空飛ぶのは希望か絶望か
「今まで…演技だったらしいけど…
次、本気じゃなかったら死んじゃうよ…!」
「…さぁ、どうかしらね…」
チルノは自身の歩み寄る脚を止め、
紫と再び睨むように見つめ合っている。
再びチルノは手に氷の剣は生み出され、
彼女はそれを強く握り締めている。
その剣は先程よりも少し大きさが増していた。
「でも…そろそろ終わりにしないと…
あなたに殺されるよりも…出血で死んじゃうわ…」
「余裕な態度で…自信過剰な人ね……!」
「私はね…ここで本気出したらまずいのよ…
だから…さっさと死んで欲しいんだけど…」
チルノがそれに言葉を返そうとした瞬間、
後ろから魔理沙が肩に手を乗せ、
彼女が話そうとしたことを相手に言い放った。
「…。素直にお断りだぜ…そりゃ」
「現実はそこまで甘くないわよ…」
「現実は既に頭ん中に入ってるぜ…
お前の姿が…私に消し飛ばされてる姿をな…!」
「違う!あたいがあいつを氷漬けにするのさ…!」
「ふん…どちらにせよ…ぶっ倒すだけだ!」
2人は同時に相手へと駆け走っていく。
それを妨害するように再び標識棒が放たれるが、
前方から降り注ぐだけではいつも通りで、
パターンを読まれてしまえば回避は余裕だった。
しかし、それは紫の計算の内だった。
「標識棒は質量的にだんだん遅くなる…
なら…今この時代での人々が使う武器なら…
あなた達には初めて見る武器でしょうね…
原理を知らないなら初見では避けれるはずもない」
紫の周囲に隙間が更に展開された。
しかし、その隙間には標識棒を放つ事はなく、
何か黒い鉄の筒が顔を覗かせている。
「あれは…銃か…?」
「あんなの飛んで来ても…問題ないっ…!」
「おいチルノ…無闇に突撃はまずいッ! 」
そう言った直後、魔理沙の脚は血を流した。
痛みを感じてから後々音が響いている事に、
何かよく分からない恐怖を感じていた。
穴が空いた訳ではなく、掠った程度だが、
体勢を崩すには充分なほどの痛みだった。
「魔理沙っ!?」
「やめろ止まるなッ!お前も当たるぞッ!」
「ちっ…一体何がっ!」
「怖いでしょう?普通なら目で追えないもの」
「そんな武器が作れる時代になってたのか…!」
横を通り抜ける空気を突き抜ける音が、
更にその迫り来る物体に恐怖を感じさせられる。
起き上がる時に頭を下げたと同時に、
魔理沙の帽子のど真ん中に弾が撃ち抜いた。
恐怖で避けれると思えなくなり、
半ばヤケクソにミニ八卦炉に火を吹かせた。
「チルノ避けろッ!コイツで突破口を開く!」
「強硬手段で来たのね…だったら…!」
両手で構えられたミニ八卦炉は、
真下に展開された隙間から生えてきたように、
標識棒がそれに衝突し、彼女から手放させた。
魔理沙からの魔力供給源が閉ざされ、
そして魔力を貯めてもなかったミニ八卦炉は、
再び拾いに行かなければ使う事が出来なくなった。
「あいつ…隙間の展開距離…限界なんかない…!
今まで私達を…遠くから弄んでいたのか…!」
「ふふ…今頃気付いても…もう遅い」
更にその隙間から複数標識棒が飛び出し、
魔理沙へ命中し、真後ろへ吹き飛ばした。
当たった額の場所から血を流している。
その威力は凄まじく、一撃で気を失わさせている。
「魔理沙ッ…!」
「次はあなたよ……!」
「私はひとりで飛べる…そんな攻撃じゃあ…
…足元からの攻撃だけじゃ当たらないわ!」
目の前の地面から柵のように伸びる標識棒を、
氷の剣を左右に振り払い切り払っていく。
しかし、先ほど魔理沙を攻撃した物が、
どういう原理か未だによく分からないままで、
遂には自らも命中してしまった。
「なっ……一体何が起きたっていうの……!?」
彼女の肩を貫いたが、彼女は何が起こったかさえ、
全く分からないままであった。
衝撃で剣が大きく彼女の手元から弾かれ、
体勢を崩した彼女はすぐに立ち上がれず、
肩の出血を抑える事しか出来なかった。
その僅かな時間でチルノの周囲に、
隙間が数個展開され、取り囲む状況になった。
「はい、おしまい」
「チッ……何でこんな奴に…!!」
「維持張ったって死ぬ時は死ぬのよ?
