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東方project 〜東方少女録〜  作者: mariari
~外界旅立編〜
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それでも戦う彼女の背中

彼女は大妖精を殺した。しかし返り血も何もない。

殺された大妖精の蘇った証拠も残る事もない。

失ったものは何もなかった。

しかし、それで生まれたものはあった。


「…これが理不尽…死んだ奴が…こんな風に…

こう生き返れたとしても……ただの人形なの…!」


消えゆく大妖精の欠片を拾い手の平に乗せるも、

あっという間に崩れて消えてしまった。

その何もない手の平を颯花はただ握り締める。


「許さない…許さない…なんで…!

…殺さなくても良かったじゃない!」

「殺さなければ…君は友人に殺されてる…!

君も傷つき…生き返ったやつも傷つく……!」

「それでも…何か救える手があったはず…!

それを考えないで…2回も大ちゃんを死なせて…

あんたみたいな奴が1番……大ッ嫌い…!!」


嫌いと言われても、何も感じずに反論する。

自分が彼女の立場ならそうしてしまうだろうと、

思ってはいるものの、それでは駄目だと、

彼女の胸の中に届くように願い、言い放つ。


「じゃあ君が死ぬの?護る奴が出来たんでしょ!

死んだ奴は…護ることなんて出来ない!

死んだ奴の為に今を生きるしか私達は出来ない!」


そう言っているも友人を殺した相手には変わらず、

そんな言葉を聞き入れられる彼女ではなかった。

相変わらず弱っている颯花を殴り飛ばし、

それを否定しようと自分の意志を押し通す。

泣きそうな自分自身を勢いで揉み消している。


「それでもやっていい事と悪い事があるのよ…!

自分の意見だけで押し通さないで…!」

「…今の君に大妖精という肩の荷はいらない…!

忘れるなとは言わない…けれど…

いつまでも…死んだ奴に泣き顔を見せるな…!」

「ッ……泣き顔なんか…!」

「お前に…今出来るのは何だ?何が出来る…?

大妖精をまた人形として…蘇らすのか?

泣きっ面を見せて…大妖精を心配させるのか…?

それとも…護りたいものを護り通すのか…!」


颯花はその三択を作り彼女に問いかけた。

ひとつひとつにどれを選ばすのかが、

丁寧に仕込まれていたもののどうやら必要なかった。

チルノは再び颯花を殴り飛ばし答えを言い放つ。


「あたいは…大ちゃんの人形は見たくない…!

それに…心配なんかさせたくもない…

あたいは…!大ちゃんに強くなった所を見せて…!

護るべきものを護り通す…もう何も失わない…!

私が未来を切り開いてみせるんだ…!!!」


彼女はそう相手へと叫んだ。

それを聞くと颯花は心の底でホッとしつつ、

そのまだ再生仕切っていない身体に無理をさせる。

颯花はふたつの模倣能力をチルノへ変え、

そして右手を彼女へと伸ばした。


「護りたいなら…力が必要だ…どんなものにも。

自分自身の許容範囲以上の能力を使えば…

相応に身体に負担は来るかもしれない…

それでも…護り通せると言いきれるか…チルノ」

「…うん…あたいは最大限を尽くす…

あんたみたいな奴の力を借りてもね……」


チルノが颯花のその右手を掴むと、

颯花の周囲の冷気が全て右手を通して移動し、

模倣した力をチルノへと取り込ませた。

チルノは自身の2倍の力を感じている事に、

少し奇妙な感覚をするも、そんな事は気にせず、

そのまま振り向いて紫へ歩み寄る。


「もう……油断はしない…!

護る為に……私は目の前の敵を倒すだけ…!」


颯花の模倣能力はそのせいで完全停止し、

再生機能もなくなり再び危険な状態となった。

意識が朦朧としすぐさま倒れ込むも、

立ち向かうチルノの背中を最後まで見つめていた。

今まで綺麗事を通していた颯花は、

彼女のその綺麗で立派な背中に見とれていた。

本当に信念のある奴は道に迷わないと、

何本もある道をただ真っ直ぐと進んでいる。


「ふっ…それでも戦う少女の勇気ね……。

…あれを憧れても…私は決してなれないだろう…」

「…。…また綺麗事を押し通したのか…

綺麗事では何も出来ないって思ってるくせに…」


意識が朦朧としている彼女に魔理沙は話しかける。

その悲惨な状態を無視して話し掛ける彼女に、

半ば嫌々に颯花は相手へ返答する。


「魔理沙…そう思うなら…それが正しい。

思っている事は伝えなければ伝わらない…

けれど…今更伝えたって何も変わらない。

私は……ただの嫌われ者…今はそれでいい」

「相変わらずだな。私の嫌いな時のお前になってる。

ビルから落ちて頭を打った時が一番マシだった」

「…その時が一番私の嫌いな私だった。

やっぱり…藤原 妹紅は間違っていなかった」


それを聞き、半ば怒りを感じた。

颯花の服の襟を掴んで無理矢理持ち上げる。


「へぇ…あれが…あんな奴が正しいってのか…

お前の中の世界では…あんな理想が…!」

「…」

「…そこの橙と一緒に、隠れ家まで霊夢が送る。

余計な事はするな…そこでじっとして待ってな…」

「…」

「…(こいつ…何を考えてる…?

