機械仕掛けのその脚で:1
長々と暗い夜空を飛んで移動し、
自分達の隠れ家にやっとのこと2人は到着する。
その入口前まで2人は会話すらなく、
とても気まずい状況になっている。
颯花は何度も謝ろうと努力はしていたが、
言ったところで状況が変わるはずもなく、
喉のすぐそこでつっかえて言葉が出ない。
「…」
「…」
隠れ家の玄関を開けると同時に、
そこににとりが街から帰ってきた。
颯花の脚を見て驚いていたが、
彼女はその2人が気まずい状況なのを察し、
それを楽にしようとさとりと状況を入れ替える。
「…颯花、その脚の義足の為に、
私の部屋に来てくれ。すぐ終わるから、な?」
「…」
颯花は返事をしないまま頷いた。
そしてさとりが肩を貸しているのを入れ替わり、
そのままにとりの部屋へ2人は移動する。
別れる時も何も言わず、さとりは部屋へ入っていく。
そしてにとりの部屋に入り、
ベッドに颯花を降ろすと同時に、
にとりはその気まずさの原因を聞き出す。
「…何があったか教えてくれ」
「…。私が無理に妹紅と対立して…
あいつが…この組織から出ていったんだ…
私のせいで…さとりはまた仲間を失った」
「…」
にとりは背中の緑色の鞄を下ろし、
そこから部品と工具を取り出して、
義足と思われるなにかを造り始めた。
「…その妹紅はなんて言ってたんだ?」
「…私の身代わりになって…
ミサイルを飛ばす燃料として…その身を尽くせ。
そのミサイルを飛ばせば…やがて始まる、
世界規模の戦争を止められるんだと…。
確かにあいつは間違っていなかったかもしれない。
でも…まだ戦争は始まるなんて決まってない…
私みたいに…急ぎ過ぎたんだ…」
それを聞き、颯花のことも妹紅のことも、
にとりは責める事はなかった。
ちゃんと話せば丸く収まると思っている。
「…それをさとりは知っているんだろ?
なら…ちゃんと分かり合えると思えるんだけど」
「…別世界の妹紅を知ってるだろ?
あれと同じで…話で決められないなら…
ぶつかり合えば…分かってくれると」
「…」
でも、彼女は違かった、彼女は自分の意思を貫いた。
それが世界を見て回った彼女の答えだった。
今にも世界中で多くの人が死んでいる。
しかしその人が救えなくとも、
これからの全ての人の未来を救えるのなら、
どんなに人が死んでも構わないと思っている。
それがどんなに酷い事だろうと、
それで戦争が止められて、途絶える命を救える、
戦争を始める人を殺して、人を救う。
それが彼女の思っている最善策だった。
颯花は人を殺して人を救うのは間違ってはいない、
そこだけは思っていることは同じだった。
しかし、その殺す相手が、罪のない人間なら、
それはただの人殺しと変わらないと思っていた。
必ずしも人を殺して人を救う、
その方法しか人を救えない訳ではない、
もっと多くの人を救い、人を殺さない方法もあると、
そう自分の中で言い聞かせている。
「お互いに間違っているとは言えない…
この意思と意思のぶつかり合いのせいで…
分かり合うという簡単なことが、
人間同士には出来ないのは…悲しいと思うよ。
でも…それを無理に力で解決するのは良くない…
今の私が君に言えるのはそれだけしかない」
「…」
「別に力があるのは罪じゃない…
その力が、どれだけの人間を救えるのか、
どれだけの人間を殺すのかで変わってくる。
君にとってそれが、人を救う最善策なら、
それを曲げずに意思のまま貫けばいい、
そしてちゃんとみんなと分かりあって、
それが本当に正しいのなら、恐れないで進むんだ」
「…にとり…」
颯花は自分の中のそれを言い聞かせているものの、
それが出来ないから人を殺してまで救うのだと、
そう言われることを充分承知の上だった。
自身がついに人間となったと同時に、
人は死ぬ為に生きているのではないと、
そう実感することが出来てから、
自分が今まで殺してきた人間の辛さ、
もっと生きたかったであろうその人間達が、
どんな思いで死んでいったかを再度心に刻まれた。
その生きる為に生きている人間を殺して、
生きたいけど死にかけな人間を救うのは、
それは犠牲の山で出来た偽りの平和であると。
人間を救う為に殺せば、それを糧にし、
人を殺す人間も生まれてきてしまう。
分かり合えるのは、人にとって最大の課題であり、
知力の高い生物としての唯一の弱さである。
私達は全ての相手と分かり合える時が来るまで、
戦い続けなければいけないのかと、
彼女はそれを、いつまでも考えていた。
時刻は次の日の早朝である。
とある大きな神社にて、呼び鈴が鳴った。
「誰ですか……こんな朝早くから…もう」
扉を少女は開けた。
その扉の向こう側には、異常な光景が広がっていた。
まるで軍隊が攻め込んで来たというような、
武装した大勢の人間が彼女を見つめている。
「…お前には国家反逆罪で死刑確定だ。
大人しくこの世界の為に天に召されたし」
「……えっ何…!?」
複数の人間が彼女を取り押さえる。
抵抗しても、普通の少女である彼女が抵抗しても、
ほぼ無駄な悪あがきだった。
しかし、その暴れている最中、右手が一人に触れた。
その触れられた人間は、瞬間にカエルになった。
一瞬軍隊の人間達は硬直するも、
ほぼ意味のない、先ほどと同じ悪あがきだった。
その暴れている彼女を拘束する最中、
そのカエルは踏み潰されてしまった。
しかし、そんな事は今は関係なかった。
「なっ……何だコイツ…!右手に触れるな!
そのまま取り押さえろ!拘束しろ!」
「嫌っ…離して…!助けて早苗っ……!」
早朝である為、まだ早苗達は起きておらず、
そのまま跡形残されず連れ去られた。
彼女は桐柄であるが、なぜ拘束されるのか、
いまだこの現状では分かっていない。