空が紅く染まる日
彼女はその先へただ進んでいく。
居るとすればあの場所だ。
館の中での最深部というのなら、
彼女は少しだけ記憶にある場所に思い出がある。
それは彼女が前の館主に名を貰った場所だった。
「あっ。また会ったね…」
「ああ…?…なんか雰囲気変わったな。
何かあったか?…なんか暗いぞ」
「…ほら、これを読んでくれれば分かる」
颯花はそのまま持っていた咲夜の日記を取り出す。
そして魔理沙の手元にその日記が投げ渡される。
魔理沙は妙に古びた本に少し驚いている。
「ちょっと待ってくれ、歩きながら読めないんだ」
「…ああ」
大雑把そうな彼女らしからぬ、
その本を1ページずつしっかり呼んでいる。
読むのは早めだったが、颯花はやたら遅く感じる。
彼女はなるべく早く少女達を止めたいからである。
やがてしばらく時は進み、その後、彼女が一言。
「何かの小説か?」
「…それは現実で起こった事だ」
「…えっ?」
思わず彼女が最初から見返す。
更に待つハメになると思い思わず止めに入るが、
驚いている表情と、嘘話だと思っている表情が、
合わさった奇妙な顔をしている。
その顔のまま颯花を見つめ、気になった部分を、
魔理沙は答えを求めて問いかけた。
「解体されたのは、お前か?」
「……そう」
「…じゃあ、なんで生きてるんだ?」
「…知らない…」
「知らないって……おいおい…」
そのあっけない回答に呆れ顔の魔理沙だったが、
彼女の顔が常に無表情な事に、事実だと確信し、
なんだか可哀想だと思っていた。
とりあえず本を颯花へ返した。
「先へ行こう。貴方も覚悟はある……?」
「ああ…もちろんだ」
2人が更に先へ歩み、奥へ進んでいく。
館中に漂う血の匂いと紅色が増していく。
その匂いに魔理沙は鼻を抑えつつも、
前へ進むことを躊躇うことは無かった。
「…あれか」
「あの向こうに…彼女達が…」
進んでいく廊下のその一番奥の扉が、
やけに一際大きな作りになっていた。
2人で対を成すふたつの扉を開ける。
その開けた扉の向こう側の世界には、
左右に等間隔で天井に連なる大きな柱と、
道の中央に一際紅いカーペットが敷かれている。
そしてその先の終点に陣取っているのは、
巨人用に作られたと思わせるような巨大な玉座。
そこに姉妹の姉が座っている。
彼女がかつての少女達であり、
この昔の館の見をる影もなく、
ただ狂気の紅に染まる館の現館主である。
名はレミリア・スカーレット。
緋色に染まるその瞳は、何を見つめ、語るのか。
そんな彼女に怯えることなく、
魔理沙は少し相手をからかった。
「あんたがここの館主か。
頭のこ↑こ↓、どうにかしてるぜ。
おかげで赤拒絶症になりそうだ」
「そう、精神科に行くことを推薦するわ 」
「おいおい…」
「………レ……」
颯花は思わず声をかける。
前見た姿とどこも変わっておらず、
彼女はどこか懐かしさを感じていたが、
もうすぐ声が出そうな場所で、
息が詰まるように言葉が出なかった。
彼女は最初に名前を呼びたかった、それだけだった。
「あら、貴方は……こんばんは、元館主さん」
「…私は……颯花だ。いや…咲夜の友人だ」
「そう……私には、どちらも同じに見えるわ。
貴方が咲夜を殴ったゼィルでも、あいつでも、
私は殺す。貴方がこの世界を生きていく、
そんな事は誰にも許されない」
「…そうかも…しれないな」
「おいおい…」
魔理沙は話についていけないでいる。
漫才でもしてるのか、真面目に会話しているのか。
自分も少しボケていたので、
人の事を言える身ではなかったが、
少なくともこの凍る空気の中で話す事ではない。
「…咲夜を救ってくれた事は感謝する。
けどな…君達を、非行に走らせはしない。
君達の為にも、咲夜の為にも…」
」……貴方、勘違いをしてない?
私達はね、咲夜の為にしあげているのよ。
彼女を泣かせない為に、皆を殺す。
これの何がいけないのかしら…?」
その言葉に魔理沙は過激なほど拒絶感を感じた。
ただ純粋で真っ直ぐな彼女が嫌いなタイプである。
「…腐ってるぜ、ったく…」
「そうかしら?」
「……どうせ、自分の欲求の為にしてるんだろ…?
血の味を覚えた吸血鬼に、罪悪感などない…」
「フフフ……分かってるじゃない。
聞かないで良かったんじゃないの?」
「疑問は、潰していくのが基本だ…。
私は、貴方に血の味を忘れさせる。」
レミリアは再び馬鹿にしたように笑う。
まるでそれが違うかのように。
「フフッ、血の味は良い物よ。素直で、
身体が満たされる感覚がする。
貴方も吸血鬼でしょ?自分も少しづつ、
血を飲みたくなってるんじゃないの?」
「…」
その言葉に魔理沙は思わず颯花へと振り向き、
相手のそれが事実なのか確かめる。
「…お前……吸血鬼なのか…?」
「…この造られた身体の元が吸血鬼であり、
彼女らなだけだ…確かに、
血を飲みたいと薄々思ってきてしまう。
けど、欲に容易く惑わされる私ではない」
「…そうなのね。けど、何時まで減らず口で、
居られるかしら?」
「……行動に支障はない」
「フフフ…」
魔理沙はそのレミリアの傲慢さに耐え切れず、
とうとう怒り始めていた。
右脚を1歩強く踏み歩き、床を思い切り踏み付ける。
その行動にレミリアは臆する事はなく、
ただ目の前の魔法使いを見つめている。
「お前……いい加減にしろよ…」
「…あら?」
「血ならいくらでもコイツにくれてやる。
けどな、決意している者に、答えてやるのが、
人としての筋ってもんだぜ」
「そうかしら?」
「…こいつ…いつまでも上から言いやがって!」
「やめて。…いいんだ…今は」
魔理沙がそのまま怒りに身を任せ、
相手に飛び込んでしまうのを恐れ、
そっと後ろから肩に手を添えた。
「けど…私に絶対に血に惑わされない…
くれてやると言ってくれたのは本当に、
私は嬉しかったと思っているはずだ」
「颯花…!」
「いくぞ…私達は未来を変える為に戦う」