今がその『死ぬ時』なのよ? 」
「あたいはまだ…死んじゃいない…!」
その会話が続く度に、チルノはある事に気付いた。
ほぼ回避不可能で、死ぬ事以外許されない状況で、
ひとつの突破口を見つけていた。
紫が声を発する度に、隙間から声が響いている。
「それじゃあ…また地獄出会いましょ?」
「…」
その隙間から無数の弾丸が放たれ、
チルノを囲む全方向から彼女を襲った。
撃ち込まれる度に独特な小高い音が響き、
やがて彼女と隙間を覆うほどの土煙が舞った。
「…死んだかしら……?」
彼女は隣にある隙間を覗きこみ、
そこから向こうの状況を確認した。
しかし、その彼女が覗き込んだ隙間から、
声と共にチルノの姿が飛び出して来た。
「…そこだぁあああああああああッ!!!!!!」
「なっ…いつの間に隙間の中にっ!?」
その隙間から飛び出したチルノは、
全身からかなり出血しているものの、
何故か全て擦り傷程度で済んでいた。
全身を氷で包み、弾丸を滑らしたと紫は予想した。
しかし予想はするも回避が間に合わず、
チルノを銃弾で貫いた時の同じ肩を、
横一閃に氷の剣で切り開かれた。
後々もうひとつ紫が展開した隙間から、
標識棒を放ち、氷の剣を撃ち砕いた。
「なっ…妖精程度にこんなことが…!」
「まだまだ……終わらせないっ!!」
チルノは地面へ着地し、殴りの体勢になった。
そこへ先程から展開されていた隙間から、
無数の弾丸が放たれるも、またもや受け流された。
そして紫へと一気に殴りかかった。
彼女がグーで殴った場所はナイフだった。
ずっと刺さったままだったナイフを押し、
先端が背中から抜き出て、血を吹き出した。
先端を殴った彼女の拳からも血が出ている。
「……なかなか…でも、距離を近づけた、
それがあなたの……運の尽きね……ッ!!」
「なっ…あたいの攻撃に動じないっていうの!?」
痛がることもなく、紫は相手のその腕を掴み、
引き寄せ思い切り地面へ彼女を叩きつけた。
そして、上から頭を踏みつけている。
「ヒールは…踏まれたら痛いわよね……?」
「いっ……くっ…遠距離で戦えるのに…
武術も…お手のものだってことなの……!?」
「おしゃべりねぇ…じゃあこれなら…」
隙間に手を伸ばし、ひとつ銃を手に取った。
その銃弾は片手で持てるサイズの物だった。
「これ、小さいのに威力が変わらないのよ?」
「なっ……何を……!?」
「こうするの」
その銃口をチルノの太ももに押し付け、
そして引き金を引いた。
そして吹き出た血を紫が全身に浴び、
その後遅くチルノが悲痛な声を上げた。
「どう……?痛いでしょ?」
「チッ……なんで……!」
その後もう一度引き金を引こうとするが、
ある事に紫は気を取られてしまった。
真上の青く広がる青空を、
覆い隠すほどの大きな物体が通り過ぎた。
「あれは…確かあの医者まがいが造ってた…
一体…何をする気なのかしら…行くしかないわね」
紫が隙間へ入り込み、姿を消した。
同時に、場所は八意 永琳の周囲へ変わる。
その物体が空を飛ぶまで、永琳と鈴仙2人を、
たったひとりで優位に戦っていた人物がいた。
優位とは言ったものの互いに守りが硬く、
攻撃すら当てていなかった。
その人物はアリス・マーガトロイド。
彼女は今の混戦の内に2人を殺しておこう、
そうすればもっと優位に立てると考えていた。
しかし、その小さな戦場と2人と同じ、
全員が空を飛ぶ物体を見つめていた。
「あなたの基地から出たわよ……あれ」
「師匠…予定が狂いましたね……どうします?」
「乗り込まず、様子見をしましょう……
あのミサイルは…強制的にA国へと飛ぶ。
そして……あの八雲 紫の本拠地に…… 」
「…聞き捨てならないわね…その話。
一体あんなもので…何人殺す気なのかしら…?」
「動きが止まったわよ。アリス…さん」
「なっ……なぜっあなたも!?」
アリスを再び例の気力を奪う結界に閉じ込めた。
しかし、紫ではなく八意 永琳が閉じ込めた。
まさか彼女まで使うとは思わず、
予想外の事に対策をアリスはしていなかった。
その狭い箱の中で人形と共に倒れ込む。
「もともとこれを作ったのは私よ…」
「そんなの…知らないわよ……」
「師匠、止めは」
「このままにしてあげて」
「は、はぁ…?」
「(でも……ミサイルの飛ぶ方向がおかしいわね。
攻撃目標の40度くらい方向が違っている…
まさか…妹紅が裏切った……そんなはずは…)」