機械仕掛けのその脚で:2
大きな神社にて早苗は目覚める。
彼女の生活は桐柄が居ない以外、
いつも通りの普通の生活が始まる。
「(昨日買い物し忘れたとか言ってたし…
たぶんそれで外出、したんでしょうね)」
少し疑問になってはいたものの、
すぐに帰ってくるだろうと軽く考えていた。
しかし、早起きして毎日欠かさず行っていた、
神社の1人大掃除はされてなかった事や、
玄関に靴が残っていた事に対して少しずつ、
彼女は疑問が心配へ変わっていった。
そして諏訪子や神奈子達が起きて来て、
いつもの通りにテレビに電源が入った。
「っ…!?」
「っ…!?」
2人は思わず机を蹴飛ばしてしまうほど、
立ち上がってしまうほどそれに驚いていた。
神菜子がすぐ隣の台所にいる早苗を呼び掛ける。
「早苗…これ、見なよ」
「…これは……」
それを聞き料理をしている手を止め、
一目散にその部屋に向かった。
そして、そのテレビはとある光景を映していた。
「……桐…柄……!?」
そのテレビは例の基地の広間のような場所に、
そこには椅子に座らされている桐柄が映していた。
そして彼女の周りに武装した2つの軍隊と、
例の変装した紫と永琳と鈴仙、
そして妹紅が2人共揃っている妙な光景だった。
テレビの右上には、
『 あの悲惨な事件の犯人の仲間拘束から処刑に至る 』
そう書かれていた。
つまり彼女が颯花を救けた時に撮られた写真が、
ネットを通し拡散、家まで尾行されていた。
もともと颯花が世間に悪く知られていた為に、
彼女もあの事件の犯人の仲間であり同罪という声が、
世界中に拡散していった結果であった。
早苗は冷や汗と同時に神社を飛び出そうとしたが、
既に神社の周辺にはマスコミ等、
大勢の人間達が取り囲んでいて外に出られなかった。
「落ち着け早苗、今の私達じゃあ何も出来ない…」
「離してください神奈子様!
落ち着いていられる訳ないじゃないですか!
処刑なんて書かれているんですよ!
もうすぐ殺されてしまうんですよ!?」
「焦って動いてみな…私達まで犯罪者扱いされる」
「もうそんな状態じゃないですか!
それに…よく桐柄を見てくださいよ!
右腕が……右腕が切り落とされているんですよ!?」
2人は再びテレビを見直している。
桐柄の足元には彼女のものらしき腕が転がっていて、
彼女自身と椅子が紅く染まっている。
普通ならばこんなものはテレビに映されないだろう。
しかし、あの大量殺人の事件は普通ではない。
あの一件で大きな憎しみを生み出していた。
その憎しみはただ犯人の死を願っていた。
「じゃあ…どうするっていうのさ…」
「早苗…神奈子の言う通りだよ…
私達が助けにいったら…この国には居られない」
「…」
3人は口論になるほどどうしようもなく、
ただテレビからの光景を眺めることしか出来ない。
「……霊夢…さん達がいる」
「なっ…まさか…?」
「…あんた、他所の人間を巻き込むのかい?」
「…でも…絶対救けに行ってくれます…!
彼女に…もし、断られても…私1人でも行きます!」
早苗は再び裏口へ駆け走り、外へ出ようとする。
しかし、それを2人は押さえて離さない。
「なんでですか!?助ける為に拾った命を、
自分達の人生の身代わりにするんですか!?」
「そんな訳ない!助けられるなら助けるさ!」
「そう口だけしか…
2人は言えなくなってしまったんですか!?
所詮…神にとって人はただの道具なんでしょう!?」
それに神奈子は早苗の頬を叩きそうになるも、
取り押さえている諏訪子が後ろで首を振る。
それを見て仕方なく、言葉で返した。
「…道具だったら死にかけの命は捨てているさ!
道で凍えて死にそうな彼女を救ってあげたのはね、
自己満足の為じゃないんだ!
助けたいと思ったから助けたのさ!」
「だったら……また…救ってあげて下さいよ…!
もう…桐柄は他人じゃない…家族なんです…!」
「…」
それと同時に、諏訪子の押さえる力は弱まった。
早苗がゆっくりと外へ出ようとするが、
2人はそれを追って向かおうと出来なかった。
普通なら、それは間違ってはいない。
必死に止めようとするが、声が出なかった。
彼女を止めようと、2人は手を指し求めている。
そして、裏口の扉を開けた。
「あんた達…やっぱりまだここに居たのね」
「……霊夢…さん」
扉の向こう側には霊夢が立ち止まっていた。
彼女はやけに怒っているような表情で、
3人をただ見つめていた。
「あんた達は所詮人の命なんて、
どうでも良いと思ってるんじゃないの?
だからまだここにいるんでしょ?」
「違っ…それは……!」
「だったら…相手の命が懸かってるんだったら、
自分の命を懸けて助けるのが正しい人間よ」
「…」
説教じみた言葉に、更に3人は表情が暗くなる。
それを見て、霊夢は長いため息をついた。
「…遠回しで聞こうと思ってたけど、
時間の無駄ね…だから、はっきり言うわ」
「…」
「…あなた達は彼女を助けたい?」
「……。…………はい」
そう言いつつ、早苗は小さく頷いた。
それを聞き霊夢は目の前にいる早苗の頭を、
やたら強くお祓い棒で殴った。
早苗はその行動に困惑した表情を見せている。
「私達は最初から助ける気だったわ。
もちろん貸し借り付きでね…命を懸けるからね。
…………だから、今のこれでチャラよ」
「……霊夢……さん…!」
「行くわよみんな!隠れ家第1アパート組、
総動員してあの子をあそこから助け出すわよ!
異論なんか聞かないわ!みんな生きて帰るわよ!」
霊夢がお祓い棒を掲げ叫ぶと、
裏口の色々な場所に隠れていたみんなが飛び出す。
魔理沙、さとり、アリス、それに文。
人数は少ないものの、戦力は充分である。
「アパートって…ネーミングセンスないぜ、霊夢」
「うっさい魔理沙、殴るわよ!」
「チルノは橙の相手をしてくれています、
颯花もにとりと一緒に後で来るって言ってました」
「ありがとうさとり、とりあえずこれだけいれば、
戦力的には問題なさそうだし…
後は人の目につかないように飛べれば…」
裏口の近くにもマスコミやら人が集まっている。
このまま飛べば見つかってしまうだろう。
「それなら私達が玄関で時間を稼ぐ、
早苗、霊夢達と一緒に行ってあげて」
「諏訪子様…!」
「もしかしてそれってあたしもかい?」
「もちろん、神奈子も一緒に人々とお話するのさ」
「…仕方ない!2人でなるべく注目を集めるわ。
ほら行きな……怪我して帰ってくるんじゃないよ」
「…はい、悔いのないように頑張ります!」
諏訪子と神奈子が玄関に出て注目を浴びている最中、
霊夢達は一気に例の基地まで飛び立った。
時間は刻刻と過ぎていて、
もうすぐ時間が経過すれば桐柄は死んでしまう。
「……(待ってて…桐柄…!)」
「……あんな人…死んじゃえばいいんです…」
「…」
場所は隠れ家、藍の部屋に移った。
病んだように同じ言葉を繰り返す橙を、
チルノは側にいて励ますが、
目の前にあるそれを見続けている彼女を、
どう言って励ませばいいのか分からなかった。
同じ大切な人を失った同士、
藍が写っている写真を見つめたまま、
彼女達はみんなの帰りをただ待っていた。