2人の主人公と吸血鬼達/吸血鬼の妹:1
「私は別に構わないけど、
1対2は私的につまらないわね…」
「こっちの勝率が上がってるんだ。
お前はさっさと膝まついて負けな!」
「…なら、ゲストを紹介しましょうか」
「……ゲストだと?」
「…来なさい…フラン」
颯花は同時に物凄い冷や汗が全身から流れ出た。
彼女は姉と妹が居るはずなのに、
周囲を見回しても何処にも妹が居なかった。
「…まさか…お前…………!!」
レミリアの後ろからもう一人の吸血鬼が歩む。
少女はフランドール・スカーレット。
彼女の全身は傷だらけで、首と手首足首に、
謎の機械が着けられている。
どうやらやけに付近が血の匂いが強いのか、
やっと理由が分かった。
それは姉妹であるはずのフランを、
自分の都合で暴力を振るっていた。
何故そうしているのか分からなかったが、
恐らく血を飲み凶暴化しているせいである。
「お前……その子は妹なんだろ!?
妹にそんなこと出来るのかよ!
そんな奴にまで堕ちてしまったのか!」
「魔理沙…」
「使える駒は使うわ、それが血の繋がりを、
強く持っていたとしてもね。
利用できる駒を利用しないなんて馬鹿でしょう?
この子は私に従う以外、価値なんてないの、
それがこの子の、生きる定めよ」
隣に立つフランの腰を後ろから拳で殴り、
大きな音を立て彼女を痛みで膝まつかせる。
しかし、機械のせいなのか、
意思に反して身体が動いてしまうらしく、
無理やりのように震えつつ立ち上がる。
それを目の前で見せつけられても、
魔理沙はある程度は耐えきれた。
しかし、颯花はその現実に耐えきれなかった。
「…ァ…」
「ん?」
今までの彼女の冷静さが無くなる。
怒りで両腕が震え、彼女の全身に力が入る。
魔理沙が止めようとした手を無理に振り解き叫ぶ。
「レェエエエエミリァアアアアアアアッ!!!」
「へぇ…威勢だけは大したものね」
颯花はその床を強く踏みつけ、駆け走った。
その目の前の憎む相手、レミリアへ駆け走る。
彼女は殺す気まで考えてしまうほどに、
憎しみが増大していった。
そして距離は近付き、
高く飛び上がり殴りかかった。その時、
「ッ……馬鹿な………!」
颯花を止めたのはレミリアでは無かった。
泣いていたフランの拳が腹部に命中する。
当然ながら、彼女の意思で動いた訳ではなかった。
その僅かなすれ違う直後、彼女が小声で話した。
「私は…操られているの……けど……!
私は別に……どうなってもいい…!
どうなってもいいからお姉様を救って……!」
「…!」
そしてその殴られた勢いで颯花が後方へ吹き飛ぶ。
魔理沙の横を通り抜け後方の壁へ衝突し、
その壁にヒビが入るほどの衝撃だった。
その吸血鬼の力に魔理沙はしばらく呆然としていた。
「あっ……颯花ァ……!」
状況に遅れつつも魔理沙が駆け寄る。
崩れつつある瓦礫を退かしていき、
生死を確かめる為に彼女は問いかけた。
「おい…しっかりしろ!」
颯花の頬に魔理沙は手を添える。
それに意識を取り戻し、颯花がその手を取り、
フランに託されたこと言わずに、彼女に言った。
「…もし……どんな事になっても、
フランだけは……助けてあげてくれ…!
出来れば2人共だ……けど贅沢には言わない…」
「そんなこと……言うな…!
