心の隙間
「周りのことを考える…?ふふ…霊夢らしい」
「紫…もう止めて…まだ戻れる…だから……」
霊夢の悲しみを混ぜたような強気の目が、
逸らすことなく紫を見続ける。
それを紫はただ無駄なことをしてご苦労だと、
惨めや哀れだと感じつつ笑い飛ばす。
「どうせ自分の事しか考えてない……
そんなんだから…どんどん離れていく…
あなたのとっても大切なお仲間達がね…!」
蹴飛ばされた紫はゆっくりと立ち上がった。
依然として霊夢のことを嘲笑っている。
「…自分のことしか考えてないかも知れないけど…
失いたくない…だから取り戻させるのよ…!
心の隙間の奥深くの、本当の優しさを…!」
「優しさだけでは…堕ちた人間は救えないわ…!
もちろん……死んでしまった大切な人も…!」
「大切な人の為に…人を辞めるのは違う…!
あんたのとこの藍も…そんな事望んでない!」
紫が手を掲げると、真横に隙間がひとつ展開され、
そしてそこからひとつの標識棒が放たれた。
それは足元へ撃つ為に放たれた訳ではなく、
ただ殺す、それを感じられるほど、
ただ脳天に真っ直ぐと撃ち放たれた。
まさかいきなり殺しに来た紫に反応出来ず、
棒立ちの霊夢に命中しかけた僅かな瞬間、
魔理沙が横から身体をぶつけて回避させた。
「霊夢っ……何してんだよッ!」
「っ…相手は紫なの…だから絶対分かり合える…」
「甘く考えるな…たとえコイツが紫だとしても…
コイツは敵だ!油断をすれば殺される!」
「…それでも……!」
「甘ったれんな!今までだってそうだ!
分かり合おうとして…そして出来なかっただろ!
コイツの言う通り、優しければ死ぬんだよッ!」
2人が倒れながら言い争っている最中にも、
紫は容赦なく隙間を更に展開していく。
そしてそこから今にも標識棒が放たれかけている。
「…でも……」
「チッ……来るぞ!死にたくないなら生きろッ!」
この状況に焦っている為に言葉がおかしくなるも、
それをお構い無しに前方から標識棒が降り注ぐ。
2人は撃ち落としつつ回避していくも、
その圧倒的な質量の差で近づく事は出来なかった。
しかし、急いで来た2人を追うように、
さとり達がやっとのことで現場に到着した。
さとりが霊夢の隣に着地して、
弾幕を放って標識棒を撃ち落とし援護しつつ言った。
「霊夢さん…。私には…その気持ちも分かります。
…けれど、もう既にこの人は後戻り出来ません」
「…」
そしてアリスの人形達が魔理沙の前に陣形を組み、
彼女は魔理沙の後ろに空から降下し着地した。
前から来る標識棒を人形が持つ武器で弾いていく。
「魔理沙…気になる事があるわ、聞いてくれる?」
「ん…気になる事?」
「…八雲 紫の後ろの軍を見て」
「師匠…八雲 紫の正体が世界に広まりました…
これは…運がこっちに傾いていますよ」
「ええ…これなら…」
2つの軍隊が睨み合っているも、動く気配はない。
しかし、2つの軍隊が睨みつけていたのは、
紛れもない八雲 紫であった。
もともと紫の軍隊が指示通りに動いていたのは、
憎むべき相手を殺す為に志願した兵士達だった。
いつか自分達の憎む相手を殺したがっていたが、
それは力を持つ楽園の住人達への嫉妬もあった。
自分達にはただの人間であり、能力もなく、
世界を変えるほどの力に憧れるも、
世界がその力を持った例の事件の犯人を、
憎悪し見つけ次第殺害を世界の共通目標となり、
そしてその時から力を持つ人間の弾圧を望み始めた。
ただ紫に従っていたのは紫の為ではなく、
能力持ちと犯人の抹殺を望んでいただけであった。
そして、彼らの憎しみは紫も対象となった。
彼女が能力を未闇に使ったのが原因だった。
「代表は俺達を騙して利用した!殺せ!」
「能力持ちは世界にとって脅威だ!殺せ!」
「代表もあの犯人のグルだったんだ!殺せ!」
「殺せ!殺せ!殺せ殺せ殺せ!奴らを生かすな!」
まるで治安の悪い国のゲリラ組織のようだった 。
憎しみで煮えたぎる彼らの身体は動き始める。
その紫の正体や今にも戦争に発展しそうな後継を、
いつまでも何台もの中継カメラが映している。
しかし、動き始めた彼らの前に、
八意 永琳が目の前を立ち塞がった。
「邪魔すんな!他国民如きが!殺すぞ!」
「…」
勢い余るせい一人の兵士が永琳に向かって、
威嚇射撃をしたはずが、それは命中してしまった。
しかし、それは永琳に工作されたものだった。
そして、それをはっきりと中継していたカメラは、
同時に全ての台が謎の爆発を起こし、
世界への報道をその光景から中断させてしまった。
そしてそれを見ていた永琳の軍は、
一斉に手に持つ銃を構え、紫の軍隊へ撃ち放つ。
「(師匠、うまく行きましたよ…!)」
「なっ!俺達の国に喧嘩を売るとは!
身の程知らずな奴等だ!反撃しろッ!」
先に出たのが永琳側だけあって、
圧倒的な戦力差を一気になくすことが出来た。
紫達が戦っている後方で、小さな戦争が起きる。
その戦場を離れ、遠くから見つめる2人は、
ただそれを見つめている。
「見ろよ、お前の嫌いな戦争だぞ?」
「こんな小さいの戦争じゃない。
止めるべき戦争は世界規模の大戦だ…紛争じゃない 」
「あのミサイルは用無しか?…だが、
輝夜はもう手遅れなのは変わらないが…」
「まだ分からない、様子見といこう、私」