白く輝く悪魔の絶望
「人が居ない……妙だな」
颯花はそのまま入口へと歩き、
日向から日陰に入った事で体が楽になった。
しかし基地の内部に彼女は侵入したものの、
誰1人として人の気配は感じられない。
それは彼女にとって好都合であったものの、
内部の構造が複雑で、広大な広さがある為に、
関係者を脅して聞こうと考えていた彼女は、
手間が更にかかると残念に思っていた。
「こういう物は……とにかく下へ降りる…か。
こんな所で能力を使うのは…惜しいが仕方ない…」
階段がある場所にとりあえず進むと、
そこの上に登る階段の隣りに扉があった。
下へ降りるという事は確かではないものの、
とても重い鎖や頑丈な扉で固く閉ざされていた。
雰囲気だけで何か不味そうな扉だった。
颯花は取り戻した自身の吸血鬼の力を使い、
そして姉妹両方の力を片方ずつ模倣させた。
今この状況が彼女の中での最大の攻撃力を誇る。
そして、その扉に試しに1度軽く殴ってみるも、
いともたやすく破壊してしまった。
「…これなら模倣無しで大丈夫だったな…」
その土煙が引いた後に扉の向こう側を視認した。
向こう側はやけに人が通っていないと思うほど、
ホコリや汚れが壁やら床やらに溜まっていた。
颯花は口元を抑えて、右手の拳を掲げ上げた。
そして、真下の地面へと叩きつけた。
それで生まれた風圧がホコリを全て吹き飛ばし、
やっとまともに通れるようになった。
「手間がかかるな…やっとこれで進め…」
しかし、その叩きつけた場所は亀裂を生み出し、
そして大きな穴が空き、颯花を下へ落下させた。
その階段の階までとは全く違う場所に着いた。
ホコリやら溜まっていたのはフェイクだろう。
その下の階は地上と変わらず綺麗だった。
彼女はその崩れた瓦礫の上に立った。
進める道は真っ直ぐしか見当たらず、
とりあえずそこを進んでみようと考えた。
「…ここも人の気配がない…。
なんだ…?なぜ誰もいない……。
これでは入って下さいと…言っている様なものだ」
そのひとつの道を進んでいくも、
横を通り過ぎる扉すらなく、ただ真っ直ぐ、
小綺麗な道が奥まで続いている。
その道の最終地点に着き、扉を開けた。
そこには打ち上げる為の管制塔も何もなく、
ただ筒場に縦長く広い場所の中央に、
探していたミサイルを確認出来た。
そのミサイルには中に入れる扉があり、
そこまで手すりのない板状の道が続いていた。
「…ミサイルの中に……何かがいる」
颯花は先ほどから戦闘に対応できるように、
模倣能力と自身の力をその状態のままにしていた。
左手に刺剣を取り出して前に構え、
少しずつその扉までゆっくり歩み寄った。
1歩ずつ進む度にこの雑な造りの道が揺れ、
颯花にとってとても歩きづらい状況だった。
飛べなくもないが、とりあえず到着した。
そのまま音を立てずに扉をゆっくり開けると、
目の前の筒状の一室の中央にひとつ、
何かが液体と一緒に入っているものの、
よく分からないものが置いてあった。
ガラス張りで中の状況はある程度遠くで分かるも、
その容器を言葉で説明する事は難しかった。
強いて言えば棺桶だろうか、その中の、
何かおぞましく暴れる物体を封じ込めている。
「こ……これは何だ……何なんだ……! 」
その中で暴れる物体は、黒髪で小綺麗な少女、
しかし、その彼女の全身からは手足等が、
まるでタコのように生えている。
その人として普通にある腕もない腕も、
そこから出ようとガラスを叩いている。
「そいつ…いやそれは、蓬莱山 輝夜だ。
どうだ……とても見ていられないだろう?」
「…妹紅か。この手足は一体……?」
「原理は分からない…初めは意識があった。
本人は謎の光を浴びたらこうなってしまった。
どうせ永琳の嫌がらせだ…そう甘く見ていた」
「…」
2人の妹紅が交互に颯花に真実を明かす。
敵意はないと思えた颯花は手に持つ刺剣をしまう。
そのガラスに手をつき、じっとそれを見つめる。
正気がないほどひたすらそこから出ようとしている。
「今お前が見ている通り、それはもうまるで傀儡。
生えてきた手足に栄養を奪われ食欲を欲する。
そして限界が来れば…他人を無意識に喰い殺す」
「…」
「これが中に入っているのは、
彼女を一度燃やした時に僅かに光を発した。
僅か過ぎて私が同じ目に遭うことは無かったが、
それをミサイルの中に入れることで、
目標地点の周囲の不特定多数の人間に、
同じ目を合わせる事が出来るという訳だ」
そんな残酷なやり方をあの永琳が思いついたのか、
疑問に思ってはいるが、颯花には分からない。
それだけ憎悪が彼女を壊してしまっているのか。
「…まるでバイオテロ…生かさず殺さず……
人間達に永遠の苦しみを…与えてやると…?」
「それほど…八意 永琳の憎悪は深いのさ…
それを外に出さず…心配させないように…」
「それが…八意 永琳の理想なのか……?」
颯花が理想という言葉を口にすると、
それがおかしいと思っているように笑い始めた。
「理想…?戯れ言だな。私達はお前以上に……
この世界に絶望を感じているのさ……」
「私だって大切な人を…失っている……
お前は…まだ大切な人を失った訳ではないはず…」
「生きているなら私に姿を見せているさ…!
