみたいな奴にそんな力が…
上手く扱えないあなたが手に入れたのかしら」
「…この力が欲しかった訳じゃない…。
ましては人殺しを出来る力なんて要らない…。
私が求めたのは……大切なみんなを護れる力…!
私には…大切な友人である咲夜が死ぬ時…、
まともに話して別れられなかった…。だから、
こんな思い…これ以上誰にもさせられないんだ!」
振り回していた刺剣は遂に折れ曲がり、
使い物にならなくなり、捨てざるを得なかった。
しかし、それで諦めるような彼女ではない。
それは霊夢でも、魔理沙でも同じであっただろう。
どんなに傷つこうとも、決して諦めない。
信じた仲間の為に、信じてくれるように戦う。
それを颯花が憧れ、無意識ながら模倣している。
模倣とはだだのコピー、ただの偽物に過ぎない。
けれど偽物でも、その想いだけは本物だった。
「…やっぱり英雄ゴッコじゃない…。
そんなもの……無意味なのよ…意味なんてない!」
「意味は……探して…感じて見つけるものッ!
意味のないものはない…分からないだけ…。
理解しようとしないから…あなたには分からない!」
颯花は模倣能力2つを霊夢へ変化させ、
撃ち放った霊符で迫り来るそれらを封殺する。
それで発生した広範囲を包む爆風の中を、
瞬時に颯花は模倣能力を魔理沙へ変え、
そして箒に跨り、全速力で真っ直ぐ突っ切る。
「分からないものは…分からないわ…!
そんな無駄な事を理解してどうなるっていうの!」
隙間からの質量の弾幕の第二波が迫り来る。
颯花は箒を降り、模倣能力をパチュリーへ変化、
自身の周囲に複数の小さな魔法陣を展開し、
そこから細い閃光を数本撃ち、それらを迎撃する。
「何でもかんでも…意味に物事を求めるな!
結果だけで物事が決まるのは分かっている…!
それでも…結果だけが全てじゃないんだ!
想いも理想も意志も信念も…!
人の本当のいい所はそこだけじゃない…!
わたしは…それを見つけるまで戦い続けるッ!」