分かり合うための対話
「だが、一人で来てどうしようというのだ?」
「1人で来たのは私に自信があるからじゃない…
私が世間で注目されれば…みんなの肩の荷が、
少しだけでも…軽くなると思ったから…!」
「ならばその自己満足で、この状況を覆してみろ」
そう言っているが、紫は何もしない。
本性を隠しているとはいえ、疑問に思うほどだ。
「(…あの神社に寄り道してたら…私も…
絶対間に合ってなかっただろうね…
そこに寄る気持ちもわからない訳じゃないけど…
あえて遅れて別行動しなかったら…後悔が残ってた)」
颯花は手に持つ刺剣をもうひとつ造り出し、
それらを繋ぎ合わせ大きな鎌へ変化させた。
そして、ふたつの模倣能力を咲夜へ変化させた。
最初から全力で軍二つと衝突する気だった。
「…出来るだけ…殺しはしない…!」
時を止めずに、紫の横を素通りする。
紫は今は自分の正体と能力を隠している。
それは楽園の住人=能力保持者という、
世間にそう認識されている為であった。
その為人の意識がない止まった時の中では、
能力を見られる事はない為に妨害をしてくると、
そう予想して発動しなかったのだった。
「…(にとり…今のうちに頼む…!
私が例え死んでしまってでも…
桐柄を……無駄死にさせないで…!)」
紫を含め全ての人間が颯花へ注目する中、
こっそりとにとりが桐柄へ駆け寄った。
そのにとりの姿は7割透明であり、
それは光学迷彩かなにかを装備していた証拠だった。
しかしよく見られれば見つかってしまったり、
効果時間がとても少ないなど複数の弱点を、
なるべくカバーできる為に颯花はやむを得ず、
相手の視線を変えるように突撃せざるを得なかった。
それを事前に聞いていたにとりだったが、
言葉も聞かず隠れ家を颯花は飛び出した為に、
やめさせる言葉を言えなかった。
「(もう変えられない…だからせめて生きて…!)」
それの予備を桐柄に着せ、彼女も透明になった。
そのまま何事もなく去っていくが、
それを気付けるほど颯花に余裕はなかった。
しかし、颯花がいくら突撃しようとも、
向かう方向の2つの軍隊は発砲を1つもしなかった。
それに違和感を感じ、脚を無理矢理止めた。
「(何か……何かおかしい…!)」
時を止めて状況を確認しようとしたが、
その時には既に手遅れだった。
颯花を彼女の周辺ごと、突然結界が取り囲んだ。
薄い膜のような結界が箱の形を成している。
そして、囲まれた瞬間から全身に力が入らない。
彼女は膝をつき倒れ込んでしまった。
力が入らなければ、勿論能力も使えなく、
やがて能力は強制終了を起こしてしまった。
「…!?(ッ…これは…一体…!?)」
「ずっと前に、私を封じた結界だ。
私でも破れない代物だ、貴様では破れまい」
「っ…!(なっ…この程度……!)」
「私には君の言おうとしていることが分かる。
だがね、そんな状態で壊せる代物ではないのだよ」
結界は颯花のいない場所を無くすように、
どんどん縮小していき、
それが更に狭くなり、無理矢理立たせられたほど、
縦長の棺桶のような形に変化していった。
その棺桶型の狭いスペースでは、
颯花の鎌が彼女自身を斬り付けてしまう為、
仕方なくバッチ型に戻すも、身動きが取れない。
抵抗する為に結界に頭突きをするも、
当たり前のように壊すことは出来なかった。
更に、それをしただけでも力尽きてしまった。
「…(これがあったから…余裕な態度を……!)」
「その結界は…内側からは完全に拒絶するが、
外から入ろうとするものは拒まない。
この意味…分からない訳ではあるまい…」
「…(文字通りいや…形通り棺桶ってことね…!)」
彼女はその限界な状態を振り絞りつつ、
少しずつ紫側の方向へ振り向いた。
颯花が本当に見たのは紫の後ろ側の方だった。
そこには既に、桐柄の姿は無かった。
そして、同時に安心感を彼女は得た。
「ふん…棺桶の中で安心感を感じるか」
「…(けど…出来ればまだ死ぬ訳には…!)」
「仕方ない…私が直々に貴様に風穴を空けよう」
紫は地面に落ちている兵士の持っていた銃を広い、
両手でそれを構え、銃口を颯花へ向ける。
その銃口は彼女の額を向いていた。
弾が来ると思い、反射的に颯花は目をつぶった。
「ッ……!?」
しかし、放たれた弾丸が頭部へ当たることはなく、
機械ではない方の脚の膝を撃ち抜いた。
痛みは相応に、そして身体中に激痛として響くも、
動けない彼女は痛がる事すら出来ない。
「…どうした?まだ弾はあるぞ?」
「…(こいつ…痛めつけて殺す気だわ…!