やはり…あの人は前の事件で死んだ……
死体が無いのは確かだ…しかしもう死んだんだ。
私はこの世界に悔いはない…もしも、
お前が…この憎しみを止めようとするのなら…
もしそうならば……お前を殺すだけだ…」
しかし、彼女はそれを止めようとはしなかった。
むしろ、撃ってくれとも受け取れるような、
そんな言葉を颯花は言い放ち2人に返答する。
「もうこれは助からない…なら最後だけは…
生まれた意味を…持たせてあげな…それがいい」
「意外だな…止めないのなら、ここから消えろ。
あと数分後にこれは打ち上がる…。
これは私達2人だけの意志だ。邪魔をするな」
「…」
颯花が扉を開け、外へ出ていくと、
二人は躊躇いなく、中央のそれを囲むように、
二つの棺桶の中に自ら入っていった。
そして彼女達が自らの体を燃やし炎を発すると、
それと同時にミサイルがその場所を飛び立とうと、
最後尾から炎が吹き出た。そして天井が開く。
「…これでいいの?あなたは…!?」
「…なんだと…?お前は見てればいいんだ。
出しゃばるな……私の中に優しさは要らない」
「でも…生まれた意味のない人なんていない…
死んでいい人間なんていないのよっ!!」
「流石綺麗事を言うだけの私だけはある。
口だけは達者……それがお前の今までの答えか。
戦って死んで…殺して生きてきた私の答え…
違う……優しさだけでは人は変われない…!」
「なっ…!?」
その1人で話す颯花は突然奇妙な現象に襲われた。
彼女からもう一人の自分が飛び出してきた。
飛び出された訳ではなく、拒絶した意志により、
自身の優しさの部分が弾き飛ばされた。
弾き出された方は混乱するももう一人は動じない。
「…分裂したせいで模倣能力が半分ずつに…
だが…それだけなら問題ない……
綺麗事を言う部分が抜ければ…どんなに楽か」
「私は…私なりの正義を貫くしかないの…!
今までしてきたことが…間違いなんかじゃない…
そう……いつか思える時が来るまで……!」
そう彼女は言った瞬間能力をレミリアへ変化させ、
飛び上がったミサイルを1人で追いかけた。
弾き出された方には吸血鬼の力が残ってないと、
本体らしくその鋭い勘で感じ取り、
自身に残っている吸血鬼の力を掛け合わせ、
模倣能力を相手と同じにして彼女を追いかける。
「あの奴…無理矢理弾道を変える気か…!」
その弾かれた方はミサイルを横から押し、
無理矢理気味に軌道を逸らしている。
それを辞めさせようと本体が後ろから頭を掴み、
ミサイルの外壁に叩きつけ、引きずった。
上へ上へ彼女を持っていき、
そしてミサイルを床にする状況になった。
その前方から迫る風圧を脚だけで耐え、
目の前の本体と睨み合っている。
「…その無謀さだけは私らしいな…」
「世界には確かに…光が必要…でも…けど…!
光は光でも…絶望を与えてはいけないのッ!!」