幻想郷に居た時よりも…不気味に感じる)」


魔理沙は颯花を強く投げ捨て、

自らも目の前の敵へ歩み寄っていく。

完全に颯花と橙を霊夢に押し付ける気だった。

その少し時間が経過した後に霊夢がこちらに来た。

そして、まだ身体に力があまり入らない状態で、

彼女は橙の元へ歩み、抱え持ち上げた。


「魔理沙…ぜんぶ私に押し付けて…全く…」

「あれは…何を考えているのだろうか?」

「分かる訳ないじゃない。いつは知りたいけれど…

今は…この子とあなたに無理はさせないだけよ」

「…」


その何かを考えている颯花の表情に、

再び心の奥底に暗い闇を感じてしまった。

霊夢の想いと似た意志を持てた唯一の存在が、

再び消えてしまうことに悲しさを感じている。


「…あなた…まだ何かをする気なの…?

自分を捨てて、どうしようっていうのよ…」

「私の今の考えは…犠牲者のない平和はない…

そして…今この世界には…正義など存在しない」

「正義がなければ…なればいいじゃない」

「正義があるということは…真逆もあること。

みんなみんな…そして私も自己中心的なんだ」


颯花は行動を起こそうとゆっくり腰を上げる。

その時霊夢が空いた手を差し伸べるも、

それは余計だと思わせるようにあしらう。

立ち上がった彼女は紫と違う方向を向いている。


「また…あなたは変わってしまった。

せっかく…光を見れる側になれたのに…」

「…人の心に光を見せる事が出来れば…

争いも止めたり…八雲 紫ともすぐに分かり合えた。

でも…私には出来なかった…出来ないのなら…

私は出来るだけ闇を取り除くだけだ。

例え自分が…光と闇の…闇へとなってでも…」


人間となった時の颯花とは確かに違った。

あの綺麗事だけで希望を持てていた彼女が、

その綺麗事という言葉を利用して、

自分自身の行動を正当化しているようだった。

再び霊夢は彼女と想いが決別してしまった。


「…まるで人格がふたつあるみたいだわ…

正反対でもなく…本当に思っていることは同じ。

でも…ふたつの目指すやり方がまるで違う」

「…だったらこっちの私が本来の私だ。

もうお前の思う私じゃない。私は…桐初 颯花だ」

「…あなたは何をする気なの…?」


颯花はその見つめる先へと歩き出した。

何をする気かも伝えずに行動が独り歩きしている。

彼女とすれ違った一瞬だけ変化したその目は、

かつて対峙したジーグのような絶望をした、

輝きを持たない真っ黒な瞳だった。


「チルノに一時的に力を貸したのは利用の為だ。

あいつをもっと…精神的に強くさせる為じゃない。

時間さえ掛けてくれれば…例え死のうと…!」


颯花は自分自身の言おうとしていた事を、

それは絶対に言ってはいけないと、

心の中に存在する別の自分が止めに入った。

何故もうひとつの自分が今の言葉を止めたのか、

それはいつまでも理解する事が出来なかった。


「と…とにかく、私は私の道を行く…

それが嫌われる事だろうと…全て間違っていない」

「…それはあなたの身体じゃない…

本当のあなたに戻ることを…私は望んでいる。

だから…それまで颯花に…悪い事をさせないで」


時間が経って、颯花が血を吐くことはなくなった。

どうやら自分の能力を模倣した時に、

そのまま身体が吸血鬼の頃の彼女へ戻り、

そして再生機能が続いているようだった。

人間へと戻り、人の心の光を理解したことが、

再び吸血鬼となり、全て無意味な存在だったこと、

本当に必要なものはそんな簡単なものではないと、

彼女はそれが真実だと信じて疑わなかった。

日差しが強く、再び吸血鬼となった彼女は、

身体中に再び痒みを感じ、意識が若干遠のく。

彼女は向かう方向へ半ば早歩きで進んだ。


「おそらく…例のミサイルは地下にあるな…」


その辺りを見下ろせる基地の屋上で、

相変わらず姿がそっくりなふたりが、

その真下の広場の小さな戦場を見下ろしている。


「なぁ…あいつ、基地の内部に向かってるぞ」

「…あいつ、ミサイルを今のうちに壊す気か?」

「さあな…後を追うしか確かめられない。

一緒に追うか?私…こっちの妹紅」

「ああ…興味が湧いたんでな…さあ…行こう」

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