人と人と
「近接が駄目なら…これを受けてみろ…!」
「…どんな攻撃でもッ!」
妹紅は前方へ灼熱の炎の球を撃ち放つ。
その炎の球は人間をちょうど覆い尽くすほどの、
小さな太陽のようなものであったが、
この街の細い裏道では、回避は容易では無かった。
颯花はもうひとつの剣をハート型の盾に変化させ、
突っ切るように前進にその技を打ち破る。
「…なんて熱量…盾状態でも溶けるなんて…!」
「どうした…お前の剣はそんな程度なのか!」
颯花はその溶けた盾を通常の刺剣型へ変化させたが、
異常な熱を持った剣先は今にも溶けそうな状態で、
その状態で斬れるか分からないまま、
それでも颯花は相手を斬れると道具を信じた。
そしてそのまま妹紅へと突撃する。
「まだまだ…こっちは戦える…!」
「時を止めようとも…無駄なんだよ!」
「それでも私は、再び時を止める!
お前みたいな不死身は前にも戦った事がある!
そして不死身は不死身なりの弱点があるッ!」
「何っ…!?」
颯花は再び距離を近付けつつ時を止める。
そして完全に動けない相手の両足を、
刺剣を横に一閃し斬り落とした。
それを蹴り飛ばし、妹紅の場所から離す。
更に剣を持っていない方の腕に、
ほんの少しだけ斬り裂き、傷をつけた。
やがて時は再び動き始め、脚のない妹紅は、
その断面を地面に激突しつつ落下した。
その状況を妹紅はすぐに理解したが、
彼女はその行動の意味までは理解出来なかった。
「脚を切り落としてどうしようと!?
私は不死身だ、再生は容易いぞ!」
「その修復能力が私と同じなら…!
身体の一部の同じ箇所はこの世界上に、
二つ以上は存在出来ないという事だ!」
「どういう意味だそれは!答えろ!」
「脚が消し炭で消し飛ばない限り、
お前の身体は再生を始めることは出来ない!」
例え腕が切り落とされたとしても、
その腕の存在は残っているままであり、
二つ目を生成することは出来ないという、
そんなデメリットが不死身はあった。
反面、消し飛んだりこの世界上から存在が消えれば、
身体は失った部分を再構築することが出来る。
更に切り落とされたとしても、
断面を繋ぐように接触すれば元通りになる。
「そうさ…お前は不死身であるけど、
何本も脚が身体から生えてくることはない!」
「だからどうした…脚がなくても、
私はお前じゃない、弾幕を飛ばせるぞ!」
「なら…私に撃ってみなよ!その腕で!」
妹紅はその地に這い蹲るような状態のまま、
颯花に向けて片腕の手のひらを向けた。
当たれば一瞬で死ぬ熱量の炎を、
彼女は避けようともしていなかった。
「後悔しろ!私の炎で!」
その時、炎は手の平から発生する事は無かった。
二の腕らへんに刻まれたさきほどの傷から、
一気に炎が噴出しただけで、何も出来なかった。
その奇妙な光景に、妹紅自身が驚愕している。
「なっ…なんだこれは!?」
「お前の炎は心臓に生成されていて、
それを体を通して手の平まで流している!
放つ時に、流れるようにお前の身体が光っていた!
それが私の予想を決定づけたんだ!」
「そんな所を見てただけで理解したのか!?」
「私は結果を手に入れる為には、
遠回りでも予想し行動する!私は負けない!」
颯花は左手に熱さと痛みを感じた。
それに反応し自身の左手を見た。
溶けていく剣が少しずつ持ち手まで溶け、
その熱さに腕が悲鳴を上げていた。
そして彼女は手遅れでもそれを投げ捨てるが、
当たり前のように左手に重傷の火傷を負っている。
何故か人間となってしまった彼女は、
その傷は自然と治る事はなかった。
「余所見を……するなぁああああああ!!!」
「しまった…今の私では防御手段が…!」
見ていない間に妹紅の両足は復活していた。
隠さず彼女の後方に投げたせいで、
すぐに見つかり繋ぎ治されてしまっていた。
そしてその治った両脚で駆け抜け、
一気に颯花へと炎の剣を突き刺した。
「(どうせ回避出来ない…だったら…私は!)」
颯花は避けられないその攻撃へ、
剣先に押し付けるように左脚で押し止めた。
彼女の脚の裏から刺さったその剣は、
膝の部分から刃が突き抜けるほど刺さり込み、
颯花に全身へ回るほどの激痛を感じさせる。
「いっ…た……熱さよりも…痛みを感じる…
熱さが痛覚を和らげると…思っていたけど…!