私は2人とも救ってみせる!だから、
私に任せて少し休んでいてくれ……」
「…本物の吸血鬼は今みたいに…
力が異常に強い…どうか…気をつけて……!」
「…ああ……!」
魔理沙が素早く立ち上がった。
そして、1歩ずつ強く踏み歩き、少女達に寄る。
その顔は怒っているようで、
どこか救い出そうとする信念を感じられる。
「あらあら、1人になってしまったわね。
フラン。相手してあげなさい」
「…」
「絶対助ける…救ってやるからな…!」
戦闘が始まる、その時だった。
後ろの扉を何故か強く蹴り飛ばして、
入場してくる人物がいた。
その人物は、赤と白の巫女服を着ている。
「魔理沙と賽銭箱の破壊神さん。
2人だけに……いい思いはさせないわよ…!」
「霊夢……!!」
「…ってちょっと貴方!大丈夫なの!?」
「……私はどうだっていいんだ…!
だから彼女達を救ってやってくれ……!」
先ほど魔理沙へ託したその瞳を失うことはなく、
全く同じ目で霊夢を見つめている。
それに言葉では表せない何かを感じた霊夢であった。
「貴方…」
「私の名前は…ゼィル……いや、
桐初 颯花……!」
「……分かった、後は任せて」
霊夢がレミリアへ歩み寄っていく。
そして立ち止まり、レミリアを見つめている。
高所から見下ろすレミリアを、
下から見ている霊夢が睨みつけている。
「あら?やっと本命ね」
「私がいる以上、これ以上この幻想郷で…!
好き勝手……やらせはしないわ!」
「そう…?なら、殺せば好き勝手させてくれるのね」
「物騒な事を…いともたやすく平然と…!」
「場所を変えましょう。
着いて来なさい。幻想郷のラスボスさん」
「…。分かったわ」
2人はその広間から場所を移動した。
そしてこの空間には、魔理沙とフランが対峙し、
それを動けない状態のまま見守る颯花。
彼女は自分の無力さを痛感する。
「とりあえず、あの機械を壊せばいいんだな」
「…」
「今助けてやるぜ!待ってな!」
フランの片手は魔理沙へと向いた。
その手の平から眩い閃光が放たれる。
魔理沙はそれを咄嗟に右に避けた。
「魔理沙…ッ!!?」
しかし、フランの持つ杖から発生した、
巨大なビームの剣が、魔理沙の腹部を切り裂き、
魔理沙の身体を容易く真っ二つにした。
「あっ…ぁぁ……ぁ…私は……!」
魔理沙の死体を確認したその身体の機械は、
レミリアの所へ向かわせようとする。
体が勝手に動く為にフランは、
ろくに彼女の生死を確認出来ないままであった。
しかし、魔理沙の魔理沙は言った。
「言ったろ!助けるって!」
「なっ…喋った……!?」
2つの魔理沙は叫ぶ。血を出さず、
ブツブツ、カタカタと機械のように動いている。
それはどう見ても偽物であると確信した。
そして魔理沙はフランの後ろにいた。
「(特製魔理ちゃん人形だぜ!)」
バレないようにそっと近づいていく。
そしてある程度近付き、自分の道具を取り出す。
「(ちょっとスタイルあいつと被るけど、
ロープの先端に鉄球をくくりつけた、
中距離攻撃用兵器!名前はない!
こいつでまず首の機械を破壊する!)」
魔理沙は迷わず思い切り投げる。
頭部へ直撃しないように上手く操作した。
しかし、気付いていたのか機械は彼女を、
振り替えりさせ鉄球を殴って壊した。
「本命は……こっちだ!」
ロープが意思のあるように操作され、
フランの腕に巻き付く。
魔理沙はちぎられる前に瞬時に、
自分の方へ近寄せるように引っ張った。
それを拒むかのように、機械はフランを操り、
彼女の杖から様々な種類の閃光が放たれた。
魔理沙は腕に被弾し掠りつつも気にせずに、
両手を前に突き出し人差し指で相手を指さした。
それと同時に、周囲に星型のエネルギー体が発生。
流星のようなそれらはとても攻撃技と思えないほど、
鮮やかに黄色に輝きつつ突撃していった。
しかし、機械が操り先程使ったビーム状の剣が、
一振りで流星群の全てを消し去った。
「チッ……隙が無いな」