そこまで…憎しみがあるってことなの!?)」
「…次はどこがいいか?言ってみろ」
「……あ……なた…は…」
「…喋れる気力が残っている……何故だ?」
ふと、颯花には口に力が入った。
何故かは彼女にも分からなかった。
しかし、伝えるべき言葉を言う為に、
その絶望的な状況でも、限界を更に絞り出す。
「……あなたは…憎しみで人を傷つけてる…
でも…その憎しみは…一体誰の為だと……」
「自分自身の為だ、もう私には想う相手はいない」
「……もう……それは前にいたことを表す…
想う相手が……いない訳じゃないでしょう…!」
それを聞きつつ、紫は引き金を引く。
そして放たれたひとつの銃弾が脇腹を貫く。
「……よく喋る人形だ……綺麗事しか、
そして口先だけしか物事が言えぬ貴様に…!」
「私は守るべきものを……殆ど失って生きている。
…だから……私には…あなたの気持ちが分かる…」
その向いたままの銃口が再び火を吹いた。
2.3発が連続で放たれ、再び腹部を貫く。
「何を…私の何を分かるというのだ……!
また言葉だけか…生まれた事さえ偽りな貴様が!」
「違う…!偽りなら…勇気なんか持てない…!
色々なものを失って…色々なものを手に入れた…
そんな私だから…今…私にある全てを…
仲間を…悲しみを…後悔を…受け入れて…そして、
例え少しずつでも…前に進むことが出来るから!
迷わず現実を見て…前に進むのよ…八雲 紫ッ!」
「……ふざけるな……ふざけるな……ッ!
ふざけるなぁああああああああッッ!!!!!!」
紫は取り乱したせいで、元の姿に戻った。
しかしそんな事は今は彼女にとってどうでもいい。
ただ彼女は綺麗事を言う彼女の言葉を聞く度に、
反応するように蘇る記憶と決別したかった。
ひたすら狂ったように引き金を引いた。
そして残りの全ての弾丸が次々と放たれる。
発射時の反動によるブレで、腹部のみならず、
颯花の様々な箇所を撃ち抜いている。
「また…いつまでも綺麗事を言ってッ!!
言葉だけでは…世界は変えられない!救えない!
夢を見過ぎたのよ!理想を追い続けるからッ!」
撃ち抜かれる度に結界に血が飛び散り、
狭い棺桶の中を真紅に染め上げていく。
ただひたすら彼女は憎しみで行動し、
その引き金を引く指を離す事は無かった。
「もう私は過去は振り返らない、そう決めたのに!
なのに…!どこまでも深く記憶を掘り返させる!
結局光しか見えない奴が1番死んでいい人間ッ!
世界にとって要らないのはあなたの方なのよッ!」
「苦しんでッ!悔やんでッ!死になさいッ!
あなたみたいなヤツなんかッ!
死んでなきゃああああああああああッッ!!!!」
そう彼女が叫んだ瞬間、彼女を蹴り飛ばすように、
真横の上空から飛び蹴りが襲い掛かった。
彼女の手はそれでやっと銃を手放した。
そして蹴られた反動で大きく後方へ、
転がりつつ吹き飛んでいった。
「…くっ……霊夢…ね……!」
「…。どっちも…馬鹿過ぎよ……どうして…
なんでもっと周りのことを考えてくれないのよ!」