これじゃあ熱さが痛みに変化している…くっ…!」
「こんな状況で喋れる余裕があるのか!」
妹紅は持っている剣の熱量を倍増させ、
一瞬のうちに周囲を溶かし尽くすほどまで上昇し、
炎の剣が刺さっていた颯花の脚は消し炭となった。
見えない片目の視界から火の粉が目に入り、
完全に彼女の視界は潰された。
痛みで地に横たわり目を抑える彼女を、
慈悲なく剣を真っ直ぐ向ける。
颯花は火の粉が入っていない目で見つめるが、
彼女はそれがどこを見ているか分からない。
片脚も潰され、視界も潰された彼女は、
文字通り、詰みの状態になった。
「その目は見えていないだろう?
私を見ているようだけど、別の場所を見ている」
「くっ…私はまだ……!」
「その状態でどうしようと?
それでもまだ…私の身代わりを拒むのか?」
「私は私…お前はお前だ…身代わりなんて出来ない…
…私はする気もない…ほら…殺してみなよ…!」
「なら……望み通り死んでもらう…
お前のその力は……危険過ぎたんだ!」
その炎の剣は空へ掲げ上げられた。
「…後悔しか残らかったのか…私は…!」
そして今にも颯花へ振り落とす状況になった。
颯花の全身に冷や汗が流れたその時だった。
「……さとりか、何をしに来た」
「あなたが、更に堕ちるのを止めに来ました」
「…」
颯花の後方の道から聞き覚えのある声が聞こえた。
そして冷や汗をかいたまま振り向いた。
「私達は確実に戦力を上げています。
みんなが協力してくれれば八雲 紫、八意 永琳、
彼女達を倒せるはず…なのにどうして!」
「そこまであいつらは弱くない……
ましては二人とも国家レベルの組織軍隊…
潰すにはお互いに潰しあってもらう方がいい。
そしてこいつは…何を考えているのかさえ、
私には分からない…お前もどうして黙っている?」
それに対し、物腰を変えず彼女は返答する。
妹紅はゆっくり剣を下ろしたが、
それを持つ手は未だ力強い。
「私は颯花さんがそれを成せるとも、
成せないとも思っていません。
運命は変わらずただ流れるのなら、
私達はそれに…流れていくだけでいいんです!」
「じゃあ世界規模の戦争も認めるのか?
こいつの世界征服を認めるって言うのか!?
甘ったれたことを言うんじゃない!」
「何もしないなんて言ってません…!
あなたのように…止めるべき人は止めなければ…
壊れた世界はさらに壊れてしまう…!」
「だったら…止めるべきなのは颯花だ、
……今私が殺して止めても文句は言えない…!」
そして再び剣は高く掲げあげられた。
しかし、その剣にさとりが手の平から放った輝弾が、
その燃え盛る剣を大きく弾き飛ばした。
妹紅の手に被弾し煙を上げるが、
本気ではないさとりの輝弾程度の傷は、
あっという間に修復された。
「少なくとも…
私は…彼女を止めるべきだとは思えない」
「自分の感情で優劣を決めつけるのか…!」
「あなただって…何も考えずに殺そうとしている!
私が駄目なら…あなたも同類です…!」
「そうやって私だけを…私だけを悪みたいに…!
どうやら私は、誰とも分かり合えないんだな…!」
妹紅の周囲が灼熱の炎に包まれ、
少しずつ彼女の姿を消していく。
「待って下さい…妹紅さん!
私はあなたを否定したわけじゃあ…!」
「もうどうなってもいい……
私は自身の死を持って世界を変える…!
どんなに平和ボケしている自分達が愚かか…
その身を持って…味わってみろ…!」
「……待って…!」
そして彼女の姿は消え、
先ほどの真夏のような暑さは消え失せた。
辺りは悲惨な結果だけが残っている。
「……ごめん…私がすぐに逃げるべきだった…
あいつも…異世界の妹紅と同じように…
ぶつかれば分かり合えると…甘く見てた…でも…
結局私は彼女を…彼女も私を理解出来なかった…」
「…」
さとりは妹紅のいた場所をただ見つめている。
その目はとても悲しい目をしていた。
颯花はそれ以上言葉が出なかった。
左脚を見たが、焼けて傷口は塞がっていた。
それでも立てそうな状態では無かった。
さとりは颯花に肩を貸し、
自分達の帰る場所へ戻っていった。